坂本冬美「舞台と歌で明るい気持ちに
なって欲しい」~『坂本冬美芸能生活
35周年記念公演 泉ピン子友情出演』
初日観劇&会見レポート 

歌手の坂本冬美が2021年2月26日(金)、明治座(東京都中央区)で舞台『坂本冬美芸能生活35周年記念公演 泉ピン子友情出演』の初日を迎えた。芝居と歌の2部構成で行われた舞台後には、取材会を実施。坂本は「初日を迎えられるか心配でしたが、千秋楽の3月15日まであと17公演。頑張っていきたい」と決意を語った。
坂本の芸能生活35年を記念した舞台『かたき同志』は、テレビドラマ『渡る世間は鬼ばかり』で原作を務める橋田壽賀子と、同プロデューサーの石井ふく子が演出を担当。そこに同ドラマで大人気の泉ピン子がゲスト出演したことで、今回もゴールデントリオが実現した。
『かたき同志』坂本冬美  撮影:田中聖太郎
物語の舞台は大川を挟み両岸に広がる屋敷町と下町。屋敷町にある呉服問屋越後屋の内儀・お鶴(坂本)と、下町で飲み屋ひさご亭を営む女将のかめ(泉)は、出会うこともない無縁の世界で暮らしていた。お鶴は、ひとり娘・お袖(京野ことみ)の幸せを願い、旗本三男坊の松下源之介(三田村邦彦)を婿に迎える準備を進めていたが、お袖は1日中ブラブラとして、笛を吹いて回る松下が気に入らない。松下の姿が座敷にあると「また、あいつが来てる。あのへたくそなピーヒャラを聞くと吐き気がしてくる」などと悪口を言い追い返す始末。つれない態度に、お鶴は「こんなに良いご縁談は、二度とない」と頭を悩ませていた。奔放な娘に「好きな人がいる」と明かされたお鶴は真っ青に。「お前も殺して、母さんも一緒に死んでやる」と行灯を振り回す大混乱に。倒れた行灯から畳に火が燃え移る惨事になった。
『かたき同志』泉ピン子  撮影:田中聖太郎
越後屋が混乱していた頃、対岸のひさご亭では、かめが店の客に、蘭学を学ぶひとり息子・清太郎(丹羽貞仁)が「長崎に医学の勉強に行くことが決まった」と自慢話に花を咲かせていた。夜も更けた頃に戻ってきた清太郎。「あんたをせがれに持って鼻が高いよ」と清太郎の肩をなでたかめだったが、清太郎の着物に見つけた汚れがおしろいと気づき、状況が一転。「お前、どこで何をしていたんだ。お前の父ちゃんが女遊びして苦労したんだ」と泣き始める。困った清太郎が「ふしだらなことはしていない。夫婦になる約束をしたんだ」と告白したことから、「お前は母ちゃんよりも、その女の方が良いんだね」と包丁を持ち出し詰め寄る修羅場に。「これから(越後屋に)話しに行ってくる」と酒をあおったかめは、さらに大暴れ。上機嫌で飲んでいた客も逃げ出すような剣幕を見せた。
炎が燃えさかった店に乗り込んできたお鶴は「お宅のどうらく息子がちょっかい出した」と声を荒げると、かめも「鼻緒でごまかしたの、あんたの娘でしょ」とつかみかからんばかりの勢いで罵倒。箸入れの筒を放り投げたり、コショウをかけるなど大バトルが勃発してしまう……。
『かたき同志』(左から)坂本冬美、泉ピン子  撮影:田中聖太郎
人情喜劇の本作品は、坂本と泉による軽快なかけ合いが必見だ。2019年の前回公演時同様、二人は気持ち良さそうに会話の掛け合いを楽しんでいる。坂本と泉が演じる二人は、タイトルの「かたき同志」ではあるが、子供が幸せになれるようにと考え、行動してしまう思いは同じ。そのおかげか、いつの間にか二人は意気投合していくが……。子供たちの行き末、そして坂本と泉が演じる二人の関係はどうなるのか。エンディングには笑って泣いて元気になれる公演だ。
『艶歌の桜道』坂本冬美  撮影:田中聖太郎
和太鼓奏者の大塚宝の勇ましい演奏で緞帳が上がった、第二部『坂本冬美オンステージ2021 艶歌(うた)の桜道(はなち)』は、デビュー曲『あばれ太鼓』でスタート。玄界灘の荒波を思わせる絵柄の着物を身にまとった坂本は、福岡県北九州市の祭り「小倉祇園太鼓」を思わせる激しい大塚の太鼓の音に合わせて、ばちを持って叩くふりをするなど久しぶりの生のステージを楽しんでいる様子。「『♪どうせ死ぬときゃ 裸じゃないか~』と始まる『あばれ太鼓』でデビューするのがイヤだった。19歳の私にはまだ意味が分からなかった」と明かし、「今は、歌詞の意味が分かる。感謝を込めて歌いたい」と思いを語った。続く『祝い酒』では、清太郎役を演じた丹羽が、「祭禮」と書かれた大きなうちわを手にはっぴ姿で登場。「そーれ」とかけ声を上げ、会場を盛り上げた。

