歌舞伎座『二月大歌舞伎』中村屋リモ
ート取材会をレポート! 勘九郎・七
之助が勘太郎の『連獅子』、長三郎の
『袖萩祭文』にエールを送る

2021年2月2日(火)に開幕する、歌舞伎座『二月大歌舞伎』に向け、中村勘九郎と長男の勘太郎、次男の長三郎、そして中村七之助がリモート取材会に出席した。本公演の午後5時30分開演の第三部では、「十七世中村勘三郎三十三回忌追善狂言」として2つの演目が上演される。ひとつは勘九郎、七之助、長三郎が出演する『奥州安達原 袖萩祭文』(おうしゅうあだちがはら そではぎさいもん)、もうひとつは勘九郎と勘太郎による『連獅子』だ。
現在9歳の勘太郎は、上演記録にある限り本興行で『連獅子』の仔獅子の精を勤める最年少となる。7歳の長三郎は『袖萩祭文』で、盲目の母に寄りそう幼い娘、お君を勤める。この場面の重要な役で出演時間も長い。本番に向けて、リモート取材会で意気込みを語った。
4人は黒紋付で出席し、モニターの前に着席した。勘太郎、長三郎にとっては、大きな会場の壇上よりもリラックスしてのぞめる環境だった様子。画面越しにも伝わる和やかな空気の中、取材会は行われた。
(左から)中村長三郎、中村七之助、中村勘九郎、中村勘太郎  (c)松竹
■魔法の粉をかける十七世勘三郎
歌舞伎座は感染症対策として、1日三部制の各部が終了するごとに、客席をクリーニングしている。客席の使用率は50%とし、第三部の終演時間は20時前の予定だ。これらの対応や来場者の協力が欠かせない状況下でも、祖父の十七世勘三郎の三十三回忌追善興行が行われることに、勘九郎は感謝を述べた。
勘九郎と七之助の祖父である十七世中村勘三郎(以下、祖父)は、立役から女方まで、生涯で800以上の役をつとめギネスブックにも登録された。他界したのは勘九郎が6歳、七之助が4歳の時だった。勘九郎は「父から『おじいちゃまはお客様に魔法の粉をかける。お前たちもそうならないといけないよ』と言われておりました。本当に魔法の粉が目に見えるような、素敵な役者でした。祖父であることを誇らしく思います」と晴れやかな笑顔をみせた。
十七世中村勘三郎
祖父との思い出を問われ、勘九郎が思い起こしたのは初お目見得の舞台『盛綱陣屋』だった。「小三郎役でした。ある日、座る位置を間違え、ふだん優しい祖父が鬼のように怒りました。僕はあまりの怖さに楽屋の押し入れに逃げ込んで。古い歌舞伎座の押し入れの匂いやミシミシいう音まで鮮明に覚えています」と笑う。
七之助は、直接の記憶はほとんどないものの「歌舞伎座で、祖父の追善興行の追善口上に出た時、先輩方が話す祖父とのエピソードが腹を抱えて笑うような話ばかり。たくさんの方に愛されていたことを感じ、祖父を身近に感じました」と感慨深げに語り、「芸の上でも人間としても素晴らしい。その両方を引き継げたら」とコメントした。
■親子の深い愛で繋がる『袖萩祭文』
『袖萩祭文』は、『奥州安達原』全五段の三段目にあたるエピソードだ。十七世勘三郎は安倍貞任と袖萩を二役早替りで勤め、通しでも上演した。今回は七之助が袖萩を初役で勤める。そして袖萩の幼い娘・お君を長三郎が、袖萩の夫・貞任を勘九郎が演じる。
七之助は「奥州安倍の一族の最後の話ですが、家族の絆やプライドが詰まった素晴らしい場面」と演目を紹介した。自身の役については「祖父の映像を見るほどに、情に溢れていると感じます。長三郎と実の親子の役を勤めるのは初めてですが、普段から家族としての愛情はたっぷりです。あとは役として深い愛で繋がっていることをお客様にご覧いただけるよう勤めたい」と語る。
『袖萩祭文』袖萩=中村七之助、お君=中村長三郎  撮影:篠山紀信
目の見えない袖萩は、お君に手を引かれて登場する。
「お君ちゃんは、僕以上に出ずっぱりの役です。長三郎は7歳で、役にならなくてはならず、やらなくてはならない(舞台上での)お仕事も色々あります。1か月の長丁場は彼にとって試練ですが、一緒にのりきっていきましょうね」と七之助は、長三郎に言葉をかけた。
七之助にとっても初役でつとめるお芝居だ。役は、おじの中村福助に習ったという。
「このような状況ですから、おじに見ていただくことを憚っていました。ですが、たまたま電話をした際におじも『ちょうど話したかった。追善だからどうしても教えたい』と。感染症対策を徹底し、稽古場にきていただき、袖萩の目が見えない雰囲気をどの様な想いで演じるか。どこで反応することで表すと良いかなど習いました」
リモート取材会の様子
長三郎の稽古の様子は勘九郎が説明した。
「妻が台詞を平仮名で書き、それで練習しています。義太夫狂言は初めてです。糸にのって(三味線に)台詞をあわせて。コツコツ練習しています」
本番を前にすでに期待以上の出来である点、そして、チャレンジとなる点を次のようにどのようなところだろうか。
「長三郎は天性の声を持っています。中村屋にはなかった声です。今後、彼の武器になるのでしょうね。ただ、今はまだ集中力が欠けるところがあります。長いお芝居ですが、集中力を最後まで保たなければいけませんね」
すでに一度、衣裳や小道具を本番どおりに揃えた稽古もしたのだそう。その時の感想を問われた長三郎は、堂々とした口調で「かたかったです」と回答した。七之助が「え?! 何が? 小道具が?」とフォローに入り、勘九郎と勘太郎が爆笑し、取材会を和ませた。
