織田信長役の染谷将太(左)と明智光秀役の長谷川博己

織田信長役の染谷将太(左)と明智光秀役の長谷川博己

【大河ドラマコラム】「麒麟がくる」
第四十回「松永久秀の平蜘蛛(ひらぐ
も)」孤立を深める信長の姿に見る大
河ドラマの演出の妙

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「麒麟がくる」。1月10日放送の第四十回「松永久秀の平蜘蛛(ひらぐも)」は、タイトル通り、織田信長(染谷将太)に反旗を翻した松永久秀(吉田鋼太郎)が所有する名物茶器・平蜘蛛を巡る物語が繰り広げられた。その中で、強烈な印象を残したのが、松永の壮絶な最期であることに異論を挟む人はいないだろう。
 だがもう一つ、この回で際立ったのが、信長の孤立感だ。それを一目で印象付けたのが、安土城の大広間。それまでの岐阜城とは異なる畳敷きの巨大な広間(番組公式twitterによると、なんと240畳!)の上座に信長がポツンと座っている姿は、天下を取った武将とは思えないほど小さく、孤独に見える。
 その広さを、演じる染谷は「(明智光秀役の)長谷川(博己)さんの表情がよく見えないぐらい遠いんです(笑)」(番組公式twitterより)と表現。権力者・信長の威厳が増せば増すほど、逆に孤独になっていくようだ。
 さらにこの回は、光秀との対比で信長の孤立感が際立つように、脚本、演出が構成されていたことにも注目したい。
 妻・熙子(木村文乃)を亡くした光秀と話をする機会が増え、「時折、美濃にいた頃の話も出ます」と駒(門脇麦)に打ち明ける娘のたま(芦田愛菜)。「安土城を出て鷺山に帰る」と光秀に告げ、「戦が終わって、穏やかな世になったら、遊びにおいでなされ。渋くておいしい茶を、一緒に飲もう」と約束を交わす帰蝶(川口春奈)(言葉の間に挟まれる2人の目線の芝居も素晴らしい!)。
 さらに、命の次に大事だという平蜘蛛の茶釜について「意地でもこれを(信長に)渡す気はない。もし、やむなく渡すことになるとすれば、十兵衛(=光秀)、そなたになら渡してもいい」と語る松永…。
 周囲の人々との長年の絆を実感させる場面が相次ぐ光秀に対して、信長には誰とも絆があるようには見えない。姿を見せるや否や、松永の茶器を回収し損ねた重臣・佐久間信盛(金子ノブアキ)の悪口を並べ、かつては仲むつまじかった妻・帰蝶に対してでさえ、あいさつ程度の言葉を交わすだけで、まともに目を見ることすらない。
 さらには、蘭奢待(らんじゃたい)の献上を喜んでくれなかった帝(坂東玉三郎)まで引き合いに出し、「何ゆえじゃ、何ゆえ皆、わしに背を向ける」と愚痴った揚げ句、平蜘蛛の行方について光秀にまでうそをつかれる事態に。
 こうした光秀や信長の姿に説得力を与えているのが、第一回から積み上げてきた描写の厚みだ。まさに、長い時間をかけて人物を描き込む大河ドラマならではの味わいだと言える。
 240畳の大広間を作り出す大胆さと、長い時間をかけて積み上げた人物描写の厚み(そこには当然、役者陣の名演も含まれる)。それこそが、大河ドラマの演出の神髄であり、この回には、壮絶な松永の最期も含め、全編にわたってその魅力が詰まっていたと言えるのではないだろうか。
 放送後に公開された番組公式サイトのインタビューで脚本の池端俊策は、「この回は、やがて光秀が本能寺へと向かうきっかけになる回だと思っています」と語っており、今後、物語が大きく動くことは間違いない。大胆さと厚みを兼ね備えた大河ドラマならではの演出が、クライマックスをどのように盛り上げてくれるのか。その妙を味わいつつ、残り少ない物語を楽しみたい。(井上健一)

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