自分らしく、ありのままの自分を愛し
て|映画『アウェイデイズ』原作・脚
本ケヴィン・サンプソン Interview

1979年のイングランド北西部マージーサイド州バーケンヘッドを舞台に、若者たちが自らの拠りどころを探し、絶対的な者へ憧憬を抱き、コミュニティの中で避ける事の出来ない運命にもがき苦しむ様をリアルに描いた映画『アウェイデイズ』。
当時のイギリスは「英国病」で深刻なインフレと不況が同時に進行し、失業者も多く老大国になっていた。また物語りが始まる11月は「不満の冬 (Winter of Discontent)」と言われ、大規模なストライキがあった時期でもある。そしてイギリスの冬は日照時間が短く、鬱になる人も多い。本作では、このイギリスの陰鬱さや失望感を暗いトーンで表現し、英国フットボール発祥の文化“Football Casual(カジュアルズ)”の黎明期を切り取った。
劇中ではJoy Division(ジョイ・ディヴィジョン)、Ultravox(ウルトラボックス)、MAGAZINE(マガジン)、The Cure(ザ・キュアー)など、70年代の終わりに誕生したポストパンクやニューウェーブの楽曲が使われ、冷たく陰鬱なサウンドと内省的な歌詞が、若者の未来に希望を見出せない絶望感や、逃げ場も行き場もなく閉塞感から抜け出せない心情を表しているようにも思う。そうした音楽とリンクするように、自分の体が自分のものだという証拠を得たいが為に何かに依存したり、自らの拠りどころを探し、置かれている環境から逃げ出そうとする若者の姿は、どこか共感する部分があるはずだ。
不安や苦悩を感情に訴えかける『アウェイデイズ』の原作者、ケヴィン・サンプソンは当時のイギリスに何を思っていたのだろうか?1979年の自身を振り返ってもらいながら、映画に登場する若者たちの心情について話してもらった。
※ネタバレを含む箇所があります。

『アウェイデイズ』ストーリー 母親を1年前に亡くした19歳のカーティは下級公務員として働きながら、郊外の中産階級の家庭で悲しみにくれる父、そして血気盛んな妹モリーと暮らしていた。収入のすべてはクラブ遊び、レコード、サッカー、ライブに費やしている。そんなある日、Echo & The Bunnymen(エコー&ザ・バニーメン)のライブでカーティはエルヴィスに出会う。エルヴィスはカーティが魅了されていた悪名高いギャング集団“パック”の一員だった。彼らはピーターストームにフレッドペリー、ロイスのジーンズ、そしてアディダスのスニーカーを履いてスタジアムで常に問題を起こしていた。エルヴィスはカーティに“パック”と付き合うことが危険であることを警告した。それよりもエルヴィスはカーティの様に芸術、音楽、詩、そして死について語り合える友人をずっと待っていた。そして、いつしかエルヴィスはカーティに夢中になっていく。しかし、カーティの“パック”への憧れはエスカレートして行き、エルヴィスの警告にもかかわらず、危険な世界の扉を徐々に開いていくのだった。 ある日の遠征(=Awayday)でカーティは成果を得るが“パック”のボス、ゴッドンに認められることはなかった。自分よりも、謎に包まれた存在のエルヴィスが尊敬を集めていることに苛立つカーティ、自分の想いが届かないことに苦悩するエルヴィス。次第に綻びは大きな傷になっていくのだった……。

