ハナレグミの
『音タイム』を聴いて考えた
バンドとソロとの
臨み方の違いについて

『音タイム』('02)/ハナレグミ

『音タイム』('02)/ハナレグミ

3月31日、ハナレグミの通算8枚目のアルバム『発光帯』がリリースされたということで、当コラムではハナレグミの1stアルバム『音タイム』を取り上げる。某音楽番組で音楽プロデューサーの丸谷マナブ氏が“アルバムで聴いてほしいJ-POPの名盤”として推薦し、“つい繰り返し聴いてしまう一枚”“ 色褪せない名盤”と氏も絶賛していた作品。SUPER BUTTER DOGのヴォーカリストとして活躍していた永積タカシが、バンド時代とは明らかに違うけれども、それでいて彼らしさを如何なく発揮した、2000年代を代表する邦楽名盤のひとつではあろう。

バンドとソロの違いとは?

当コラムでは永積タカシのソロユニット、ハナレグミが7thアルバム『SHINJITERU』をリリースした2017年10月に彼のキャリアのスタートであるバンド、SUPER BUTTER DOG (以下、SBD)の名盤として『FUNKASY』(2000年)を取り上げた。何を書いたかすっかり忘れていたので読み返してみると、バンドとソロでの活動の違いといったことに言及していて、それはほんのさっきまで今回ハナレグミに関して書こうと大雑把に思っていたことだったので、自分の芸の幅のなさに失望しつつ、それでも『音タイム』を聴いたあとだからか、“まぁ、それがそれで自分なんだから仕方がない”と独り納得して筆を進めてみたいと思う。古今東西、バンドに解散はつきものである。特に一定の成功を収めたバンドは、そこで活動を止め、メンバーが個別に活動を始めるケースは多い。
■『これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!』
『FUNKASY』/SUPER BUTTER DOG
https://okmusic.jp/news/216904
どうしてバンドを辞めてソロで活動する人が多いのだろうか? “○○○の問題”とか“△△のもつれ”とか、人間関係うんぬんはさておき、そもそもバンドとソロとはまったく別ものであることを念頭に置くと分かりやすいのではないかと思う。勢いで“それは団体競技と個人競技との違いのようなものかも…”と安易にスポーツで例えてしまいそうになるけれどもが、どうやらそう簡単に言えるものでもないらしい。バンドにしてもソロにしても、本質的に他者と競うものではないのでスポーツに例えること自体に無理がある。また、例えばバンドではギターを弾いてソロではギターを弾かずにヴォーカルに専念とか、そこでのパフォーマンスが異なったりすることはあるかもしれないが、いずれにしても演奏したり歌唱したりするわけで、サッカーとゴルフのように目的がまったく違うわけでもない。ここまで書いて、ボート競技でのシングルスカルとダブルスカルやフォア、エイトとの違いに近いかもしれないと思ったりもしたが、ボート競技はボート競技で各人がやっていることがほぼ同じだからバンドとは少し違うよう気もする(やったことがないから分からないけど)。そんなことだから、傍からみて“何で解散するのか?”と考えるし、ひいてはその理由に醜聞を探してしまうようなところはあるのかもしれない。そんなことも考えた。

で、これはSBDの『FUNKASY』を取り上げた時にも書いたことだが、バンド、ソロどちらにも長所があって、どちらがいいとか優れているとか一概に言えない…というのが今のところの結論だ。バンドとソロをともに経験している、とあるベテランアーティストから聞いた話を再度引用させてもらう。「ギター1本で歌っていると自分のタイミングでテンポを変えることができるけど、バンドではそれができない。バンドでは自分が欲しいと思う音を他のメンバーに出してもらうことができるけど、独りではそれができない」。バンドとソロで感じる快楽はまったく別なもの…とは言い切れないけれども、微妙に、しかし確実に異なるもののようだ。バンドを解散せずにソロ活動を行なう人も今では普通になっているし、ソロ活動を経てバンドを復活させるというケースも少なくない。また、最近ではいくつかのバンドを同時に進行させているアーティストも珍しくなくなってきた。そうした事例こそが、バンドとソロとが別ものであり、どちらが優れているわけではない、ひとつの証拠と言えるのではないだろうか。みんなが持ち寄った料理でパーティーをするのと、自分の得意料理を振る舞う…なんて例えを今思い付いたが、これもきっと違う。なかなか他では例えられない魅力が、バンドにせよソロにせよ、音楽活動にあるということなのだろう。

OKMusic編集部

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