原作漫画の母と息子の情念まで具現化
した、劇団子供鉅人『ギャラクシー銀
座』が開幕、配信公演も実施予定

劇団子供鉅人特別公演『ギャラクシー銀座』が2020年12月27日(金)、下北沢・駅前劇場で開幕した。原作:長尾謙一郎、脚本・演出:益山貴司(劇団子供鉅人)、音楽:オシリペンペンズ。劇場公演は12月6日(日)までだが、4日(金)~6日(日)にはライブ配信も行われる(詳細は下記公演情報欄参照)。
カオスと名高い長尾謙一郎の同名漫画をどう舞台化したのか。いや、舞台化できたのか。結論から言うと、舞台に立ち上がったのは間違いなく『ギャラクシー銀座』だったが、他では見られない『ギャラクシー銀座』でもあった。
具現化を可能にしたのは、クセの強いキャラクターも軽やかに演じ分ける個性際立つ俳優陣と、作品によってアウトプットの仕方を自在に変えてきた演出の力だった。ジャンルを特定できない、捉えどころのないスタイルの子供鉅人だからこそ、舞台化できた作品だったのかもしれない。本記事では、公演初日に行われたゲネプロの様子をレポートする。
写真:中島花子 (c)長尾謙一郎・小学館/劇団子供鉅人
「素肌にディオール……」
主人公を演じる益山寛司が登場すると、それは紛れもなく竹之進だった。肌の上にそのままジャケットを羽織るナルシスティックな仕草もサラッと演じている。ダンサーでもある益山寛司のキレのある動きが、漫画にあるトリッキーな表現を再現している。ハイキックで上げる足の位置も高い。
2次元のキャラクターを実存の人間が演じるのだからどんな作品の舞台化でも、ある程度は違和感を感じるものだろうが、スッと受け入れられる。照明が当たり、色白の肌が陶器のようだ。主人公の奇抜な行動が単なるコメディにならないのは、キャラクター造形のうまさが前提にあるものの、この端麗な容姿がキャラクターと相性が良かったこともあっただろう。
劇団主宰の益山貴司は、メインキャラクターの竹之進とその母親・マミーが劇団員の益山寛司と億なつきに似ていたため、漫画『ギャラクシー銀座』の舞台化が可能だと確信したという。たしかにビジュアルはそっくりだが、見た目だけで既存のキャラクターを再現できるわけがない。ゲネプロ後に益山寛司本人に聞いた話によると、役者たちは稽古の中盤まで、台本と原作の漫画を両方使いながら、キャラクター造形を行っていったという。
写真:中島花子 (c)長尾謙一郎・小学館/劇団子供鉅人
そしてもうひとりの主役、マミー(億なつき)の登場シーン。主人公の母親にしては若過ぎるか。実際、2人の実年齢が近いから仕方ないのだが、親子を演じられるだろうか。
しかし違和感は束の間のことで、その表情はまさしくマミーであり、声色も多彩に使い分けて感情の機微を表しながら、母親役を演じてきっていた。億は2019年の劇団子供鉅人公演『不発する惑星』でも狂気をはらむ女性の役だったが、今作でもルナティックな演技に凄みがある。
とにかく、このメインキャラクターを演じた2人の役者が素晴らしい。感動するのは、普通の男女の恋愛とも違った、引きこもりと過保護な母親のいびつな愛の形が具現化されたことだ。役者の生身の体を使った説得力は、どんなに優れた漫画でも描くことができない、舞台の強さだと思った。後半、マミーの異常な愛情が暴走し、竹之進を追い詰めていく2人のシーンは圧巻だった。
またキャラクターの再現度が高いのは竹之進とマミーだけではない。まさか漫画のキャラクターのビジュアルを、そこまで似せられるものだろうか、と思う方もいるかもしれない。ゲネプロ後に益山貴司が「似ていなかったのは、私だけ」と冗談混じりに話していたが、原作を読んでいる人は各キャラクターの登場を見逃さないで欲しい。
写真:中島花子 (c)長尾謙一郎・小学館/劇団子供鉅人
さて竹之進が不可思議な方法でヘソから覚醒剤を入れてから、物語は大きく展開する。引きこもりだった竹之進は、電話で知り合った女性・コニーに会いに行く。
