狂った季節の真ん中で鳴り続けた音楽

狂った季節の真ん中で鳴り続けた音楽
不安定な6月、湿り気が肌にベタベタ纏わりついた曇天の7月、ナイフに似た日差しがざむざむと降り注いだ8月が通りすぎて、鈴虫の声と暴風雨が窓を叩く秋が訪れました。あまりにも忙しなく、あまりの変わりように季節感に耽溺するゆとりもありませんでしたが、殺傷力を高めた四季から逃れて木陰を追い求めるような変化も、これからの時代に向けて受け入れなければならないのかもしれません。
「日本列島やり直し音頭二○二○」収録シングル「日本列島やり直し音頭二○二○」/切腹ピストルズと向井秀徳と小泉今日子とマヒトゥ・ ザ・ピーポーとILL-BOSSTINOと伊藤雄和
「雪虫」収録アルバム『FACELESS MAN』/THE BOOM
「からっぽの町」収録アルバム『ゆらゆら帝国のめまい』/ゆらゆら帝国
「両国風景」収録アルバム『両国風景_江戸のラヴソング 柳家小菊・ひきがたり寄席のうた』/柳家小菊
「矛盾律」収録アルバム『Kitrist』/Kitri

「日本列島やり直し音頭二○二○」
(’20)/切腹ピストルズと向井秀徳と
小泉今日子とマヒトゥ・ ザ・ピーポー
とILL-BOSSTINOと伊藤雄和

「日本列島やり直し音頭二○二○」収録シングル「日本列島やり直し音頭二○二○」/切腹ピストルズと向井秀徳と小泉今日子とマヒトゥ・ ザ・ピーポーとILL-BOSSTINOと伊藤雄和

「日本列島やり直し音頭二○二○」収録シングル「日本列島やり直し音頭二○二○」/切腹ピストルズと向井秀徳と小泉今日子とマヒトゥ・ ザ・ピーポーとILL-BOSSTINOと伊藤雄和

豊田利晃監督の映画『破壊の日』テーマソングのテーマソングは、高田文夫作詞『日本列島やり直し音頭』を潤色した“二○二○”版。演奏を切腹ピストルズ、歌唱を向井秀徳小泉今日子マヒトゥ・ ザ・ピーポーILL-BOSSTINO伊藤雄和が担い、櫓を設けない全てが地続きの音頭に仕上がった。軽快に宙を舞う和楽器の中で電気三味線のエフェクトは雷鳴の如く群雲を切り裂き、《日本もね 私もね てめえもやつらも やり直し》《マスコミ・ネットは炎上商売》と叱咤激励心願成就に皮肉、風刺を痛烈に織り交ぜたパンチラインが練り歩く。怒りを携え、笑いを忘れず、血の管が肌を尖らせるほどに瞳が輝く。からりと軽く、しなやかで強い応援歌にしてプロテストソング。

「雪虫」(’93)/THE BOOM

「雪虫」収録アルバム『FACELESS MAN』/THE BOOM

「雪虫」収録アルバム『FACELESS MAN』/THE BOOM

「島唄」「風になりたい」といった沖縄音階やブラジル音楽の要素を豊潤に取り入れたヒット曲から夏の代名詞のようなバンドとなっているTHE BOOMだが、1993年発表の『FACELESS MAN』に収録されている「雪虫」は火膨れした実験音楽の怪作である。静謐なピアノと宮沢和史のファルセットから始まり、およそグルーブからかけ離れたギターやドラムの鬼火がてんでばらばら四方八方に漂流する。歌謡曲さながらの甘やかな重みを携えた歌詞が綴る愛は崩落するリズムと音色の中で散り散りになって《この手で海に沈められたら》と結ばれるが、アウトロの演奏は滑走路を離陸する飛行機を想起させ、誰も生まれと行く末を知らない雪虫の比喩のようでもある。

「からっぽの町」(’03)
/ゆらゆら帝国

「からっぽの町」収録アルバム『ゆらゆら帝国のめまい』/ゆらゆら帝国

「からっぽの町」収録アルバム『ゆらゆら帝国のめまい』/ゆらゆら帝国

最も美しい3ピースバンドのまま解散してしまったゆらゆら帝国。盛夏に「砂のお城」、晩夏に「通りすぎただけの夏」を聴いた後、あれほどの酷暑を懐かしむほどの涼やかさに、自分以外の人間が消失してしまったかのような緊急事態宣言下の街の静けさを思い出し、再生せずにはいられなかった。涙や悔恨すらない歌詞は《今日のひび割れた俺の残像が 花束を片手に通りをうろつく》《無用になったんだ全て》と真っ白な虚無を淡々と語り、“俺”から“不在の神”へと位相する。肉体から引き剥がされた魂の悲鳴のような間奏のギターだけが情緒を吐き出してうつろな平熱と亡霊の摩擦が起こし、その縁を雄弁なベースラインがぺたぺた歩き回る、乾き果てた彷徨のサイケデリックロック。

「両国風景」(’03)/柳家小菊

「両国風景」収録アルバム『両国風景_江戸のラヴソング 柳家小菊・ひきがたり寄席のうた』/柳家小菊

「両国風景」収録アルバム『両国風景_江戸のラヴソング 柳家小菊・ひきがたり寄席のうた』/柳家小菊

鬱屈とした曇天模様のおかげで、再開した寄席でここぞとばかりに演じられる夏の噺にどうにもこうにも没入できなかった7月。数多の祭りが中止を強いられた今年、唯一打ち上がった花火は高座の上だった。禁じられた不謹慎さを不敵かつ強情な笑みと暑さで溶かす真夏、理性の砕ける音が雑踏にかき消される宵闇。ありし日の過去、あるいはありえた筈の猥雑で賑々しい光景を凛とした三味線と低温で歌い上げる“粋”の結晶。小刻みな抑揚と跳ねる和音が封じ込められた記憶を膨張させ、明かりの落とされた客席と薄墨を振りまいたかのように真っ暗な頭に彩色豊かな火花を散らした。三本の弦と太鼓という究極のミニマリズムを忘却させるほどの力量と技術に唸る。

「矛盾律」(’19)/Kitri

「矛盾律」収録アルバム『Kitrist』/Kitri

「矛盾律」収録アルバム『Kitrist』/Kitri

MonaとHinaによる2人組ユニットKitriが2019年に発表した「矛盾律」は、汗だくの体を引きずって、流されるままに箍の外れる夏の狂乱を落とし込んだかのような楽曲。異界の迷路に突き落とされたグロテクスさと美麗さがモザイク的に展開されるイメージの乱流を喚起する歌詞、個の輪郭が薄らいで融解する繊細なハーモニー、複雑巧緻なピアノの旋律を軸として円陣の如く回るパーカッションは地鳴りを思わせる無機質さと重厚で構築され、バイオリンの音色はそこかしこで息吹く命のように溢れる。言語化される寸前の肉体性が輝く音と技がそこかしこに織り込まれた贅沢さとは打って変わって、心地良い冷たさを包み込んだままするりと滑り抜けるスマートさが素晴らしい。

TEXT:町田ノイズ

町田ノイズ プロフィール:VV magazine、ねとらぼ、M-ON!MUSIC、T-SITE等に寄稿し、東高円寺U.F.O.CLUB、新宿LOFT、下北沢THREE等に通い、末廣亭の桟敷席でおにぎりを頬張り、ホラー漫画と「パタリロ!」を読む。サイケデリックロック、ノーウェーブが好き。

OKMusic編集部

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