『艶歌の桜道』坂本冬美  撮影:田中聖太郎
歌唱ステージでは、芝居にも出演した歌手の森山愛子が歌う場面も。中盤には坂本がヒット曲『また君に恋してる』をウェディングドレスのような純白の衣装で歌い上げ、観客を魅了した。桑田佳祐が作詞・作曲を手がけたことでも話題の最新曲『ブッダのように私は死んだ』では、仏陀が描かれた着物を身にまとった坂本が、燃えるステージの中で熱唱。全てを燃やし尽くすような熱い歌声に、時間が止まった。

『艶歌の桜道』坂本冬美  撮影:田中聖太郎
同曲は2018年のNHK紅白歌合戦で共演したことがきっかけで、桑田にラブレターを書き、生まれたという。桑田から「火曜サスペンス劇場の主人公を演じて」と曲を渡されたと振り返り、「『♪目を覚ませばそこは土の中~』という歌い出しに、『あ、私この世にいないんだ』と驚いた。いろいろな主人公を歌ってきたけれど、この世にいないのは初めて」と苦笑いした。
「もう春はすぐそこに。桜の季節が待ち遠しいです」と呼びかけると、舞台いっぱいに広がったしだれ桜の下で「夜桜お七」を披露。軽やかなステップに合わせて、手拍子するファンの姿があった。
『艶歌の桜道』坂本冬美  撮影:田中聖太郎
爆笑に包まれた芝居、伸びやかな歌声を聴かせたステージの後に行われた取材会で坂本は、マスクを2枚重ねし、さらにフェイスシールドをして臨んだ稽古を振り返り、「入る時も、帰る時も、検温消毒。初日が迎えられるか心配でした。。昨日、最後の稽古を終えても眠れなかった。今朝は5時前に起きたら、ピン子さんから5時過ぎに連絡が来て、ピン子さんも眠れないんだなと思った」とコメント。泉は「(昨年3月に)志村(けん)さんが亡くなってから仕事は全部キャンセルになった。『73歳の方は、怖くて使えません』と言われて。今日は(お客さんを見て)涙ぐんで、声が詰まっちゃいました。本当に、ありがたい。今まで、お客さんが来てくれるのが普通だと思っていた。出演者同士、楽屋を行き来しないなど注意をしているので、安心して、観に来てください。坂本の『ブッダ(のように私は死んだ)』を生で聞いていただきたい」と話していた。
取材会より (左から)泉ピン子、坂本冬美  撮影:田中聖太郎
坂本は中学時代から桑田に憧れていたと公言しているが、楽屋には韓国スターのイ・ビョンホンのポスターが飾ってあるといい、それを見た泉が「あんた、イ・ビョンホンなんて、キムチの一つもくれてないじゃない。桑田様のポスターを貼りなさい」と叱ったそう。坂本は「明日、(桑田の)ポスターをいただくことになりました」と泉をなだめていた。
坂本は「初日を無事に終えて、ホッとしています。30回以上あった公演は(コロナ禍で)上演数が減りましたが、舞台と歌で明るい気持ちになって欲しい」と呼びかけていた。
取材・文=Ayano Nishimura

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