INTERVIEW:ケヴィン・サンプソン『ア
ウェイデイズ』

ーー11年の歳月を経て『アウェイデイズ』が日本で公開されました。これまで日本ではほとんどフットボール・カジュアルズの黎明期は紹介されてこなかったので、とても貴重な映画だと思っています。今回、日本で公開されることについて、どう思いましたか?
日本はクールなもののバロメーターだとずっと思っていたので、この映画が日本で公開されるのは私にとっては素晴らしいことです。『アウェイデイズ』は、サッカー、ファッション、音楽、ユースカルチャーなどの世界が細かく描かれています。これらのポップカルチャーのニュアンスは日本では昔からとても重要なもので、カジュアルズのシーンはメインストリームではないかもしれませんが、このカルチャーに間違いなく興味を持って頂けると思っています。日本のファンが非常に目が肥えいることはすでに知っているので、自分の作品がどのように受け止められるのか、とても楽しみです。
ーー書籍版『アウェイデイズ』の発刊から、映画の完成まで20年の期間がありますが、映画化をしようと思ったきっかけを教えてください。
私はリヴァプールのサッカーと音楽のシーンを長い間追っていたので、リヴァプールのサポーターがイングランドの他のチームや都市とは全く異なる服装をし始めているのをリアルタイムで目の当たりにしました。私はそれが大好きでした。それは、リヴァプールのシーンにとってとても特別な時期で、ファッションやポップカルチャーのすべてが大好きだった私は、故郷のリヴァプールで起こっていることはモッズやパンクのような全く新しい若者の革命的なムーブメントだとすぐに直感しました。このリヴァプールのシーンが始まった時、そのカルチャーの中心にいた私は、これは素晴らしい映画になるだろうとすぐに思いましたが、16歳の僕には映画の撮り方なんて全く分からなかったので、代わりに本を書いたのが書籍版の『Awaydays』を書いたきっかけです。
オリジネーター(原作者)にとって意味のある熱意のこもったプロジェクトですが、映画業界が(少なくとも最初は)関心を示さないなんてことはそれほど珍しいことではないと思います。実写化に至るまで、10年、20年、30年を要した映画の例はたくさんありますが『アウェイデイズ』もそうでした。しかし、この映画をみたいと思うファンがいることを私は知っていました。『アウェイデイズ』の舞台となった1979年、私は映画『さらば青春の光』を6日間連続で6回も観ました。私はその映画が大好きでしたし、みんなが『さらば青春の光』を愛した様に、素晴らしい音楽と若者の文化をミックスした『アウェイデイズ』も多くの人に同じように愛されるだろうと思っていました。
何度も映画化が実現しかけては頓挫しましたが常に希望を持ち続けていました。そしてある時、ついにプロデューサーのデイヴィッド・ヒューズがこの小説の映画化のプロジェクトに参加することになったのです。彼はDalek I Love You(ダーレク・アイ・ラヴ・ユー)という、映画にも出てくるEric’s(※リヴァプールのミュージッククラブ)でも演奏したことがあるバンドのメンバーでした。彼はその時代のリヴァプールをよく知っていましたし、その時代のシーンを愛する一人でもありました。こうして、デイヴィッドは『アウェイデイズ』の可能性にかけることになりました。この映画がこれまでに多くの国や文化を超えて、多くの人に届いたということは素晴らしいことだと思います。
ーー『アウェイデイズ』では、カーティもエルヴィスも「生きている実感」や「拠りどころ」を求めているように思いました。ケヴィンさんは1979年のとき、どんな少年でしたか?
私は19歳よりも少し若かったですが、(Eric’sの16歳以下のライブに行かなければならなりませんでした!)、カーティやエルヴィス双方の、自分が置かれた環境から抜け出そうとする若々しい気持ちには強く共感します。労働者階級の公営住宅で育ったエルヴィスは、自分の環境から抜け出せずにいました。文化の影響を受けてキザな態度をとることが“弱さ”とみなされた環境にいた為に彼は、芸術や詩への愛を誰にも見せることはありませんでした。ザ・パックがThe Jam(ザ・ジャム)やThe Specials(ザ・スペシャルズ)、Madness(マッドネス)のような力強く、速い、ポップ・ミュージックを好むのに対し、エルヴィスはもっと難解で、Joy Division(ジョイ・ディヴィジョン)やWire(ワイヤー)、The Durutti Column(ザ・ドゥルッティ・コラム)のような内省的な音楽を愛しています。また、彼はT・S・エリオットのようなかなり暗い詩を愛し、エドヴァルド・ムンクのような暗い心を持った芸術家を尊敬しています。
だからこそ、エルヴィスにとってカーティはソウルメイトのような存在だったのです。カーティは殺伐としたインダストリアルな音楽が好きで、アートや本、アイデアについて語り合うことが出来る友達でした。エルヴィスはカーティに魅了され、カーティこそが現実の世界から抜け出せる方法かの様に思えました。しかし、中流階級の真面目な家で育ったカーティは、ザ・パックでのスリリングな冒険を求めていました。エルヴィスと出会った時、カーティは心のよりどころを見つけたと思ったのです。なんと悲劇的で恵まれないチグハグな関係でしょう。
それぞれが、自分にはない他人の持っているものを欲しがっているのです。特にエルヴィスにとっては少し行き過ぎた結果になってしまいましたが……。
ーー70年代のイギリスは国力や国際的なプレゼンスも低下し、インフレなのに給料も上がらず、経済状況が悪化し、人々の不安が高まっていた時代でしたよね。当時と比べて社会も変わりましたが、パンデミックが社会や人々の心に大きな影を落とし、自分自身を見失ってる人も増えていると思っています。ケヴィンさんには現代社会はどんな風に見えますか?
