RADWIMPSの
哲学とロックバンドとしての
革新性を『アルトコロニーの定理』
から振り返る

多彩なロックに独自性を注入

歌詞の特徴をザっとまとめてみて、こういった傾向はそのサウンドにも当てはまると思ったところで、ここからはRADWIMPSのサウンドについて述べていきたい。まずはサウンド面を全体的に見渡してみると、ブリットポップ、パンクの影響が色濃い。ただ、ギターサウンドが前面に出ているものがほとんどではあるものの、リズミカルなアルペジオを所謂リフとしながら楽曲全体を引っ張っていくものが多いのは特徴的ではあろう。M1「タユタ」、M8「メルヘンとグレーテル」、M10「オーダーメイド」、M13「37458」といったミディアム~スローにおいてアルペジオを使うのはわりと普通と言っては何だが、古今東西でよく見られるギターのアレンジではあろうが、アップチューンにおいても単音弾きを多用している。それはM4「謎謎」、M9「雨音子」辺りもそうだが、何と言ってもM2「おしゃかしゃま」に止めを刺すだろう。ポップで躍動があり、それでいて、少しばかりの物悲しさが加味され、そこに生真面目さも感じられるような、相当に耳に残るフレーズである。個人的なことを述べて恐縮だが、『アルトコロニーの定理』が発売された時、このM2「おしゃかしゃま」のギターの気持ち良さに、M2だけ何度も繰り返して聴いていたことを思い出す。ついでに言わせてもらえば、ここ20年くらいの邦楽ロックでは屈指のギターフレーズであると思うし、『アルトコロニーの定理』においてRADWIMPSというロックバンドのサウンドの個性を示すに十分なものであったであろう。ガツンとしたストロークで始まるM11「魔法鏡」でもAメロはアルペジオになったり、ほとんどストロークで攻めているM12「叫べ」でもそこにアルペジオを重ねているから、ギターの単音弾きは間違いなく彼らのこだわりと言える。

あと、意外と…と言ったら失礼ではあるが、『アルトコロニーの定理』収録曲にはブラックミュージックを下地にしたものが見受けられる。特にM5「七ノ歌」が印象的。野田がひとりで声を重ねたというゴスペル調のコーラスが圧倒的な存在感を放っている。エレキギターが重めなのでハードロック的な側面も強いが、ブルースフィーリングもしっかりあって、楽曲を骨太なものにしているのは確実である。ブルースフィーリングはM13「37458」でも感じられるところだし、遡れば、M4「謎謎」のディスコっぽい感じもブラックテイストと言えなくもない。この辺は野田が帰国子女だったことが関係しているのか、はたまたメンバーのルーツミュージックによるところなのか分からないけれど、バンドの世界観を奥深いものにしていることは明らかだろう。そして、“歌詞の特徴がサウンドにも当てはまる”と前述したのもこの辺りにある。ブラックミュージックの影響下にありながらも、その特有の泥臭さを抑え気味にしているように思う。これは本来、良くもあり悪くもあることだろうが、RADWIMPSとしては正解と言っていいだろう。リズム&ブルースを追求するようなバンドであればともかく、彼らはそうではないわけで、例えば、M5「七ノ歌」で本場のゴスペルシンガーを入れていたとしたら、何かのバランスが崩れていたように思う。あそこは野田ひとりの声だからこそいいのだ(洒落ではない)。

さらに言えば、前述したアルペジオへのこだわりもそうだし、ここまで触れて来なかったが、ラップ調の歌唱もそうかもしれない。パンク系のナンバーでも単音弾きを欠かさないところに“らしさ”は確実にある。抑揚なく淡々と進むヴォーカルは随所で見られるところで、特に韻を強調している感じではないようなので、これは本格的なラップではない。でも、それでいい。想像するに、歌詞が多いため──すなわち伝えたいことが多いために必然的にメロディーが乏しくなるか、サビなどのメロディーパートをよりキャッチーに聴かせるための抑揚を抑える部分が必要となるのか、ラップ調の意図はそんなところだろう。これもまた、本格的なラップがあったら、おそらく何かバランスが崩れるのだろうし、それ以前に興醒めのような気がする。特定のジャンルは尊重して、それをドラスティックに変化させるのではなく、独自の解釈をわずかに加えるだけで、それまで誰も見たことがないオリジナリティーを浮き上がらせる。誰にも簡単にできそうで、実は誰にもできることではないことをやっているのが『アルトコロニーの定理』であり、RADWIMPSであることを改めて知った。音楽に対するリスペクトの中に革新性を注入することを忘れない、ロックバンドらしいロックバンドなんだろう。

TEXT:帆苅智之

アルバム『アルトコロニーの定理』2009年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.タユタ
    • 2.おしゃかしゃま
    • 3.バグパイプ
    • 4.謎謎
    • 5.七ノ歌
    • 6.One man live
    • 7.ソクラティックラブ
    • 8.メルヘンとグレーテル
    • 9.雨音子
    • 10.オーダーメイド
    • 11.魔法鏡
    • 12.叫べ
    • 13.37458
『アルトコロニーの定理』('09)/RADWIMPS

OKMusic編集部

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