Ryohu、メジャーディールを交わし、
新機軸へ──クワイアとともに彼のラ
ップは大きく翼を広げる【SPICE×SO
NAR TRAXコラム vol.19】

Ryohuというラッパーがこれまで歩んできた道のりを振り返ると、そのトピックはじつに豊富で多彩だ。この度、Ryohuはビクター/SPEEDSTAR RECORDSとソロとしては初のメジャーディールを交わし、11月25日に正式な1stフルアルバム『DEBUT』(これまで自主制作を含む複数のEPやフルアルバムサイズのミックステープのリリースはあった)をリリースすることを発表、それに先駆けて冨田恵一冨田ラボ)によるプロデュース、PERIMETRONがMVディレクションを手がけた配信シングル「The Moment」がリリースされた。この「The Moment」は“ビート”の音楽的なアプローチにしても、リリックのストレートなメッセージ性においてもRyohuにとってあきらかに新機軸のものであり、だからこそ駆け足にはなるが、彼のキャリアの軌跡をここであらためてさらっておきたい。
古くは、2009年、現時点では最初で最後のアルバム『第一集』をリリースしたズットズレテルズのMCとして、あるいは東京を代表するヒップホップクルー、KANDYTOWNのMCでありビートメイクも担う中心メンバーとして彼を認識している人も多いだろう。ズットズレテルズが放つ、享楽的でどす黒いファンクネス。KANDYTOWNが編む、クールでスモーキーなマイクリレー。両者に所属するラッパーがRyohuと、2015年に急逝したドカットカット=YUSHIだ。2015年以降のRyohuはYUSHIの遺志も自身の音楽表現に乗せるようにしてラップを刻んでいるように思う。またRyohuはラッパーのキャリアを始動したときからいわゆるバトルシーンとは異なる現場で、ときにはホームグラウンドの一つである下北沢GARAGEのようなライブハウスでもさまざまなミュージシャンとセッションし、フリースタイルの愉楽や多幸感を体現してきた。RyohuがペトロールズBase Ball BearSuchmosといったバンドとも印象的なコラボレーションを果たしてきた背景には、ジャンルの記号性に束縛されず、現場でフィールした音楽家との縁を大切にし、楽曲を通して刺激的に交歓するという彼の信条であり哲学がある。ちなみに近年は鉄壁の盟友関係を築き、互いの作品やライブに参加し合っているTENDRE、AAAMYYYとのトライアングルを最初に繋ぎ合わせたのもRyohuである。
そういった彼のバックグラウンドを思い返しながら新曲「The Moment」を聴くと、さらに感慨深いものがある。まず、冨田恵一がクリエイトしたサウンド=ビートは、この楽曲のために録り下ろしたクワイア然とした女性コーラスの合唱を、バックトラックのメイン素材としてサンプリング的に配置しているのがとても印象的である。このアプローチは冨田ラボの方法論とは一線を画す、あくまでRyohuというラッパーの求心力を最大限に照らすために施された、冨田のヒップホップに対する敬愛を感じさせるもので、そのうえで精緻を極めながら強力なポピュラリティも担保しているアレンジ力にポップマエストロとしての手腕が光る。
ラップ+クワイアの意匠はUSのシーンではトレンドの一つと言っていいほどの広がりを見せており、この「The Moment」もチャンス・ザ・ラッパーの諸作や2019年にリリースされたカニエ・ウェストの9thアルバム『Jesus is King』、最近ではサム・ヘンショウの「Church(feat.EARTHGANG)」などとの同時代性も感じさせる。なるほど、どこまでも自由で粋なRyohuのアティチュードでありヒューマニズムというものを漂白させないままオーバーグラウンドの領域に届けるという意味では理想的なビートと言えるだろう。
そして、Ryohuのフロウは彼特有の鷹揚なダイナミズムをたたえたスケール感を、これまで以上に大きく翼を広げるようなモーションで増幅させながら、2020年に自らが歌うべき“今という人生を謳歌するために必要なこと”をリリックに投影している。冒頭にも書いたが、このストレートなメッセージ性は間違いなく今だからこそ導き出せたものだろう。ゲストボーカルに迎えているAAAMYYYのミューズのような存在感と、字幕設定でリリックが表示できるMVにも注目してほしい。そして、11月25日にリリースされる1stフルアルバム『DEBUT』が本当に楽しみになった。
文=三宅正一
Ryohu「The Moment」

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