TRI4THの最新アルバム『Turn On The
Light』に詰め込まれたメッセージが
なぜいま光り輝くのか

“踊れるジャズバンド”から“一緒に歌えるジャズバンド”、そして“同じ時代を共に生きるジャズバンド”へと、彼らは着実に進化している。TRI4THのメジャー3rdアルバム『Turn On The Light』は、前作から1年3か月の成長だけではなく、結成14年間の集大成とも言える自信作に仕上がった。先行配信曲「The Light feat.岩間俊樹(SANABAGUN.)」や「For The Loser feat.KEMURI HORNS」を筆頭に、ジャズの即興、ロックの熱狂、ヒップホップの躍動、パンクの疾走、その他もろもろを縦横無尽にミクスチャーした全14曲。コロナ禍の今だからこそ光り輝く、前向きなメッセージを詰め込んだアルバムについて語る、メンバーの言葉もはずんで聞こえる。
時代の転換期のさなかにいて、自分たちがブレずによかったと思うのは、どんな困難も乗り越えていこうという思いはずっと変わっていないということ。
――アルバム、めちゃくちゃ良かったです。前作では“歌う”ということに積極的にトライしましたけど、今回はそれもありつつ、より自然体になった感じがします。
伊藤隆郎(Dr):メジャーレーベルに移籍させてもらって3枚目ということで、1枚目はインディーズ時代を含めてのベストアルバムみたいな感じで、コンセプトとしてシャウト=叫びをジャズに取り込むというアプローチをして。2ndアルバムはその一個先で、みんなでシンガロングしようぜということで、ツアーを回ってきて。さらにそこを自然に咀嚼して、TRI4THなりの歌もの、J-POPらしさというものをどうやって出せるのか?ということに今作ではトライしました。プラス、1枚目と2枚目ではやっていなかった、フィーチャリングアーティストを迎えるということを「The Light」という曲で実現できたり、「For The Loser」にはKEMURI HORNSに加わってもらって、より豪華な1曲に仕上がったり。ようやく自分たちが思うところの、“難しいジャズ”というものを超えていくというか、J-POPフィールドでもっとライトに音楽を聴いているリスナーに対して、垣根を越えていくような僕らのジャズを一つ提示することができたんじゃないか?と思います。
TRI4TH/伊藤隆郎(Dr) 撮影=森好弘
――そういうバンドの進化としての縦軸があって、もう一つ時代性と言うか、コロナの時代にどんなメッセージを発していくか?という横軸の話もあると思っていて。それがアルバム全体のポジティブなムードに繋がっているのかな、という気がします。
伊藤:みなさんもそうですけど、まさに時代の転換期のさなかにいて、エンタテインメントのあり方も変わっていって、正解もまだ見えていない中で、そういう時代における音楽の意義というものもグラグラしているところがあるような気がするんですね。その中で自分たちがブレずによかったなと思うのは、長く続けていく中でどんな困難も乗り越えていこうという思いはずっと変わっていないということで、岩間俊樹さん(SANABAGUN)に書いてもらった「The Light」の詞にも、その精神性が入っていると思います。運命的にこういうタイミングにはなりましたけど、自分たちを鼓舞するものは、コロナであろうがコロナでなかろうが、もともと持っていたと思うんですね。
――はい。なるほど。
伊藤:「For The Loser」に関しても、自分たちの背中を押す応援歌みたいな曲ができたらいいなと思って、コロナ前から作っていましたし、常に自分たちをプッシュしてくれる曲がほしいという思いは、こういうことがあろうとなかろうとブレていなかった。逆にこういう時こそ、そういうメッセージがより必要になったということは、自分たちが音楽に向き合う姿勢が間違っていなかったことだと思っているので。このタイミングでこのアルバムを出すことに、より意味が増したと思っています。
――まさに。じゃあ一人ずつ、アルバム完成の手ごたえと実感みたいなところを聞いてみたいんですけども、まず織田さん、いいですか。
織田祐亮(Tp):本当に多種多様で、何度聴いても飽きない、今までで一番飽きの来ないアルバムになったなと。ぜひ長く楽しんでいただきたいというか、こんな時代だからこそ、自分の人生にとってすごく思い出深い作品になったと思うので、みなさんのお気に入りの一枚になったらうれしいなと思います。
