くるり主催『京都音博』 オンライン
開催でも京都の街のど真ん中から鳴ら
された『音博』とくるりの真髄

くるり主催『京都音楽博覧会2020 オンライン』

2020年9月20日(日)京都・拾得
2007年から京都の梅小路公園で開催されている『京都音楽博覧会』(以下、音博)。14回目となる今年2020年は、このコロナ禍の影響もあり、オンラインで開催されることに。出演者は、くるり、岸田繁楽団。場所は、京都の老舗ライブハウスとして知られる拾得。
開場の19時からは、9月23日発売のミュージックビデオ集『QMV』に副音声として収録されたメンバーとスペシャルゲストのオーディオコメンタリーが画面に流される。開演の19時半になり、画面には梅小路公園、京都タワー、『音博』の暖簾が飾られている拾得が映り、「宿はなし」のイントロが流れ、「配心」と大きく映されている。そして、事前に公開された岸田繁楽団のマニフェスト「1.誰でも入れる楽団 2.どこでも演奏する楽団 3.なんでも演奏する楽団 です。」も映される。楽団長、作編曲、ギター・岸田を始め、編曲家、コンダクター・三浦秀秋、ヴァイオリン・須原杏、ヴァイオrン・福岡昂大、チェロ・小棚木優、コントラバス・山西葉月、オーボエ・福盛貴恵、クラリネット・副田整歩、ファゴット・浦田拳一、ホルン・米崎星奈、ピアノ・野崎泰弘、ドラム・石若駿という総勢12人。バーカウンターの中に岸田がいて、そこから円状に広がる様に楽団員が配置されている。普段はステージだけに演奏者がいるが、今日は客席も含め、拾得全体を使ってのライブ。本当に“どこでも演奏する楽団”であることが伝わってくる。
岸田繁楽団
最初に「Main Theme」が演奏され、楽団という形態を目の当たりにした時、岸田繁という人は、今まで誰もやっていないことに挑戦する人なんだなと改めて実感する。1曲目終わり、岸田がパソコンで今回の楽曲に関する作業をする姿が映される。1995年、1996年のアマチュア時代には、しょっちゅう拾得で演奏していたとも話す。配信とは言え、拾得でくるりを、岸田繁を聴けるのは凄く貴重なことだ。続く、THE BOOM「島唄」のカバーでは沖縄三線の音色がヴァイオリンで表現され、本当になんでも演奏する楽団であることも伝わってくる。
畳野彩加(Homecomings)
3曲目の荒井由実「ひこうき雲」は、ゲストシンガーとして畳野彩加(Homecomings)が登場。普段、バンドではギターを弾きながら歌っているが、この日はセンターマイクの前で歌うのみ。シンガーとしての畳野の佇まいがとても良く、新たな魅力に気付けた気分になれた。これも『音博』だからこその気付きだろう。
佐藤征史
UCARY
5曲目は岸田がNHK Eテレ『みいつけた!』のエンディングに書き下ろした「ドンじゅらりん」。続く、くるり「琥珀色の街、上海蟹の朝」で、ベースで佐藤征史も登場して、ゲストシンガーでUCARY&THE VALENTINEが登場。ふとUCARYの顔がアップになったが、普段の『音博』では、どんな表情をしているかまでは中々わからないので、これは配信ライブならではの事。何気ない細かいUCARYの表情からも、この楽団の楽しさが伝わってくる。
7曲目くるり「ブレーメン」は、ゲストシンガーで小山田壮平が登場。歌い出しは小山田からで、ファンファンのトランペットも鳴り響く。女性ふたりが静としたら、小山田は男性ならではの動を感じさせる歌声。レコーディングの時の様に両耳を両手で抑え、時には目をひん剥き歌う。終盤の駆け足になっていくメロディー、そして最後のキメと気持ち良く決まる。
続くandymori「1984」の前に、また岸田がパソコン前で作業する姿が映される。「小山田君みたいな人やと割と意図を読み取るのに時間がかかるから」と言いながら、今日いくつかのことを試して、明日聴いたら「オエー!」となっているかも、などリアルな発言を聴くことができた。また、「1984」の歌詞解説をした上で、普段は同業者に凄い曲を書かれたら悔しいと思うはずが、「同業者に、こんなに持っていかれるのは無かった」と曲への想いを赤裸々に語る。打ち上げなのか、呑みの席で語る姿も映されたが、ライブだけでなく、生々しいドキュメンタリーな要素まで入っているのは、とても刺激的だ。
岸田繁
