[Alexandros]川上洋平、ニコール・キ
ッドマン主演『ストレイ・ドッグ』に
ついて語る【映画連載:ポップコーン
、バター多めで PART2】

大の映画好きとして知られるロックバンド[Alexandros]のボーカル&ギター川上洋平の映画連載「ポップコーン、バター多めで PART2」。今回は、ニコール・キッドマンがやさぐれた刑事役で新境地を見せた『ストレイ・ドッグ』について語ります。
『ストレイ・ドッグ』
ニコール・キッドマンが刑事役でレザージャケット着て銃を構えて、みたいなビジュアルだけ見ると、「あ、刑事が主役のアクション映画なのかな」って思うんですけど、アクション要素はありながら、しっかりとドラマを描いてる作品。新境地には踏み入れてるんだけど、ちゃんとニコール・キッドマン節があるんですよね。
アメリカでは2018年に公開されて、二コール・キッドマンがゴールデングローブ賞の主演女優賞にノミネートされたり、他にもいくつもの賞を受賞してる。監督のカリン・クサマはシャーリーズ・セロンの『イーオン・フラックス』も撮ってますけど、女性がヒーロー的な作品を描くのがうまいんでしょうね。演出や脚本も良いと思いましたけど、僕はニコール・キッドマンの演技に持っていかれました。
『ストレイ・ドッグ』より
■ニコール・キッドマンの演技に圧倒された
ニコール・キッドマンが演じるエリン・ベルは17年前に関わった潜入捜査で過ちを犯してしまって、それによって愛する人を失ってしまって以来、ずっとやさぐれてるんですよね。前半で、エリンが情報を得るために男性のオナニーを手伝うシーンがあって。あそこで、「この映画はアクション映画じゃなくて、すごくシリアスな映画なんだな」って思いました。
最初はニコール・キッドマンの凄みのある演技に圧倒されましたね。こんなニコール・キッドマンは見たことない。でも観終わってから頭の中で振り返ってみると、映画としてもすごく良かったなって。『ユージュアル・サスペクツ』的な終盤のどんでん返しの展開もあって、「あそこはそういうことだったんだ」って気付く。結構難しいところはあるので、1回観てわからなかったらまた観ても楽しめるとは思います。
最後まですかっとする感じにはならなくて、渋いままで終わるのもいいなって思いましたね。監督は『ヒート』だったりマイケル・マンの作品も参考にしたみたいですけど、ハードボイルド映画でもあると思うので、それはすごくよくわかります。ハードボイルドって感情を客観的に簡潔に描写するようなテイストがある映画なわけですけど、『ストレイ・ドッグ』の描き方もまさにそうです。
『ストレイ・ドッグ』より
■母と娘ならではの関係性も伝わってきた
エリンの目的は、復讐だったり色々と想像できるんですけど、結局は自分の娘に幸せになってほしいってことなんだろうなって思いました。娘に対し17年前の罪滅ぼしをしたいっていう気持ちもあって、まずはそれを果たさなきゃいけない。その目的を達成するためだけに生きてるっていうか。「私はこの戦いで死ぬかもしれない。何なら死んでもいい。でも、目的は達成するために生きよう」みたいな執念を感じました。
決して褒められた過去を持ってるわけじゃないんだけど、娘への愛情が感じられるシーンもいくつもあって、「良いお母さんだなって」って随所に感じられた。母と娘ならではの関係性が伝わってきたのも良かったですね。
比較的最近観た映画で近いなと思ったのは、『ガルヴェストン』。僕が大好きなメラニー・ロランの監督作品なんですけど、末期がんと告げられたヒットマンがある少女と出会って。今まで人を殺してきたっていう負い目もあるんだろうけど、最後に何かできることはないかっていう思いでその少女を救おうとするんですね。『ストレイ・ドッグ』とストーリーは全然違うんですけど、過ちを犯してしまった人間の最後のあがきみたいなところは重なるなって思いました。『ストレイ・ドッグ』と同じで、やさぐれた状況の中で見つかった目的に向かって邁進するっていう。
『ストレイ・ドッグ』より
■やさぐれた状態になると自分を見つめ直せる
僕は音楽活動で目的を失なってやる気が途切れることはないんですけど、疲れちゃう時はあって。そこでいじけが生まれて、それが続くとやさぐれになる。そうなるともう怒りとかむかつきみたいなネガティブな要素が減ってて、自分のことを見つめ直せたりするんです。「やっぱり自分ってこうだよな」って。諦めにも近い感情なのかもしれないですけど、そこで曲が生まれたりするんです。その歌詞や曲が自分の等身大だったりする。ほんとに吐き出してるって感じなんですよね。誰に共感してもらいたいってわけでもないし、応援ソングでもラブソングでもない、「俺ってこうだよな」っていうもの。そういう時に生まれるものって、自分にとってはすごく大事な瞬間なんです。
エリンも、「過去からは逃げられないし、私はこういう生き方しかできない。こうやって生きていくしかないんだ」って受け止めている。僕の場合は、そういう時間はやっぱりひとりになろうとするし、レザージャケットを着て車の運転したりして、初心を思い出すっていうところに向かったりする。自分に酔っちゃってるのかもしれないですけど、その気分もうまく活用するというか。
どんな仕事をしてても見つめ直す瞬間って必要だと思うんです。それこそ僕はサラリーマンをやってた時はすごくやさぐれてたし(笑)。でもその中でひとりになってそのままの感情を吐き出して、ファーストアルバムの『Where's My Potato?』に入ってる曲たちが生まれた。そこはやっぱり気持ちの持ちようで、やさぐれたとしても決してネガティブなことだけじゃないなって。
『ストレイ・ドッグ』より
■ニコール・キッドマンはアクション映画に移行しなさそうで良い
『ストレイ・ドッグ』でおもしろかったのが、エリンが愛する人を失った後に結婚した元旦那の役名がイーサンで。ニコール・キッドマンの元旦那のトム・クルーズの『ミッション:インポッシブル』での役名がイーサン・ハントなんですよね。単なる偶然だと思うんですけど、妙に意識しちゃいました(笑)。
僕はトム・クルーズと結婚してた時代のニコール・キッドマンが特に好きなんです。中でもトム・クルーズと共演した『遙かなる大地へ』のニコール・キッドマンは超かわいくて。映画自体もすごく良い青春映画ですし。
ニコール・キッドマンって、『ピースメーカー』があったとは言え、あれはジョージ・クルーニーが主演だし、これまでアクションのイメージってあまりないと思うんです。これだけキャリアを重ねて、このタイミングでアクションをやるっていうので僕がパッて思いつくのはリーアム・ニーソンで。『シンドラーのリスト』で注目されて、しばらくは作家性の強いドラマ作品に出る俳優ってイメージだった。『スター・ウォーズ』はアクションシーンはあるけど主人公ではないし。そのあと『96時間』に出て、一気にアクション俳優のイメージがついた印象があります。
トム・クルーズも、最初はそんなにアクション映画のイメージはなかったけど、『ミッション:インポッシブル』からどっぷりアクションにハマって、今ではいくつもアクション映画の代表作がある。でも、『ストレイ・ドッグ』を観て、ニコール・キッドマンさすがだな、アクション映画に移行しなさそうで良いなって感じました。なんか僕偉そうなこと言ってますけど(笑)。
取材・文=小松香里

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