■一から伝え、繋ぐ『連獅子』
勘九郎と勘太郎が勤める『連獅子』は、中村屋に縁の深い演目だ。勘九郎は勘太郎について、「踊りの勘や身体の使い方が徐々に良くなっています。教えたことをその場ですぐやれる点がいいところ。それを次の日にもやれるよう反復練習してほしい」と期待を寄せた。順調な稽古の背景には、2020年のSTAY HOME期間があった。
「自粛期間中、自宅の稽古場で勘太郎、長三郎と踊りの稽古をしました。これほど家族が一緒にいられる時間はありませんでしたから。その時お稽古していた中に、『連獅子』もあったんです。通常なら(藤間流の)ご宗家に習い、稽古を始めますが、今回は僕が習ったものを、手取り足取り、そのまま息子たちに。お幕から出る時は左足からだよと、一から教えました」
『連獅子』親獅子の精=中村勘九郎、仔獅子の精=中村勘太郎  撮影:篠山紀信
自宅での稽古から1年たたず、本興行での上演が実現した。このことに驚きつつも勘九郎は、「大変な時期にもがんばっていた僕たちを、祖父や父が見ていてくれたのかもしれません。中村屋に限らず諸先輩方の技、呼吸、間、芝居を受け継ぐ役割のひとつとして、中村屋の『連獅子』を繋ぐことができ良かったです」と喜びを語った。
『連獅子』の上演時間は約50分。大人でも体力的に大きな負担がある。七之助は「勘太郎にとって、生きてきた中で一番辛い1か月になるでしょう。でも、がんばった分だけお客様は返してくれます。 僕が舞台に立つ快感、喜びを初めて知ったのは『連獅子』でした。がんばってほしいです」とエールを送る。
リモート取材会の様子
扮装写真は、カメラマン・篠山紀信による撮影だ。勘太郎はそこで初めて仔獅子の精の拵えをした。感想を問われた勘太郎は「軽そうに踊って見えたけれど、着てみたらものすごく重かったです。撮影のあと衣裳のまま踊ってみたら死にそうになりました」と苦笑いをしてみせた。
現在、勘太郎は踊りの稽古だけでなく、ランニングや腹筋、壁倒立など、身体づくりにも取り組んでいる。さらに長三郎とともに、できるかぎり毎日、本番と同じ時間帯に稽古をしているのだそう。
■中村屋の連獅子、親子の思い出
中村屋の連獅子といえば、勘三郎、勘九郎、七之助による3人の連獅子を思い起こす方も多いだろう。父親と勤めた当時を七之助はふり返り、「父は、兄の100倍厳しかったと思います。死ぬ思いでした。前シテ(演目の前半)の出来が悪いと、目も見てくれない。仔獅子が谷から這い上がってきても、喜んでくれない。むしろ怒ってる(苦笑)。それが家に帰っても続くんです」と当時の苦労をアピールしつつ、懐かしそうに語った。
勘九郎もまた、父の厳しさについて、「毎日怒鳴られていましたから、歌舞伎座から家へ帰る車から見る景色は、いつも涙で滲んでいました。でも上手くできた時の父は、本当にいい顔をするんです! 3人で踊るようになってからは、動きがピタっとあうと『DNAだね』と喜んでくれました」と、目を細め思い出を語った。
十八世中村勘三郎
大人になり、兄と話したことですが……と切り出したのは七之助。
「あの頃僕らは、もちろんお客様のためではあるのですが、それ以上に父に喜んでもらうために全身全霊で踊っていました。その絆が、自然と『連獅子』という演目に表れていたのかもしれません」
勘九郎は頷き、「中村屋の『連獅子』の魅力は上手い下手ではなく魂です。しかしそれは踊りの基礎があってのことです。型があり、心を入れる作業。勘太郎には前シテがとても大事だということを肝に銘じ、踊ってほしい」と思いを伝えた。
■2月は聖地、歌舞伎座で
勘太郎は、会見の冒頭では笑顔をみせ、カメラに手をふる余裕もあった。しかし勘九郎と七之助の過去のエピソードを聞くうち、少し緊張の面持ちに。それでも記者から「緊張と楽しみのどちらが多いか」を問われると、迷わず「楽しみです」と答え、前向きな姿勢をみせた。同じ質問に対して長三郎は「楽しみと緊張がくっついています」と答えていた。
勘九郎は最年少記録での挑戦となるが、それ以前の最年少は、勘九郎(当時10歳)だった。自身の記録が更新されると知るや勘九郎は、「えー! 」と悔しがってみせつつ、「がんばりなさいね。あなた、いいよ。本当にいい。映像に残っている10歳の時の僕よりいいから大丈夫!」と背中を押した。
リモート取材より
最後に勘九郎は、来場者の安全と安心のために感染症対策を行う歌舞伎座にむけて感謝を述べ、「あとはやってみないと分かりません。父も、親になり舞台で息子に背中を見られた時はゾッとしたんだよと言っていました。それでも歌舞伎座という我々の聖地で、皆さまに見守っていただき、パワーをもらって踊りたいと思っています。勘太郎は『連獅子』を最年少で。長三郎は僕も七之助もやっていないお君をやります。子役の時期はあっという間です。ぜひこの機会にご覧ください」と呼びかけ、締めくくった。
(上左から)中村七之助、中村勘九郎(下左から)中村長三郎、中村勘太郎  (c)松竹
2月の歌舞伎座は、2021年2月2日(火)~27日(土)までの上演。

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