良くなったことは、少しはあるのではないでしょうか-。もっと正確に言えば、今日の若者は、より明るい明日への希望を我々に与えてくれます。もしエルヴィスが今の若者だったら、憧れや本当の自分を隠す必要性を感じないかもしれません。1979年に北部イギリスの公営団地で育った子供にとって、同性愛者であることはその名を語ることをはばかる愛だったのです。抑圧は『アウェイデイズ』のテーマの一つであり、ギャングが喧嘩や乱暴な行動を通して自分自身を表現する方法は、現代ではあまり見られないものです。また、最近の子供たちは自分の内面やプライベートな自分のことをもっとオープンに話すようになったと思います。メンタルヘルスは今やとても重要なことになりました。ボディイメージ、自己表現、ジェンダー・アイデンティティなどのことは、『アウェイデイズ』の時代にはオープンに語られることはなかったのです。個人的には(非常に自分勝手ですが)、パンデミックの影響で映画の公開を皆さんと一緒に祝うために日本に行けなくなってしまったことを残念に思っています。
ーーもし今19歳だったらどんな少年で、何をしていると思いますか?
とても良い質問ですね。いつの時代に生まれても、ファッション、音楽、サッカー、旅行に夢中になったこと間違いないと思います。それらを追いかける方が、ある意味ではずっと楽なのかもしれない。好きなサッカーチームを追いかけて各地を旅して回るのが大好きだったし、往々にしてそのほうが、世界中を回って旅するより早く、安く済む。10代の頃はとても政治的なことをやっていましたが、今現在、当時の自分が熱狂する様な刺激的な政治家や運動家がいるかどうかは分かりません。未だに反抗することは沢山ありますが、おそらく強く歯向かうのは緑の運動(環境保護問題)くらいでしょう。職業については、私の運命であると信じています……書くことです!
ーーエルヴィスはベルリンへ行きたいと言っていたのが印象的でした。当時の西ベルリンは実験的な音楽やクリエイターに溢れ、ジェンダーへの偏見もなく、自由な街だったと思いますし、David Bowieデヴィッド・ボウイ)も住んでいましたよね。彼がベルリンに行きたいのは憧れからでしょうか?それとも「生きている実感」がほしかったからでしょうか?
その時代のベルリンには、それだけ強い都市伝説の様な神話とオーラがありました。それは、ベルリンの退廃的なキャバレーやジャズシーンについての小説をいくつか発表したゲイ作家クリストファー・イシャーウッドの作品のおかげでもあります。これらの小説に触発されたデヴィッド・ボウイは、LAでのコカインに溺れていた時代を経てベルリンに移住し、ベルリンのボヘミアンな雰囲気を気に入りました。壁の向こうにある街なのに、その実、国境も偏見もなく、芸術的な自由があり、ボウイはLou Reed(ルー・リード)やIggy Popイギー・ポップ)を説得してベルリンへと連れて来ました。粋でオープンマインドでクリエイティブな街の雰囲気は、我々世代が子供の頃に大きな魅力を与え、エルヴィスもベルリンの性的にも開放的な空気の中でうまくやっていけたはずではないでしょうか?ベルリンに行きたくてたまらなかっただろうし、カーティは、そこにたどり着くための手助けをしてくれると思っていたでしょう。
ーー映画のラスト、エルヴィスは自身の愛情を受け入れてもらえない絶望感から自殺を選び、カーティは自身のやってることの虚無さに気づき、新しい日常を歩み始めましたよね。2人は似ていても異なった道を進んだと思いました。
エルヴィスは自殺したのでしょうか?それとも死を装ってベルリンに逃げ込み、全く新しいアイデンティティと共に新しい人生をスタートさせたのでしょうか?『アウェイデイズ』の結末は解釈の自由度が高いと思います。カーティは母親の死後、道を誤った。彼は、人生は不公平だと感じ、悲しみの中で怒りや喪失感の捌け口を探しました。お互いの人生の一瞬だけ、エルヴィスとカーティは互いに分かり合い、お互いの人生の一瞬だけ、物事をわかり始めました。しかし、結局は彼らを別々の人生の方向へと歩みを進めるまでの束の間、ザ・パックと一緒に悪さをする、ただのイギリス北部の二人の子供にすぎなかった。彼らは、そして我々も、自分の思い通りにいくことなんてほんの少ししかないのです。ですが、デヴィッド・ボウイやイギー・ポップ、ジョイ・ディビジョンを聴きながら、彫刻家として成功し、本当の愛をみつけノイケルン(※ベルリン南東部にある地区)で暮らしているデイヴィットを願っている私がいます。
ーー若者たちが自らの拠りどころを探し続けるのは、いつの時代も変わらないと思います。自分に合った拠りどころはどうやったら見つかると思いますか?
いつも、いつも、いつまでも、自分らしく、ありのままの自分を愛してあげてください。

映画『アウェイデイズ』予告編

映画『アウェイデイズ 』プレイリスト

映画『アウェイデイズ 』 監督 : パット・ホールデン 脚本 : ケヴィン・サンプソン 原作 : ケヴィン・サンプソンç 出演 : スティーヴン・グレアム、ニッキー・ベル、リアム・ボイル、イアン・プレストン・デイヴィーズ、ホリデイ・グレインジャー、サシャ・パーキンソン、オリヴァー・リー、ショーン・ワード、マイケル・ライアン、リー・バトル、レベッカ・アトキンソン、ダニエレ・マローン、デヴィッド・バーロウ、アンソニー・ボロウズほか 2009年 / イギリス映画 / 英語 / 原題 : AWAYDAYS 配給 : SPACE SHOWER FILMS 10月16日(金)より新宿シネマカリテほかにてロードショー 以降、全国順次公開 (c)RED UNION FILMS 2008 アウェイデイズ公式サイト

【関連記事】

DIGLE MAGAZINE

プレイリスト専門webマガジン「DIGLE MAGAZINE」。最新&話題の音楽プレイリスト情報、インタビュー、イベント情報をお届けします。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着