21世紀
ニューオーリンズ・ファンクの傑作、
ドクター・ジョンの
『クリオール・ムーン』
さまざまな顔を持つドクターの音楽
90年代には壮大なルーツ回帰作『ゴーイン・バック・トゥ・ニューオーリンズ』(’92)を自身初のニューオーリンズ録音でリリースしている。90年代は軽めのファンクやジャズ寄りのアルバムを出し、1999年リリースの『デューク・エレガント』は、ブルーノートに移籍して初のアルバムとなる。デューク・エリントンのナンバーを取り上げているので、カクテルジャズ系の安易な企画モノかと思いきや、ドクターの大胆なアレンジで素晴らしいファンクアルバムになっていた。ここで素晴らしい演奏を聴かせていたのが、今後ドクターと長い付き合いになるザ・ロウワー・ナイン・エレブン(The Lower 9-11)。スタントン・ムーア擁するギャラクティックやパパ・グロウズ・ファンクなどにも通じる、ニューオーリンズの新しいファンクグループである。
本作『クリオール・ムーン』について
ヘヴィで重いリズムセクションを中心に、ドクターのキーボード(特にB3が素晴らしい)が縦横無尽に駆け巡り、ホーンセクションとコーラスが間を埋めるという展開は鳥肌ものである。ドクターの歌も軽やかで、いつもより上手く聴こえるのは少し不思議。
収録曲は全部で14曲(日本盤はボートラ1曲あり)。ホーンアレンジはドクターとJB’sのフレッド・ウェズリーが担当している。サックスにはデヴィッド・ファットヘッド・ニューマン、スライドギターにはサニー・ランドレス、フィドルにはケイジャン界の大スター、マイケル・ドゥーセら、大物アーティストたちが脇を固めている。また、ライナー内の写真はヘンリー・ディルツが撮っているという贅沢さ。
ミーターズがバックを務めたドクター・ジョンの70年代を代表する『イン・ザ・ライト・プレイス』『デシティブリー・ボナルー』の2枚と、そのほぼ30年後にリリースされた『デューク・エレガント』『クリオール・ムーン』の2枚は好対照となっており、ドクターの創作意欲が全く衰えを見せていないことに驚くが、彼は亡くなる直前まで精力的に活動しており、その枯れることのない才能がまさに人間国宝なのである。
TEXT:河崎直人