テイ・トウワ
『Future Listening!』を聴いて
アルバムという音楽作品への
接し方を考える
懐古ではないサイケデリック
M5「Meditation!」はボサノヴァタッチのリズムから入るものの、アフリカの民族楽器風のパーカッションに電子音、フルート(ちょっと尺八っぽい)などが重なり、そこに女性の声で英語のモノローグ、さらには、フリーキーというか、少しジャジーなベースも鳴っているし、コード弾きのシンセ、アコギ、男性の声と、いろんな音が雑多に入っていく。M4までのポップさはどこへやら、これは前衛音楽っぽい。ただ、男女のヴォーカル(というよりも声)はM1からM4でも必ず聴こえてきたので、これもまた耳馴染みというか、地続き感があるとだし、M5の非ポップさはM6「Raga Musgo」で活きてくるように思う。シタールから始まって、管楽器(サックスとフルートだろうか、これもちょっと尺八っぽい気がする)とシンセで構成されたと思しき、短めのインタールード的なナンバー。これを単体で聴いたら、これも非ポップな前衛的な捉え方としただろうが、M5を前に置くことで、比較的メロディアスであると受け止めることができるように思う。冒頭で述べたアルバム作品ならではの面白さはここにもある。
また、その妙味はM6から続くM7「Son of Bambi」でも発揮されている。M6はシタールで始まると言ってもほんのわずかなのだが、M7で本格化(?)。The Beatlesの「Love You To」ばりに鳴っている。しかも、やはり…と言うべきか、打ち込みのビートに乗せ、8ビットゲーム機のような電子音まで合わせて、決して懐古ではないサイケデリックサウンドに仕上げている。注目なのは、そのシタールが後半に進むに従ってエレキギターに変化していくところ。もともとエレキギターだったものをシタール風にしていたのかもしれないが、ある時点からはっきりと切り替わるのではなく、“アハ体験”的に替わるのが面白い。“あれ? これシタールだったんじゃ…”と思わせる辺り、まさに幻聴のようだ。後半はブラスセクションも入り、これまたしっかりポップに仕上げているのも見逃せないところではある。
さまざまな仕掛けに満ちた作品
“他にももっとさまざまな仕掛けがあったのではないか? 聴き逃してしまったのでは!?”と思っていると、M10「Dubnova(Part1 & 2)」に辿り着く。こちらはアルバムのフィナーレというよりも、長めの“リプライズ”といったダブミックスで、細かく析したわけでないけれども、M1からM9までの楽曲のトラックを再構築したものと考えて間違いないだろう。どこかサウンドコラージュ的で、ポップさに欠けるきらいはあるものの、そういうタイプの楽曲だから、オープニングからアルバムを聴いてきた者にとっては当然、既知感はある。個々の楽曲において、ここまで説明してきたような、ポップさの肝であったり、サウンドの変化の妙であったりという音楽体験を、それはわずか40分前の出来事だったにもかかわらず、どこか懐かしく感じるような仕掛けがM10「Dubnova(Part1 & 2)」にはある気がする。聴き終わると、もう一度、M1「I Want to Relax, Please!」から聴きたくなる──そんな感覚があるのだ。これもまた、アルバム一作品を通して聴かないと感じることができないものだろう。その辺をテイ・トウワが意図的にやっていたのかどうかは定かではないが、思わずそう考えてしまうような魅力に満ちたアルバムではある。
TEXT:帆苅智之
関連ニュース