カルメン・マキがブルース
・クリエイションとともに
日本のロックの礎を
作り上げたと言っていい意欲作
同世代のバンドとのコラボ
続くM2「And You」、M3「Lord, I Can't Be Going No More」、M4「Empty Heart」はいずれも竹田が手掛けたナンバーで、M2はフォーキー、M3はブルース、M4はバラードと、テンポはミドル。それなりにバンドサウンドも目立つのだが(M3でのギターは相変わらずカッコ良いし、個人的にはM2でのドラムの鳴りが実にロックしててとても素晴らしいと思う!)、この辺りは本作がカルメン・マキというシンガーが参加したアルバムであることを意識しての選曲と構成であろうか。テンポが緩やかであるからヴォーカルが前に来ている感じではある。とりわけM4後半のアドリブっぽいシャウトは、流石に若い印象だし、のちの「私は風」辺りには及ばないかもしれないけれど、彼女が目指した方向がはっきりと示されていることがありありと感じられる。
M4まではアナログ盤でのA面。M5からはB面となるが、B面はいきなり重要な曲が配されている。M5「Motherless Child」だ。これは19世紀の黒人霊歌「Sometimes I Feel like A Motherless Child」のカバーで、その「Sometimes I Feel~」の邦題は「時には母のない子のように」。カルメン・マキのデビューシングルと同タイトルであり、「時には~」を作詞した寺山修司は「Sometimes I Feel~」からその発想を得たと言われている。本歌取りとは言えるものの、「時には~」と「Sometimes I Feel~」とは音楽的にはまったくの別物であるから、この関係を表す適切な言葉が浮かばないが、そこには何らかの意図があったことは間違いない。サウンドをゴリゴリのハードロックに仕上げていることからすると、やはり彼女のロックシンガー宣言と見るのが正しいのだろうか(すみません。この辺、彼女の発言など、しっかりと確証を得られるだけの資料を見つけることが出来ませんでした。ご存知の方がいらっしゃったら教えてください)。M6「I Can't Live For Today」は再びミディアムのブルースロック。ヴォーカルとエレキギターとのユニゾンや、2本のギターのアンサンブルなどを聴くことができて、改めて本作がロックバンドとのコラボレーションによるアルバムであることに気づかされる。
次のM7「Mean Old Boogie」は一転、軽快なR&R。タイトル通りブギーだ。これもヴォーカリストのアルバムっぽくないサウンドだが(特に間奏はそう)、曲調が明るめということもあってか、他に比べてマキの声が可愛らしい印象がある気がするのが面白い。全8曲と曲数は少なめでもバラエティーに富んでいる。フィナーレはM8「St. James Infirmary」。これも米国の古い黒人音楽をブルースロックに仕上げている。聴きどころはやはり歌だろう。迫力があるヴォーカル…というよりは、どこか鬼気迫る感じすらあるヴォーカリゼーションだ。こののちのカルメン・マキを知る人には若干の物足りなさがあるかもしれないが、過渡期であると考えても流石の表現力と言ってもいいはずだ。彼女のロック転身はJanis Joplinだったというから、M8ではJanis Joplin「Summertime」のようなことをやりたかったかもしれない。その心意気は充分に伝わってくる。
カルメン・マキとブルース・クリエイションとのコラボレーションは本作のみであったが、彼女はその後、カルメン・マキ&OZを結成。ブルース・クリエイションはバンド名をクリエイションと変えて渡米し、米国でアルバムのリリース、ツアーを行なうなど、ともに別のアプローチで日本のロックシーンを切り開いていった。本作にはそうしたパイオニアたちの萌芽がある。
TEXT:帆苅智之