スタックスのアーティストが集結した
ドキュメンタリー映画の
傑作サントラ盤
『ワッツタックス
/ザ・リビング・ワード』
映画『ワッツタックス
/スタックス・コンサート』
映画にはワッツ住民たちのインタビューをはじめステージ設営の様子も描かれており、興味深い。また、スタックスの要請で映画のクルーたちもほとんどアフリカ系アメリカ人で占められており(監督のメル・スチュアートは白人)、ベルの“黒人主導”のこだわりは徹底していたと言えるだろう。
そして、このドキュメンタリー映画はコンサートの模様を描くだけでなく、ワッツ地区の住民へのインタビューを通して、当時のアフリカ系アメリカ人の置かれた状況が浮き彫りになっている。映画の主役とも言えるアメリカを代表するコメディアンのリチャード・プライヤーが繰り出す鋭い風刺を効かせた喋りは必見だ。
本作『ワッツタックス
/ザ・リビング・ワード』について
本作で最初に登場するのはステイプル・シンガーズ。冒頭のトラック「オー・ラ・デ・ダ」は声援や拍手が入っているが擬似ライヴで、実際にはスタジオ録音だ。大ヒットした2曲「リスペクト・ユアセルフ」「アイル・テイク・ユー・ゼア」が嬉しい。ただし、コンサートでは体調不良のためにイヴォンヌ・ステイプルズは参加していない。スタックスの看板スター、エディ・フロイドは十八番の「ノック・オン・ウッド」と「レイ・ユア・ラビング・オン・ミー」(これは擬似ライヴ)の2曲、カーラ・トーマスの「ジー・ウィズ」や、本作では唯一のブルースマン、アルバート・キングの「アイル・プレイ・ザ・ブルース・フォー・ユー」など、それぞれの代表曲を披露している、ソウル・チルドレンはローラー・リーでもおなじみの「アイ・ドント・ノウ・ホワット・ジス・ワールド・イズ・カミン・トゥ」や「ヒアセイ」を収録、スタジオ録音ではわからないノリに乗ったコーラスの掛け合い(というか喋りの掛け合い)が聴ける。バーケイズはオーティス・レディングに敬意を表し「アイ・キャント・ターン・ユー・ルーズ」を披露している。
ここに収録されているナンバーはどれも素晴らしいが、中でも白眉はルーファス・トーマスとアイザック・ヘイズである。ルーファス・トーマスの3曲「ブレイクダウン」「ドゥ・ザ・ファンキー・チキン」「ドゥ・ザ・ファンキー・ペンギン」は絶品のファンクで、彼の衣装といいステージ・パフォーマンスといい、どれもが最高(かなり笑える)なので、これはぜひとも映像を観ていただきたいと思う。
アルバム最後はアイザック・ヘイズの16分半にも及ぶビル・ウィザーズのカバー「エイント・ノー・サンシャイン」で、本来は「シャフトのテーマ」と「ソウルヴィル」が収録されるはずであったが、版権の問題(映画『黒いジャガー』の曲はMGMが著作権を持っており、使用できなかった)でカットされている。それでも、ここに収録されたヘイズの一曲はバックの分厚い演奏も含め、彼のカリスマ性を証明するのに十分だ。“黒いモーゼ”と呼ばれる彼の出で立ちは映像でぜひ確認してほしい。
2003年になって3枚組の完全に近いかたちで『ミュージック・フロム・ザ・ワッツタックス・フェスティバル&フィルム』がリリース(日本盤は2009年)されている。映画には登場するジェシー・ジャクソン牧師の「アイ・アム・サムバディ(私は人間だ)」を連呼する感動的なスピーチやキム・ウエストンの独唱、版権がクリアされアイザック・ヘイズの「シャフト」も収められているので、興味のある人はぜひ聴いてみてください。
TEXT:河崎直人