配信公演も決定した劇団Patchの音楽
朗読劇『マインド・リマインド』はい
ったい何がスゴいのか、舞台上の多彩
な仕掛けを徹底的に独自分析

1月28日から31日まで紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAで上演され、1月31日の大千秋楽ではイープラス・Streaming+にて配信公演も決定している音楽朗読劇『マインド・リマインド〜I am…〜』。2020年末におこなわれた大阪公演を鑑賞して感じたのは、「仕掛けが多い舞台である」ということだ。
同作は、関西を拠点とする劇団Patchの結成8周年を記念し、テレビ局の関西テレビ(カンテレ)とのコラボという形で立ち上がったメモリアル企画。劇団Patchのメンバー12名が公演ごとに役まわりを変えて登場し、さらに谷村美月、入山法子がダブルヒロインで出演。同じ組み合わせが一つとしてないことから、同じストーリーでもまったく違った印象を与える。
そんな『マインド・リマインド』だが、興味深いポイントがひとつある。同作は当初、2020年3月に情報解禁されるはずだった。ところが新型コロナウイルスの感染が日本でも広がり始めたことから、舞台開催の時期も含めて予定が狂い、一度は発表が見送りになった。そして舞台内容が、オリジナルストリートプレイから朗読劇へと変更された。
音楽朗読劇『マインド・リマインド〜I am…〜』
そんな背景を踏まえて感じるこの作品の巧妙さは、新型コロナウイルスの影響を受けて「引き算」で舞台を作り上げたように見せかけながら、実際は、ネガティブに陥りそうな要素もすべて「足し算」に代えて朗読劇として昇華している部分。
象徴的なのは、舞台セットだ。朗読劇とあってセットは大掛かりなものではない。朗読芝居をみせる出演者が腰をおろしたり、上に乗って立ち上がったりする長椅子がメインのセット。その長椅子をいろいろ動かして、舞台上の情景を作っていく。
音楽朗読劇『マインド・リマインド〜I am…〜』
役者が椅子に座ったり、上に乗ったり、立ち上がったりすることで、身ぶり手振りが少ない朗読劇であっても運動性を生むことができる。ただ、それだけではない。この長椅子には、大きな背もたれがついている。たとえばふたつの長椅子を移動させて背もたれの面をくっつけたとき、見慣れた光景ができあがる。テレビ番組、飲食店などに設置されている飛沫防止のパーテーションだ。
音楽朗読劇『マインド・リマインド〜I am…〜』
役者が至近距離で隣り合って着席して本を読み上げているときも、くっつけ合った背もたれが飛沫防止パーテーションとして見える。まさに現代の社会のあり様を表現している。そして、新型コロナによって内容を大幅変更するなど苦難を強いられた現状に対する、ある種の風刺にも思える。
物語の内容もおもしろい。主人公の男性「僕」が、恋人の女性「彼女」に違和感をいだき、「彼女はロボットなのではないか」と疑問を持つ。「僕」は「医師」に相談するが、まともに取り合ってもらえない。ロボットである、と断定できる材料が乏しいからだ。
「彼女」との関係性、「医師」との会話、すべてを通して「僕」はどんどん孤立していく。他人との心の距離が開いていくのだ。距離というのも、今のキーワードのひとつである。そもそも長椅子の背もたれがパーテーションに見える部分も、人物間の心身の分断をあらわしている。気持ちが遠ざかっていく「僕」と「彼女」は、ラストシーンでとても切ない形を迎える。
音楽朗読劇『マインド・リマインド〜I am…〜』
苦肉の策であったはずの「朗読劇」というスタイルも多層的な意味を感じさせる。詳しい考察については、2020年12月23日にSPICEで掲載した記事(下記、関連リンク)を参照にしてほしいが、本を手に持ってそれを読み上げながら生活することは、現実にはありえないことである。では、この物語の人物たちが生きている世界はいったい何処なのか。現実か否か。もちろんその明確な回答は舞台を鑑賞してのお楽しみだが、ただそれらの疑問は「音楽朗読劇」と銘打った舞台スタイルに関連している。
音楽朗読劇『マインド・リマインド〜I am…〜』
「僕」と「彼女」には、共通して親しんでいる音楽がある。その音楽が、ふたりの過去の記憶をよみがえらせていく。演者たちの後ろにはバンドがセットを組み、物語にあわせて曲を演奏する。ただ、演奏者たちは単なるバックバンドではない。音楽を装置として使うだけなら、わざわざバンドを用意して生演奏する必要はない。カーテンの向こう側にバンドを実在させている意味。ここではっきり考察を書くと物語の核心に近づきすぎるので伏せる。ただ、バンドは決してBGM係ではなく物語の登場人物の一員であり、終盤であきらかになる「物事を仕掛けている側」であるのではないか。
音楽朗読劇『マインド・リマインド〜I am…〜』
演出を手がけた木村淳、脚本の古家和尚は、きわめて実験的に『マインド・リマインド』という作品を構築している。だからなのか、この舞台での劇団Patchの面々は一味違う。肉体から物語を発している。これまでの彼らの特徴は、外側に向けてはつらつと表現するところ。エンターテインメント集団として、ケレン味なく観客に熱をぶつけるものだった。しかし今作では、物語の特性もあってか、どんどん内側へと潜っていく。観客を舞台へ引き入れて迷い込ませるのだ。「劇団Patchが新たな一面をみせる」という触れ込みの同舞台だったが、その言葉にまったく偽りはない。
新型コロナ禍だからこそできる舞台表現の数々。『マインド・リマインド』はまさしく演劇的である。
ちなみに大千秋楽は配信公演も決定したという。生で観劇するおもしろさはもちろんだが、このコロナ渦の影響を受けながら作り上げられた同作とあって、配信鑑賞でもいろんな発見が得られるかもしれない。大阪公演ですでに観劇した方や、新型コロナの感染拡大で外出自粛をしている方は、この機会に画面越しで楽しんでみてはいかがだろうか。
取材・文=田辺ユウキ 撮影=田浦ボン

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