SURFACEの
才気あふれるデビュー時を
1stアルバム『Phase』から検証する
SURFACEがデビューした時代
ところが…である。SURFACE がデビューした1998年はCDの売上がピークを迎えた年で、いわゆる“CDバブル”のまさに絶頂期であった。[この年は1990年代で唯一、累計売り上げが2ミリオンを超えるシングルが1枚も出なかった]とやや陰りが見え始めた頃ではあったものの、それでもシングルのミリオンセラーは実に14作にも上った「それじゃあバイバイ」もヒットしたことは間違いないけれども、“この上ない”わけではなく、大量にその上があったのである。また、この1998年は[女性アーティストの当たり年で、宇多田ヒカル、浜崎あゆみ、MISIA、椎名林檎、aiko、Kiroro、鈴木あみ、モーニング娘。など、この年から翌年にかけてビッグセールスを記録する歌手が多く、メディアが彼女たちのことを「1998年デビュー組」と呼ぶことがある]という曰く付き(?)の年でもあった。アルバム『Phase』のチャート2位というのは新人としては大健闘も大健闘、十二分の成績なのだが、同じ週の1位は宇多田ヒカルの『First Love』。[新人アーティストの1stアルバムとしては当時異例の初動売上200万枚超えを記録し、オリコン集計による累積売上765万枚は日本国内のアルバムセールス歴代1位の記録となっている]という『First Love』である。今となっては歴史上の偉人と認識する人がいてもおかしくないほどの超弩級新人がその上に鎮座されていたのだ。“相手が悪かった”という言い方が適切かどうか分からないが、ことセールスを含む音楽シーンにおけるポジショニングを考えると、SURFACEのデビューは決してタイミングがいいとは言い難い時期ではあったとは思う。
以後、SURFACEが発表した音源は、まずシングルは5th「なあなあ」(1999年7月)、6th「君の声で 君の全てで…」(1999年11月)がチャートトップ10入りを果たし、2001年5月リリースの11th「その先にあるもの」までその大半がトップ20を下回ることはなかった。アルバムも、2nd『Fate』(2000年)が『Phase』と同じく2位。3rd『ROOT』(2001年)もトップ10入りしているので、右肩上がりとはいかなかったが、チャート的には安定していたとは言える。あとはてっぺんを奪るだけであったように思う(ちなみに2nd『Fate』が2位の時の1位は平井 堅『THE CHANGING SAME』で、翌週の1位がその年の年間アルバムチャートでも1位となった倉木麻衣『delicious way』で、ここでもまた上には上、超強敵がいた…)。CDバブルに塗れた(翻弄された?)という言い方が適切かどうか分からないけれど、世が世ならSURFACEは天下を奪っていたバンドかもしれないと思うのである。(※上記[]は全てWikipediaからの引用)
鋭く耳に飛び込むフレーズ
3rdシングルにもなった「さぁ」が最も強力だろう。この曲のポイントはサビ頭の《さぁ》である。2文字だ。カタカナにするまでもなく、音節、音階はひとつでしかない。そこに楽曲タイトルにもなった《さぁ》を乗せたのはお見事だと思うし、テンポやその前後の音階でその《さぁ》が強調されるようなサビを作り出したことはほとんど発明と言って良かろう。こちらがどんなに弛緩していても、シャープに耳へと飛び込んで来る音階と言葉。聴き手の意識をピンポイントに刺激するキャッチーさは、彼らならではの比類なきものと言える。この「さぁ」はお笑いコンビのコロコロチキチキペッパーズが『キングオブコント2015』で同曲を大フィーチャーしたコントを披露したことで、リリースから15年振りに再び脚光を浴びることになったが、コロチキがああいうかたちで「さぁ」をネタにしたこと自体、この曲がとてつもなくキャッチーであることの証明だとも思う(※ご存知ない方は“コロコロチキチキペッパーズ さぁ”でググると動画が検索できるので、それを見てもらうのが何よりも分かりやすい)。
M2「さぁ」ほどではないせよ、M9「それじゃあバイバイ」やM10「まだまだ」もなかなか強力だ。「それじゃあバイバイ」はサビ終わりの《バイバイバイ》、「まだまだ」はサビ前の《まだまだ》が鋭く耳に飛び込んで来る。また、M3「なにしてんの」のイントロ、アウトロで聴こえてくる《暗い イヤ イヤ イヤ 辛い イヤ イヤ イヤ》や、サビに重なる《なにしてんの》もなかなか印象的である。彼らのスタッフも、おそらくはメンバーもそれがSURFACE楽曲の訴求ポイントであることをはっきりと自認していたのであろう。前述の通り、シングルにその傾向が表れていることがその何よりの証左であるが、このアルバム『Phase』にもそれを見出せる。本作はM11「冬の終わり」までミッド~スローナンバー、バラードがない。そのあと、M12「ジレンマ」がラストなので、つまり全12曲中、落ち着いたナンバーが1曲しかないのである。まぁ、ミッド~スローがないアルバムなんてナンボでもあるので、ことさらそれが珍しいとは言わないけれども、この時点ではやはりその鋭いキャッチーさこそがSURFACEであり、『Phase』ではそれをことさらに推したのでは、と考えられる(※これはあくまでも個人的な感想であると前置きしておくが)。失礼ながら今聴くとM11「冬の終わり」は入れなくなっても良かったのではないかと思うほどに、この時期のSURFACEらしさのみがグイグイと迫って来るのである。その意味で『Phase』には新人バンドらしい瑞々しさ、清々しさがあって、若さ漲るアルバムという言い方ができるかもしれない。