ナポリ民謡「Santa Lucia」は、岸田のみが歌うが、聴いたら誰でもが知っていて口ずさめるとは言え、この曲を選ぶ岸田のセンスも凄いし、イタリア語の歌詞を自分のリズムで歌いこなし、歌い上げる様も凄かった。〆の「Ending Theme」の前にも制作風景での岸田が映され、20年以上、目の前にいる観客に力をもらって返すというライブをしてきた中で、それが無い以上、やったことの無い欲望に舵を切った方が……と真面目に語る。再度、岸田繁楽団のマニフェストが先程の3カ条だけでなく、全文が映される。いろんな音楽をにぎやかに演奏する中で産まれる「気持ち」、「チカラ」、「発見」をお届けすると書かれているが、それを無観客で、画面越しに届ける配信ライブでやり遂げようとしているのだから、とても大変な挑戦だったと想う。1時間弱の新たな試みである岸田繁楽団は、こうして終わった。
岸田繁楽団
そのまま、すぐにくるりが始まる。くるり3人にドラムのBOBO、鍵盤の野崎泰弘、ギターの松本大樹。6人という数字だけ見ると決して少なくない人数だが、先程の楽団と比べると約半分の人数。だが、ストレートで重厚なバンドサウンドが本当に良い。先程同様、やはり向き合う様に囲み合う様に拾得全体を使って演奏される。印象的で美しいフレーズで始まる3曲目「京都の大学生」では、岸田がハンドマイクのみで歌う。「Santa Lucia」でも感じたが、こぶしを想わせる様な力強い歌い回しの凄みに圧倒される。終盤では指揮の様な素振りでバンドを従えていくが、その一挙手一投足から目が離せない。
BOBO
野崎泰弘
松本大樹
5曲目では、「益荒男さん(新曲)」が披露されるが、その前に演奏された「Liberty&Gravity」にも通じる独特の展開がある不思議な世界観に魅了される。6曲目も新曲として、「潮風のアリア」を披露。ザクザクと入るギターに応えるかの様に、どっしりとしたドラムが鳴らされるが、その威風堂々とした楽曲は聴き応えがあり、くるりの新たな代表曲になりそうな壮大さがあった。演奏時間も約7分あったが、くるりには、じっくりと聴かせるミドルテンポのナンバーがよく似合う。ここから、まさしくじっくりと聴かせるミドルテンポのナンバーで、初期からの楽曲「虹」への繋ぎは、かなりの醍醐味があった。この楽曲は阪神淡路大震災を体験した後に作られており、それこそ拾得にしょっちゅう出入りしていた頃ではと……なんて想いながら聴く。
岸田繁
9曲目「太陽のブルース」あたりから、気付くと岸田、佐藤、そしてBOBOの3人だけが画面に映っている。前述の流れにもなるが、これぞ、くるりというどっしりとしたナンバーを長年一緒に演奏してきた男3人で鳴らされる姿は無骨で硬派でかっこいい。そして、一気にドライブがかかる感じで「トレイン・ロック・フェスティバル」へ。走り抜ける感じがたまらない。
佐藤征史
岸田の背中をカメラがとらえ、他には『音博』の提灯だけが映るという場面が無音で映される。その背中で、どれだけのものを背負ってきたんだろうなんて勝手に感慨に耽っていると、お馴染みのイントロが聴こえてきて「東京」へ。京都の街から東京の街に出ていく頃の歌。約23年前の歌だが、東京の街に留まらず、世界の街にも出ていき、様々な音楽を作ってきたくるりが、今こうして原点に立ち戻るかの様に京都の拾得で歌っている姿はエモーショナル過ぎた……。
ファンファン
センチメンタルな気持ちを吹っ切るかの様に「ロックンロール」が鳴らされる。いつ聴いても、光が差す中、開拓していく様な前へ向かう感じがする。一心不乱に音に没頭していく「怒りのぶるうす」、不穏さが漂うインストナンバー「Tokyo OP」、岸田繁楽団でも演奏された「ブレーメン」を経ての「キャメル」。この日、個人的には「キャメル」が一番沁みた。岸田がアコギを弾きながら、《いつまで経っても 変わらないことは 確かなものなんてないことだ 思い描いた未来のことを夢見て さぁ どこまで行けるだろう》と歌う。こんな御時世なので、最後の《さぁ行け行け 陽はまた昇る》という歌詞も真っ直ぐと刺さってくる。
くるり
シンプルさの強みを感じずにいられない中、同じくシンプルさの強みを持つラストナンバー「宿はなし」へ。そういや、最初も「宿はなし」が鳴っていたなと想い出しながら、画面左にスクロールされるエンドロールを眺める。今日は、MCはおろか、自分たちの名前すら名乗っていない。まぁ、でも名乗る必要ないか、『音博』といや、くるりであり、岸田繁なわけだから。そして、彼らが音を鳴らしたら、それが全てなわけだから。いつもと変わらず、京都の街のど真ん中から鳴らされた『音博』。また、あの京都駅からすぐの芝生がある梅小路公園で鳴らされる音を早く生で浴びたい。
取材・文=鈴木淳史 撮影=井上嘉和

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