RADWIMPS デビュー15周年を記念した
横浜アリーナワンマンで示した、ライ
ブエンタメの新たな可能性

RADWIMPS 15th Anniversary Special Concert 2020.11.23 横浜アリーナ
『RADWIMPS 15th Anniversary Special Concert』は、タイトルどおりRADWIMPSのメジャーデビュー15周年を記念する公演だ。11月22日と23日の2日間、横浜アリーナで有観客&生配信という形で開催された。この2020年は新型コロナウイルスの影響により、初のドーム公演を含む『こんにちは日本 ~KONNICHIWA NIPPON~ TOUR 2020』の全公演延期やワールドツアーの中止に見舞われたけれども、こうして晴れてメモリアルな舞台を迎え、しかもそれはライブエンターテインメントの新たな可能性に挑む、驚くべきステージになった。メジャーデビューシングル『25コ目の染色体』発売からちょうど15周年を刻んだ、11月23日の模様をレポートしたい。
photo by Takeshi Yao
横浜アリーナのセンターフロアを丸々使用した広大なステージを、アリーナ席とスタンド席から360°のオーディエンス(ソーシャルディスタンスにも配慮)が取り囲み、熱い視線を送る会場レイアウト。頭上のスクリーンには、街ゆく人々が一様にマスクをした姿の、コロナ禍の風景を用いたイントロ映像が流れる。会場オーディエンスには、歓声や歌といった大きな声を出さないよう求められているけれども、温かな拍手に迎えられた野田洋次郎(Vo/Gt/Pf)、桑原彰(Gt)、武田祐介(Ba)、そしてツインドラムのサポートメンバーにはお馴染みの森瑞稀と、初参加となる繪野匡史(エノマサフミ)が加わり、静謐なサウンドで「タユタ」を切り出す。メンバーの足元にはCO2が立ち込め、幻想的で美しい視界だ。
photo by Takeshi Yao
続いて、背後からの照明にシルエットを浮かび上がらせながら「グランドエスケープ」のピアノイントロを奏でる野田。のっけから大音量で叩きつけるというよりも、今の世界にじっくりと音楽を染み渡らせてゆくライブになっている。ここで、広いステージに幾つかの光の粒が現れ、数を増しながら次第に中央に寄り集まってきた。なんと、ステージの床全面がLEDのスクリーンパネルに覆われており、さまざまな映像演出がもたらされる仕掛けになっているのだ。まるで銀河の星々の中を駆け抜けてゆくような視界の中、オーディエンスの手拍子に後押しされたRADWIMPSは、あらゆるしがらみを断つ解放のコーラスへと傾れ込む。桑原や武田も、凛と正面を見据えて歌っていた。
photo by Takeshi Yao
エモーショナルなファンキーロック「DARMA GRAND PRIX」で加熱すると、野田は会場や配信画面の向こうのオーディエンスに挨拶し、英語でも同様の言葉を伝える。「コロナがイラッとするくらい楽しみましょう」と呼びかけて、この2020年に数多くリリースした楽曲のうちのひとつ「新世界」へと向かっていった。現代的なトラップビートをバンド解釈する演奏の中、繪野はスタンディングの姿勢でパーカッションのサウンドを繰り出している。「シュプレヒコール」では、歌詞がメンバーの足元に縦横無尽に描かれるCGアニメーションの演出も刺激的だ。続く「パーフェクトベイビー」は、野田がセグウェイを器用に乗り回しながらステージ上を移動して歌うさまも楽しい。
photo by Takeshi Yao
このアニバーサリーライブ2デイズの前日には、ボクンチ(有料会員サイト)会員限定でオーディエンスを募った公開ゲネプロ(本番を見据えた通しリハーサル)が行われたのだが、筆者はそのゲネプロを現地観覧させてもらい、23日の公演を配信で視聴した。配信では、ステージ床の映像演出を真上からのカメラアングルで分かりやすく捉える場面などもあり、当然メンバーの表情や一挙手一投足をつぶさに確認できるメリットもある。見どころを押さえたプロフェッショナルな配信だ。一方で現地観覧では、広いステージを所狭しと跳ね回るメンバーの姿や、ステージ演出のダイナミックな動きを俯瞰して見ることができる利点がある。優劣の問題ではなく、それぞれに長所があるということ。コロナ禍はライブエンターテインメントを停滞させたが、映像配信の技術やアイデアを飛躍的に向上させるトリガーにもなった。RADWIMPSが今回のライブを通じて証明してみせたのは、逆境に立ち向かう人々が生み出した新たな価値だ。
