『w.o.d. presents limited show “
キャパシティ23”』23人限定のライブ
はまさに「楽園」だった

w.o.d. presents limited show “キャパシティ23”』2020.09.20(SUN)神戸・太陽と虎
2020年9月20日(日)神戸・太陽と虎で、スリーピースバンドw.o.d.のワンマンライブ『w.o.d. presents limited show “キャパシティ23”』が行われた。タイトル通り、オーディエンスは23人。新型コロナウイルスの感染拡大防止ガイドラインに沿った結果、入場できるギリギリの人数だ。
ぎゅうぎゅうにひしめき合ったライブハウスで、汗をたっぷりかいて、爆音を浴びる。大好きなアーティストの音楽を仲間とともに聴いて笑い、叫び、「最高だったね!」と語り合いながら、打ち上げでお酒を飲む。新型コロナウイルスの影響で、これまで当たり前だったライブのあり方が変わってしまった2020年。8月に配信リリースされたw.o.d.の最新シングル「楽園」で、サイトウタクヤ(Vo.Gt)は「この世に楽園なんて存在しないけど、音に溺れられるライブハウスの空間だけは楽園だったと思います」とコメントを寄せた。
ライブがやりたい。人数が少なくても同じ空間で大きい音で楽しめる。できることはやりたいと、w.o.d.は有観客ライブに踏み切った。この日のライブは配信なし。完全に現場にいる人たちだけの空間となった。ある意味とても特別な場所だ。この日は『キャパシティ23』にちなんで23曲(+encore2曲)が披露された。約半年ぶりに人前で放たれた轟音と、静かに受け止められる音楽愛と確かな熱気。そこはまさに楽園だった。そんなライブの様子をレポートしよう。
入り口では検温と消毒、コロナ接触確認アプリ・COCOAのインストールが確認された。筆者もライブハウスに足を踏み入れるのは実に半年ぶり。「music zoo KOBE 太陽と虎」という名前通り、ジャングルのように張り巡らされたツタや果物、あちこちに置かれた動物たち。いつも何かが起こりそうでワクワクさせられる会場だ。
会場ではチケット争奪戦を勝ち抜いた強運な23人が既に入場を始めていた。観客は、新型コロナウイルスの感染拡大防止のガイドラインに沿って足元にしるされた動物の足跡の上に立って、一定の距離をあける。一列に4人ずつ。マスク着用。大声禁止。壁にはコロナ感染拡大防止のポスターが貼ってある。本来ならキャパ250人のところ、10分の1以下の人数でのライブ。見慣れた景色とは異なる光景に、一瞬悲しさに似たやり場のない気持ちが胸に湧き上がったが、メンバーは地元でライブが出来るこの日のことを、とても楽しみにしていた。先日サイトウに取材で会った時、「23人って面白いですよね! めちゃくちゃ楽しみです!」と笑顔で話していた。ならば自分も楽しむだけだ。開演前の独特な緊張感に包まれながら、綺麗に整列した23人とスタッフは、はじまりの時を待つ。
w.o.d.
定刻18時。SEが流れステージからのスモークと照明に照らされて、メンバーが登場。フロアからは拍手が起こる。コロナの影響で、彼らのライブは3月1日に渋谷クラブクアトロで行われたナードマグネットとの対バンライブが最後だった。約半年ぶりのw.o.d.の生ライブがいよいよスタート。1曲目は「Fullface」。w.o.d.らしい轟音と歪んだギター、重く分厚いベース、パワフルなドラム、サイトウのシャウトにも似た歌声が腹の底に響き、これぞ生音! と歓喜する。空気を通して音が肌を直接震わせる快感は、やはり配信では感じられない。オーディエンスは声こそ出せないものの、それぞれの場所で体を揺らす。
「Wednesday」「丸い真理を蹴り上げて、マリー。」「lala」と立て続けに楽曲を披露していく。淡々と、平熱感はありながら、一心不乱に爆音を鳴らす。Ken Mackay(Ba)はヘドバンさながらに激しく頭を振りながらベースをはじき、サイトウも体を2つに折り曲げてギターをかき鳴らす。中島元良(Dr)の力強いドラムが爆発力をもって会場に放たれる。めちゃくちゃカッコ良い。彼らの音楽性の特徴であるグランジサウンドがタイトラに響く。日常の鬱憤を吐き出す、かすれた気だるいボーカルに歪みまくったギター。キンキンとハウる音も、久しぶりの感覚で愛おしい。
チューニングを挟み、サビへと向かう盛り上がりが印象的な「スコール」へ。「VIVID」ではサイトウが「うお〜!」と言わんばかりに口を開け、楽しそうに笑顔を見せる。「Vital Sings」では3人のキメがバッチリ決まり、メリハリのある展開とハーモニーで魅了する。中島は時折辛そうな表情を浮かべつつも、全力で激しくスティックを振り下ろす。「KELOID」「みみなり」と続き、ある1つの事実に気づく。この曲順は1stフルアルバム『webbing off duckling』そのままだ。
w.o.d.
