ズーカラデルの新曲「トーチソング」
が示す、がらんどうの世界に向けたメ
ッセージ【SPICE×SONAR TRAXコラム
vol.18】

ふだんはシレッと何気ない顔で淡々と生きていても、心の奥底にある“本当にやりたいこと”はくすぶり続け、いつか火が付くことをどこかで期待している。もしそんな気持ちを抱えていたとしたら、ぜひ、ズーカラデルの「トーチソング」を聴いてほしい。そのときあなたは、見て見ないフリをしていた自分自身のリアルな感情が沸き上がってくるのを感じるはずだ。
札幌出身の3ピースバンド、ズーカラデル。BUMP OF CHICKEN銀杏BOYZくるりなどに影響を受け、自ら曲を書き始めた吉田崇展(G・Vo)を中心に結成されたズーカラデルが最初に注目されたのは、1stミニアルバム『リブ・フォーエバー』の収録曲「アニー」。鮮烈なバンドサウンドとともに歌われるのは、「ここには既に居場所がない」と街を出て行った彼女に対する思い。輝かしい未来が訪れる気配はない、どこに行けばいいかもわからないという状況のなか、<素晴らしくないけど 勇敢な 泥だらけの 僕らの世界を歌え>とエモーショナルに歌い上げる「アニー」は、リスナーの日常を肯定したいというこのバンドの根本的な姿勢が伝わってくる。
2019年7月にリリースされた1stアルバム『ズーカラデル』によって、それまでの5年間の活動を集約すると同時に、バンドの知名度をさらに上げた彼ら。その先のビジョンを示す最初の楽曲が、9月9日に配信された「トーチソング」だ。
4拍子と3拍子が混ざり合い、不思議な高揚感を生み出すイントロから始まる「トーチソング」。この曲で歌われているのは、理由がはっきりしない侘しさ、そして、何も起こらないとしても、とにかくやり続けようという意思。それを象徴しているのが、というサビのフレーズだ。どんな人もいずれは負けることが決定しているような世界の中で、それでも何かを掴むために生きたいと叫ぶ「トーチソング」のメッセージは、まったく先が見えない2020年において多くの共感を集めるはずだ。トーチソングは本来、失恋や片想いなどを歌ったラブソングの意味。楽曲全体から感じられる感傷的な雰囲気もまた「トーチソング」の魅力だろう。
サウンドメイクの進化も著しい。ギター、ドラム、ベースのシンプルな構成はそのままだが、骨太さを増したリズム隊、鋭利な手触りのギターサウンドを含め、一つ一つの音がビルドアップされている。その結果、吉田が紡ぎ出すドラマティックな旋律、そして、歌詞に込めた感情がさらに際立っているのだ。また、コーラスワークも向上。サビの<響け変な歌声 街の中で>に重なるメンバーのハーモニーは、この曲の聴きどころの一つだ。新たな要素を外から持ち込むのではなく、“自分たちが持っているモノ”を研ぎ澄ますことで、音楽の質やスケールを上げようとするスタンスもまた、ズーカラデルの良さ。それはロックバンドの本来あるべき姿を改めて提示しているようにも思う。
9月23日には「トーチソング」を含む3rdミニアルバム『がらんどう』をリリース。札幌から上京し、生活環境の変化のなかで制作された本作について吉田は、「”わたしもあなたも何者でもないし、何も持ってないじゃないか”という認識と、それを受け入れたり乗り越えたりしたいという気持ちばかりを描写しようとしていた気がします」とコメントしている。まさに“がらんどう”な世界のなかで、火を灯したトーチを手に、意思を持って先に進んでいくズーカラデル。メジャーデビューを機に、彼らの歌はさらに多くの人の感情を揺さぶることになりそうだ。
文=森朋之
ズーカラデル「トーチソング」

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