関谷友貴(Ba):前作は、ロックフェスに向けて全力で立ち向かっていたアルバムだったんですけど、今回はバリエーションのある曲調で、リラックスしても聴けるし、前作からの要素も引き継いでいるし、新しいことにもチャレンジできた一枚になったなと思っています。それを象徴するのが、今回のアーティスト写真だと思うんですよ。みんなすっげぇ笑っているし。
――すっげぇ笑ってますね。本当に自然体。
関谷:これがアルバムの、充実した内容になったということを象徴しているなという気がして、お気に入りの写真でもあるし、お気に入りのアルバムでもあるので、この勢いのままツアーに出たいですね。
竹内大輔(Pf):関谷くんも言いましたけど、ロックフェスに出ようというのが去年の大きな目標で、前回のアルバムはフェスのステージが見えるような曲調になったんですけど、今回はフェスを経験してきた自分たちが作れたアルバムという感じがします。昨年ロックフェスに出させていただいて、盛り上がっている瞬間もあるし、エモーショナルな時間だったり、いろんなものが求められるということもわかってきたし、そのあとツアーもして、ファイナルの赤坂BLITZで今までにない規模のワンマンライブをして、その経験を踏まえて作ってきた楽曲だと思うので。ただ盛り上がれというものではなくて、緩急があって盛り上がれるとか、そういう考えが生まれてきて、その中で自分たちの好きなことを詰めこもうということが、根底にあったんじゃないかと思います。
藤田淳之介(Sax):バラエティ豊かというか、いろんな面を出せたなというのが、作り終わった時の実感ですね。結成当初は「自分たちの思うジャズってこういうものじゃない?」という感じで始めて、「お客さんを引き込むためにはもっと圧がないと」とか、「コール&レスポンスを入れたらどうだろう」「フェスに出るためにはどうしたらいいだろう」とか、いろいろ考えて作品を作ったり、ライブを重ねてきたんですけど。ここに来て肩の力を抜いて、「今の自分たちができることは何だろう?」という、いいものを選んでお客さんに投げることができるようになったというか。必死にやってきた結果として、ようやく今だからできるアルバムに仕上がったのかなという気がしています。
――アルバムは1日にして成らず。いきなり傑作は作れないということですね。
藤田:だからこのアルバムは、数か月の期間をかけて作ったものとも言えるけど、今までの14年間かけて作ったアルバムと言ってもいいのかなという気がします。
TRI4TH/織田祐亮(Tp) 撮影=森好弘
――アルバムの中でも特に目立つ2曲、カバー曲の話をしたいんですけども。ポーグスの「Fiesta」と、アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズの「Moanin’ 」という、まったく好対照な2曲をチョイスするところが、実にTRI4THらしいなと思います。
伊藤:そうですね(笑)。
――ポーグスはいかにも、伊藤さん好みだなという気がしますね。
伊藤:バンドの歴史は来年で15年になるんですけど、第一期は結成当初に須永(辰緒)さんにお世話になった時代で、第二期がディスクユニオンのPlaywright時代で、第三期が今のメジャー期だと思っていて。アルバムとしては、新生TRI4THの名刺代わりがようやくできたなという実感があります。前作の『jack-in-the-box』の中の「Sing Along Tonight」という曲は、アイリッシュの要素を取り入れて作ったんですけど、あれはTRI4TH流のポーグス的なアイリッシュパンクはできないかな?というところで作った曲だったりするんですよ。前作ではランシドの「Time Bomb」もやらせてもらいましたけど、自分たちのルーツになっているパンクというものをジャズバンドがやったらどうなる?ということを、もう一回みなさんに提示したいというか、「この曲があったから俺たちのシンガロングの曲はできたんだよ」ということを理解してほしいなと思ったので。
――はい。なるほど。
伊藤:そういう意味で言うと「Moanin’ 」も、メジャー期になって、新生TRI4THをいかに表現していくか?というところでずっと葛藤してきた中で、1枚目、2枚目と、いかにジャズバンドの難しさを封印して、ポップにわかりやすく聴いてもらえるかがテーマだったので。ジャズの即興性の面白さよりは、いかにキャッチーに表現するか?ということにトライしてきたんですけど、そんな僕たちがザ・ジャズみたいなこの曲を表現したらどうなるだろう?と。ジャズを知らない人にも「Moanin’ 」は有名じゃないですか。