photo by Takeshi Yao
勇敢な航海に乗り出す「NEVER EVER ENDER」ではステージの床が海のように波打つポリゴンCGの演出が持ち込まれ、野田が指揮者のように振る舞う「おしゃかしゃま」の恒例バトルセッションが熱狂を育む。「G行為」では、妖しいバンドグルーヴの中で怪物のように肥大化した自意識を、前衛的なダンスで視覚化するダンサー陣(振付監修は吉開菜央)の活躍が素晴らしい。「花火大会」と題されたダンスパフォーマンスを経る間に、野田、桑原、武田の3人はシックでエレガントな内装が施された別室へと移動。桑原のマンドリンや武田のウッドベースが柔らかく美しい音色を奏でる“お風呂あがりの”を披露し、エレクトリック編成でプレイされる“やどかり”ではダンサー人とパレードを繰り広げるようにメインステージへと帰還を果たす。聴覚も視覚も、そして心も満たされるライブだ。
photo by Takeshi Yao
photo by Takeshi Yao
そして野田は、コロナ禍の人々に寄り添うように語り出した。「このタイミングだからなのか分からないけど、世の中もどこかギスギスしているような感覚が僕にはあって」「突飛でエッジが効いてて、人が目を背けられないくらい威力のある、そういうずるい言葉だったり思いみたいなものが、蔓延っていて。人の気持ちをどんどん窮屈にしているような気が、僕はしています。悲しいかな、事故や病気や災いじゃなくても、自分の命を絶ってしまう人が増えてきて」「傷つきやすかったり、人の言葉の1を10にも20にも30にも受け取ってしまうような、そういう繊細な魂というか優しい心が、どうかどうかずっと生き続けられるような世界であってほしいと、心から願っています」。
photo by Takeshi Yao
そんなふうに重く、しかし大切な言葉に続いて披露された「棒人間」では、野田のピアノを取り囲むように立っていたダンサー陣の影法師が一人でに踊り回るという不思議な映像演出が用いられ、歌のフィニッシュと同時に実体と影法師がひとつに重なる。「螢」は、ダンサー陣の手にしたペンライトの光が螢のように舞い、また吊り下げられた無数のLEDがコンピューター制御によって宙空に模様を描き出すドットイメージの演出も美しい。「告白」そして「記憶を呼び起こす瀧」と題されたドットイメージの時間に続いては、「トレモロ」に「有心論」、そして渾身のシャウトも飛び出す「ます。」と、エモーショナルな人気曲の連打で再び加熱していった。あらためてオーディエンスに感謝の思いを伝え、またライブの総指揮を担った谷聰志をはじめ大勢のスタッフへの拍手を促すと、本編は幽玄のサウンドに包まれた「バグッバイ」のメッセージで締め括られる。
photo by Takeshi Yao
オーディエンスがスマホのライトを灯して迎えたアンコール。ここでは前日のAimerに続き、スペシャルゲストとしてハナレグミこと永積崇が呼び込まれる。野田が「日本で一番尊敬するシンガー」と称賛を惜しまないハナレグミと、2015年に提供したナンバー「おあいこ」を美麗なスイッチングボーカルで披露するスペシャルな一幕だ。さらに、「心の中で大合唱したいと思います!」と呼びかけて始まる「いいんですか?」は、ダンサー陣も思い思いに身を躍らせて幸福感に満ち溢れた光景が生み出される。
photo by Takeshi Yao
photo by Takeshi Yao
「やっぱライブは楽しいなあ」と零しながら、野田はこの2020年について「どんどんどんどん、世界も時代も変わっていくけど、ミュージシャンってこうだよなっていう、当たり前のことに気付かされて。それはそれで良かったなあと思います。僕らはたぶん、その時々の時代に反応し、人間に反応し、空気に反応しながら、これからもきっと音楽を作っていくと思います」と語った。<生き抜いていこう>のメッセージを放つ「スパークル(original ver.)」の後には、桑原と武田も笑顔で感謝の思いを伝えると、「じゃあ最後、横浜のダダっ子っぷり見せてくれ!」と「DADA」の引き攣った爆音グルーヴでド派手にフィニッシュ。単にアニバーサリーの祝祭ではなく、これまでに生み出してきた楽曲と最新のテクノロジー、最新のアイデアをもって2020年の困難に挑む、そんなライブであった。

取材・文=小池宏和 撮影=Takeshi Yao
photo by Takeshi Yao

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