竹之進とマミーの共依存関係を描いたシーンは、怖いもの見たさもあって始終目が離せないのだが、もうひとつお勧めしたいのが、竹之進がコニーに襲われるシーンだ。
ふくよかという言葉では収まりきらないわがままボディのコニーを演じるのは、身体性を生かしたフィジカルな演技に定評のある益山U☆G。コニーはなぜだかどうして、パンツが見えるほどスカートが短い。ホラーな照明の効果と相まって、暴走する女性の脅威を怪演していた。益山兄弟の対決シーンという面でも、味わい深いのでは。(※編集部注:劇団子供鉅人の益山貴司、益山寛司、益山U☆Gは兄弟)。
さらにもう一点、特筆しておかなければならなのが、アナログ表現にこだわってきた彼らが初めて導入した劇中映像だろう。担当は稲川悟史。映像は出演している役者同様に“饒舌”で、スクリーンやディスプレイなど映像を出力する方法でも遊んでおり、映像自体もさまざまなアプローチが試みられていて楽しい。普通、デジタル機器を用いると無機質な質感まで持ち込まれてしまうものだが、温度や匂いのようなテクスチャーまで感じられるのが、子供鉅人らしい。映像作品自体も見どころとなっている。
さらに劇伴を手掛けたオシリペンペンズが、劇中映像でホスト役で演じている。オシリペンペンズのファンは、音楽と共に、他の役者のように濃い役柄を演じた彼らを確認してほしい。
原作『ギャラクシー銀座』は、一読しただけではこれがどういった物語なのか、理解が難しいかもしれない。以前のSPICEインタビュー記事「不条理ギャグ漫画『ギャラクシー銀座』をいかに具現化するか、劇団子供鉅人・益山貴司にインタビュー」( http://spice.eplus.jp/articles/277971 )でも益山は「生身の人間がアクションする演劇に仕立て直すと、物語としては漫画よりも腑に落ちやすい部分があるかもしれません」と語っていたが、登場人物たちと共にこのストーリーを伴走する鑑賞者にとって、頭を抱えずにストーリを追える内容になっていた。
原作を読んでから観るのもいいが、攻略本ならぬ攻略演劇として、漫画を読む前に観劇し、“意味の分からないこと”への耐性がついている状態で、原作を手に取ってみるのもいいかもしれない。もちろん明確な答えや意味を付与しないでも成立することが、表現やアートの特権であるとするなら、読解を試みること自体が野暮な発想なのかもしれないが。
以前、脚本・演出の益山貴司に、物語にこれだけこだわりを持っていて、なぜ今回は再現することに重きを置いたのかと尋ねたことがある。しかし、物語を描き構築することを追求してきた益山だからこそ、この厄介で不思議で、そして心を捉えて離さない漫画作品の舞台化ができたのだろう。ページから飛び出してきた奇異な世界の出来事が、形を帯びて目の前に立ち現れる衝撃に身を任せる体験をぜひ。
写真:中島花子 (c)長尾謙一郎・小学館/劇団子供鉅人
■竹之進役:益山寛司コメント
楽しんで竹ちゃんになっています。
漫画には「バッ」とか「シュッ」とか「ザッザッザ」とか、効果音があるじゃないですか。できるだけ観ている人に頭の中にも「バッ」とか「シュッ」とか思い浮かぶように見えたら嬉しいなと思って、キビキビ動いています。
ただ、漫画に忠実にし過ぎても成立せえへんところが基本的にあるので、そこは自分(の見せ方・表現)でやっています。
(親子を演じた億さんとの関係づくりは、)もともと仲が良いから自然に成立していたかな。
面白いです。ぜひ観に来てください。
■マミー役:億なつきコメント
マミーは、歳だけ取ってしまって心が体に追いついていない人だなと思っていて。こういった狂気じみた行動を取ってしまうのは、老いや結婚など、自分の理想に追いつかない心を満たすために、映画のヒロインを演じる「ヒロイン症候群」にかかっているからで。私は彼女が母親になりきれなかったことを終わらせるために演じるのかな、と。
ぜひ、宇宙の真理の側面を擦りに来てください。

取材・文=石水典子

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