――ですね。みんなどこかで聴いたことがあるはず。
伊藤:それを僕らがやることで、ジャズの面白さもそうだし、こんなにキャッチーで踊れるものなんだということを、スカのリズムで表現したり。そういう意味でこの2曲は、今の自分たちのルーツにあたるすごく重要な要素を持っているので、今回生まれ変わってよかったと思います。
――じゃあ、メンバーそれぞれにスポットを当てて、さらに掘っていきます。ずばり“俺のリード曲”はどれですか、織田さん。
織田:全部好きなので、迷うところではあるんですけど。最近ミュージックビデオを公開した「The Light feat.岩間俊樹(SANABAGUN)」という曲は、ミュージシャンの友人から、「《同じフレーズ吹いたって違うんだよ/こいつはライブ 生きる場所》という歌詞はほんとヤバイね」というメッセージをよくいただくんですよ。「勇気をもらった」と言ってくれて。僕もそうで、この間、岩間くんと一緒にブルーノートのステージに立った時に、鳥肌ものの感動がありました。この曲から、岩間くんの歌詞から、すげぇ勇気をいただきまして、今一番、自分にとっての応援歌としてすごく好きな曲ですね。
TRI4TH/関谷友貴(Ba) 撮影=森好弘
――僕も好きです。関谷さんは、どれを推します?
関谷:えーっとですね、「Move On」を聴いてほしいです。強烈に、アドリブで高速スウィングを弾いていて、TRI4THでこんな高速スウィングを弾いたのは何年前だろう?というぐらい、ジャズを封印していたので。いつぶりだろうね? 思い出せないぐらい。
竹内:「TRY AHEAD」(2012年)とか?
関谷:ヤバいね、それだとしたら(笑)。でもあれはフレーズを作りこんでいたから。これは即興で、同じフレーズを絶対に弾けないんですよ。アルバムの1曲目に、勢いある感じをウッドベースで表現したくて、弦高をめちゃくちゃ上げて、音色を良くして、気分はレイ・ブラウンみたいな感じで弾きました。5回も6回も弾くと体力がもたないから、「早くこれをOKテイクにして」と思いながら(笑)。短距離で走り抜けた思い出の曲です。もちろんベースだけじゃなくて、みんな毎回演奏が変わるので、それはジャズバンドの醍醐味だと思うし、前回まで封印していたジャズの要素を1曲目から解放しました。
――素晴らしい。
関谷:ちなみに「Move On」と「EXIT」(11曲目)は兄弟曲で……(以下、ネタバレを含むので割愛。いずれメンバーの口から語られるはず)。
――ああ! なるほど。そうだったのか。
織田:リピート再生してくれるとうれしいですね。
伊藤:1回目はわからないけれど、何回か聴いているうちに、気づくかもしれない。
――伊藤さんは、俺のリード曲、あります?
伊藤:アルバムのリードチューンとしての「The Light」や「For The Loser」にはもちろん思い入れはあるんですけど、それ以外で言うと、「River Side」が好きですね。僕らの最近の楽曲は、すごい時間をかけて作りこんで、パズルをはめていくような作り方をすることが多いんですけど、この曲を織田さんが持ってきてくれた時に、一筆書きな気がしたんですね。「なんで「River Side」なの?」って聞いた時に、「川沿いをランニングしている時にメロディが浮かんだ」と言っていて、「だからこういうメロディなんだ」という景色が描けるというか、いい意味で一筆書きの素敵なメロディだなと思ったので、僕の中での推し曲ですね。
織田:ハナウタのメロディを携帯のボイスメモに入れて、普段はそういう作り方をしないんですけど、珍しくそういう感じでした。
伊藤:それが伝わるのがいいなと思ったんですよ。意図的に奇をてらうわけではなく、素直にキャッチーだなと思ったのが良かったんですね。アルバムの中で唯一と言っていいぐらい、メロディをいじらなかった曲です。
TRI4TH/竹内大輔(Pf) 撮影=森好弘
――では、竹内さん。
竹内:僕はカバー曲が好きなんですけど、オリジナルだったら「Sailing day」。隆郎さんが言ったように、「River Side」はまったくメロディをいじらなかったんですけど、「Sailing day」は一番の難産で、完成するまでに半年ぐらいかかっているんですね。タイトルは最初「KAMINARI」だったんですけど、メロディを変えて、音色を変えて、テンポも変えて、ありとあらゆることをして、正直、途中で嫌いになりかけていたんですけど。