MCではサイトウが「久しぶり、w.o.d.です。こっちからの景色すごいですよ。ちゃんと整列されておもしろいです。ありがとうございます(笑)」と挨拶。ドリンクカウンターにいるスタッフと笑顔で大きく手を振り合い、再会を喜ぶ。そして「お気づきの方もいると思うんですけど、今1stアルバムをやったんですね。ノリで盛り上がって23曲やることにしたんですけど、リリースした持ち曲が23曲も曲がなくてですね(笑)。滅多にやらないカバーとかもするんで」との言葉に、客席からは歓喜の拍手! 普段のライブではMCはほとんど挟まないが、この日はサイトウが4月からNACK5で担当するラジオ番組(『w.o.d. サイトウタクヤの“パジャマ de ラジオ”』)で培ったトーク力を遺憾無く発揮していた。
そしてフー・ファイターズの「Everlong」とクーラ・シェイカーの「Hey Dude」をドロップ! 彼らのルーツであるグランジの血を引くバンドのカバー。これは新鮮だ。文句なしにめちゃくちゃにカッコ良かった。オーディエンスも興奮した様子で、大きくタテノリで揺らして応える。
カバーのあとは初期からのアンセム「PYLAMIDS」を投下し、一気にw.o.d.の世界観に引き込んでゆく。ここで新曲「楽園」をプレイ。<楽園なんて存在しない>と歌い出すこの曲は、冒頭で述べたようにライブハウスで演奏している画を思い浮かべて書かれたもの。メンバーの念願がようやく叶ったということになるし、彼らの地元のライブハウスでこの曲を聴ける喜びはひとしおである。真っ直ぐ届けようとする様子がひしひしと伝わってきた。
w.o.d.
そのまま「0」へ。ここからは2ndフルアルバム『1994』の楽曲が披露されていく。どんどん加速するフルパワーのビートと歪んだギター、Kenとサイトウのメロディアスなセッションが繰り出される。大音量の音の波が怒涛のように流れ込み、スリリングさを叩き込んでいく。一方で「ハロウ」や「サニー」では聴かせるメロディーでメリハリをつける。いろんな表情があるのが彼らの魅力だ。曲が終わるたびに、思いっきり歓声を上げたい、拳を突き上げて拍手を贈りたい、そういう景色が早く見たい、と思わずにいられなかった。最高のプレイを見せられているのに、表現に制限があるのはやはりつらい。だが「ハロウ」でサイトウの弦が切れるハプニングがあったり、音源よりも走った演奏の緊迫感など、生ならではの醍醐味を味わえるだけでも本当に幸せだと思える。
ここからはラストパート。ソリッドな「THE CHAIR」、ギターリフのカッコ良さに痺れる「HOAX」でますます会場の熱を上げる。3人でこの轟音を出しているなんて、信じられないほどのパワフルさに圧倒される。
MCでは「弦が切れたり音が止まらんかったり、ライブっぽいですよね。楽しいですね。3月1日にライブやって以降、僕らは人前で演奏ができなくて。ライブを基準に生活してたから、どうすればいいかわからん日がしばらく続いて。その中で曲作って、「楽園」もできたし、こうやってライブもできて、当たり前やったけどすごいなあと思ってます。もしかしたら元通りにはならないかもしれないけど、配信したり、制限ある中でもライブはやっていこうと思うので、皆さんよろしくお願いします」とサイトウ。ライブが出来る有り難さを噛み締めて「セプテンバーシンガーズ」へ。しっとりとしたミドルナンバーが染み渡り、フロアも体を揺らして全身で受け止める。
ここで「新曲やります」と「sodalite」を披露。終わりゆく夏に名残を感じるような、疾走感のあるギターとビートが爽快なロックナンバーだ。<嘘のような青>という歌詞が頭に響き、青い照明がステージを照らす。余韻もそこそこに、ラストナンバー「1994」へ。オーディエンスも喜んだ様子で一緒に体を揺らし、最後まで駆け抜ける。
「ありがとう、バイバイ」とステージを去る3人。少ない人数ながらもフロアから大きな拍手が贈られる。そのままアンコールに進むかと思いきや、「アンコールしてもいいのかな?」という戸惑いが客席から感じられる。この状況下でのライブを理解したオーディエンスの配慮だろう。すかさずタイトラスタッフのアンコールを求める手拍子と、タイトラ名物の鳥の鳴き声(笑)が聞こえてきて、アンコールへ。
w.o.d.
お酒片手にステージに現れたサイトウは「飲まずに(ちゃんと)ライブしたの初めてじゃないかな」とノンアルだったことを明かす。持ち曲を全て披露したあとのアンコール。どうするのかな?と思っていたら、まさかのリクエスト形式でアンコールを募集、「KELOID」「楽園」との声に、「地獄やな(笑)」とサイトウが中島へ一言。え〜、という顔をしながらも、「見とけよ! やってやるよ!!」と気合を入れる中島。「楽園」のドラムはハンマービートといって、ものすごく難しいらしい。中島も2ヶ月練習して習得したそう。かなり辛そうだったが、パワフルさはさらに増し、最後まで渾身の力を込めて叩き抜いていた。
本日2度目の「楽園」と「KELOID」が演奏されるというスペシャルでレアな事態。本当は大声を出したい、拳をあげたい!、というオーディエンスの気持ちが、一層大きく揺れたシルエットから伝わってくる。一気に2曲駆け抜けて、約90分のライブは幕を閉じた。
1stアルバムと2ndアルバム、新曲とカバー、アンコール含めて全25曲を披露したw.o.d.。90分と思えない濃厚な時間で、彼らの歴史と現在が凝縮された素晴らしいライブだった。そして、生の音楽がくれる豊かな恩恵を改めて感じることができた。オーディエンスもライブハウスと音楽芸術へのリスペクトを持って、しっかりルールを守っていた。今はまだこの状況だけど、早く自由に音楽を楽しめる日が来ることを願ってやまない。w.o.d.は現在3rdアルバムの制作中。彼らは前に進んでいく。また生で彼らのライブが観れる日を楽しみにしていよう。
w.o.d.
取材・文=ERI KUBOTA 撮影=日吉“JP”純平

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