ブルーグラスとロックを
クロスオーバーする
偉大なアーティストたちによる
ユニットアルバム
『ミュールスキナー』
他の参加メンバー
フィドルのリチャード・グリーンとバンジョー及びペダルスティールのビル・キースも、ローワンと同様ブルーグラス・ボーイズ出身で、グリーンはクラシックのバイオリニストからフィドル奏者への転身であり、ローワンとはシー・トレインでも一緒であった。キースはスクラッグス奏法だけでなく、クロマティック奏法と呼ばれるバンジョーの革命的な奏法を生み出し、キース・チューナーを考案したことでも知られる。彼らもまた多くのセッション活動をこなす傍ら、いくつかのソロアルバムをリリースしている。
マンドリンのデビッド・グリスマンはローワンとアース・オペラに参加し、2枚のアルバムをリリースしている。グループ解散後はジェリー・ガルシア、ピーター・ローワン、ジョン・カーンらとともにオルタナティブ・ブルーグラス・グループのオールド・アンド・イン・ザ・ウェイを結成、73年にボーディングハウスでの公演を収録したライブ盤の傑作『Old & In The Way』(’75)をリリースしている。グリスマンはモンロータイプのマンドリン奏者として世に出たが、ブルーグラスとジプシージャズなどを融合させたドウグ音楽を生み出すなどのほか、ガルシアとも多数の音源をリリースしている。
本作『ミュールスキナー』について
そのテレビ番組での演奏が素晴らしかったため、ワーナーブラザーズからスタジオ収録の依頼があり、制作されたのが本作『ミュールスキナー』である。テレビ収録時の曲とは2曲(「Dark Hollow」「Opus 57 in G Minor」)しかダブっていない。プロデュースはグリーンと名プロデューサーのジョー・ボイドが担当している。
収録曲は全部で11曲、LP時代のサイドAにあたる前半6曲のうち5曲はビル・モンローに敬意を表し、モンローの十八番が収められている。「ミュールスキナー・ブルース」「ブルー・アンド・ロンサム」の2曲は、ブルーグラスロック的な仕上がりで、クラレンスはどちらもB-ベンダーを使用している。「ブルー・アンド・ロンサム」はクラレンスがリードヴォーカル、キースはペダルスティールを弾いており、グリスマンのマンドリンはモンロータイプの泥臭いプレイを聴かせる。「Footprints In The Snow」「Dark Hollow」「Whitehouse Blues」はブルーグラス・ボーイズを彷彿させる演奏で、クラレンスのシンコペーション効きまくりのギターソロをはじめ、ドライブのかかったグリーンのフィドルとセンスの良いキースのバンジョーなど名演揃い。
「オパス57・イン・Gマイナー」はグリスマン作のインストで、何度も再演されている彼の代表曲のひとつ。「ランウェイズ・オブ・ザ・ムーン」はカントリーロックで、シー・トレイン時代に書かれたローワン作品。「ロアノーク」「ソルジャーズ・ジョイ」の2曲はブルーグラスではお馴染みのインスト曲。バンジョーをオーバーダブするなど、細かい部分まで手抜きのないのがミソである。「レイン・アンド・スノウ」はトラッド曲にもかかわらず、ローワンのアレンジによって彼の自作曲のような仕上がりである。グリーンのブルージーなフィドルソロが絶品だ。ローワン作の「ブルー・ミュール」は名曲で、かつ各プレーヤーの名演が味わえる。この曲がアルバムのハイライトであり、全員のドライブのかかりまくったプレイには脱帽だ。
本作リリース前にクラレンスが亡くなっているので、このアルバムは彼に捧げられている。なお、彼が亡くなる1カ月前には初のソロアルバムのレコーディングがスタートしており、6曲の録音が終了していたが残念ながらアルバムがリリースされることはなかった。うち4曲は後にリリースされたコンピレーション盤『Silver Meteor:A Progressive Country Anthology』(’80)に収録されている。
TEXT:河崎直人