伊藤:やりすぎて(笑)。
竹内:ピアノから始まるから、リハーサルはいつも僕からなんですけど、それも嫌になってきた(笑)。あまりにも弾きすぎて。コロナ禍でスタジオに入れなくなって、解除されて、スタジオに戻ってきて最初に手を付けたのがこの曲だったんですよ。そこからまた時間をかけて、なんとか完成させました。そこまでやったことは、今までなかったんじゃないか?と思います。
――逆に言うと、そのぐらい可能性を感じていたということですかね。「この曲をなんとかしなきゃいけない」と。
竹内:不思議な気持ちなんですよ。あんなに嫌いだったのに、ほっとけないみたいな感じ。7月の配信ライブで初めてやらせてもらって、すごい好感触で、チャットにも“神曲来た!”“イントロがすごく印象的”とか書かれて、あんなに僕が嫌いだったイントロが(笑)。というふうに、思い入れがとにかく強いんですよ。聴くたびにリハの風景やレコーディングの苦労を思い出すので、それもあってこの曲にさせていただきました。
――手のかかる子ほど可愛いってことですかね。じゃあ藤田さん。
藤田:僕は4曲目の「Bring it on」を。サックス大活躍ですから。「Guns of Saxophone」とか、サックスがベースラインを吹くのがTRI4THの特徴ではあるんですけど、この曲も、途中で何度かサックスのフレーズを試してみたりして、より聴き映えのするものを探して、めちゃくちゃ大変だったんですよ。
伊藤:ブレスするタイミングとかね。
藤田:死にそうになって吹いているんですけど(笑)。ライブで見ると、血管切れそうになっていると思うので、そのへんも見どころになるんじゃないかと思います。ぜひ注目してほしい曲です。
TRI4TH/藤田淳之介(Sax) 撮影=森好弘
――みなさん、藤田さんの血管に注目を(笑)。こうして話していると本当にいろんなタイプの曲があって、それぞれに思いも深くて。今出ませんでしたけど、僕は「Corridor in Blue」が好きですね。素晴らしいメロディのスローバラード。
伊藤:バラードでは「Green Field」が僕たちの代表曲だと思うんですけど、“踊れる、叫べる、歌える”というコンセプトを掲げつつも、僕たちの大事な部分として音色にこだわったり、繊細さも持ち合わせているラウドなバンドは、世界でも少ないんじゃないかなと思うので。そういう意味でも、みんなに確実に伝わるバラード曲を一つ入れるのは大事だと思うし、バラード枠がないとアルバムが締まらないだろうというのもあって、最後にハマったピースなので。「Corridor in Blue」はけっこう感慨深い曲ではありますね。
――という、素晴らしいアルバムのタイトルが『Turn On The Light』=明かりを灯せ。いろんな意味にも取れる、元気の出る強いメッセージだと思います。
伊藤:こういう世の中で、コロナの渦中で作っていたので、これが作品として世に出る頃には、状況が少しでも良くなっていればいいなという思いもありましたし、逆にそうじゃなかったとしても、このアルバムが手元に届いて、少しでも元気になってくれればうれしいし。ライブもなかなかできなくて、以前のような状況にはおいそれとは戻れないんですけど、音源を聴いてもらうことにおいては、楽しみ方は自由だと思うので。せめて家の中では、僕たちのいつも通りの楽しいライブを感じてもらえたらうれしいなと思って、ポジティブなタイトルがいいなと思って『Turn On The Light』に決めました。
――このあと、どんな形でもいいので。このアルバムの曲が聴ける、生演奏が見られることを楽しみにしています。
伊藤:現状、確定はしていないですけど、リハーサルはしているので。この状況下でどうやったら楽しんでもらえるのか?ということを、みんなで知恵をしぼって考えていますので。もしもライブが決まったら、不安に思うことはなく飛び込んできていただければ、楽しんでもらえるかなと思います。
(※この取材は9月10日に実施。この後、12月に東名阪ツアーの開催が決定し、発表されました)
取材・文=宮本英夫 撮影=森好弘
TRI4TH 撮影=森好弘

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