『ファーザー』(C)NEW ZEALAND TRUST CORPORATION AS TRUSTEE FOR ELAROF CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION TRADEMARK FATHER LIMITED F COMME FILM CINÉ-@ ORANGE STUDIO 2020

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【芸能コラム】第93回アカデミー賞最
大のサプライズ! 主演男優賞決定の
理由を考察

 4月25日(日本時間26日)に開催された第93回アカデミー賞授賞式。コロナ禍による異例づくめのセレモニー中、最大のサプライズとなったのが主演男優賞だった。5人の候補者の中で最有力と見られたのは、『マ・レイニーのブラックボトム』(Netflix配信中)のチャドウィック・ボーズマン。昨年8月にがんで亡くなったこともあり、追悼の意味も含めて受賞するのでは…というのが大方の予想だった。
 それを見越してか、例年はフィナーレを飾る作品賞を先に発表し、主演男優賞を最後に回すという異例の展開。だが、ふたを開けてみれば、受賞者は『ファーザー』(5月14日公開予定)のアンソニー・ホプキンスという結果に。しかも、ホプキンス本人が授賞式を欠席したため、スピーチなしの唐突な幕切れとなってしまった(後にホプキンスは、インスタグラムで受賞の喜びを語る動画を公開した)。
 ではなぜ、主演男優賞が、期待されたボーズマンではなく、ホプキンスに渡ったのか。その理由を考えてみたい。
 まず、両者の演技を振り返ってみる。ホプキンスが『ファーザー』で演じたのは、認知症を患った高齢の男性。徐々に記憶が混乱していくさまを、絶妙なユーモアを交えて熱演。観客に認知症を体感させるかのような演技は圧巻で、完全に「アンソニー・ホプキンスの映画」に仕上がっていた。
 これに対して『マ・レイニーのブラックボトム』でボーズマンが演じたのは、壮絶な過去を隠して生きる野心的なミュージシャン。「俺の音楽はこれだ!」と主張し、バンドを率いる人気歌手マ・レイニーと衝突する姿は、闘病中とは思えない力強さで、筆者も心を動かされた。だが同時に、マ・レイニー役のビオラ・デイビスと2人で作品を支えていた印象を受けたことも確か。その差が、ホプキンスに有利に働いたようにも思える。
 とはいえ、ゴールデングローブ賞や全米俳優組合賞など、前哨戦と呼ばれる賞レースでボーズマンがリードしていたのも事実だ。特に、全米俳優組合賞は、これまでアカデミー賞との一致率も高く、これを受賞したボーズマンが優勢と思われた。
 そこからの逆転を許した要因の一つとして考えられるのが、『マ・レイニーのブラックボトム』が配信作品だったことだ。コロナ禍の影響で、例外的に劇場公開されていない配信(を前提に製作された)作品が多数ノミネートされた今回のアカデミー賞。それを反映し、半数近い11部門でNetflixやAmazon primeなどの配信作品が栄冠に輝いた。その一方で、作品賞と演技4部門、監督賞の主要6部門は劇場公開作品が独占した。
 この結果から推測できるのは、投票するアカデミー会員たちの「劇場用作品を評価したい」という意識が、コロナ禍だからこそより強く働いたのでは…ということだ。状況的に配信作品は無視できないが、主要6部門はやはり劇場用映画に…といったところだろうか。これが、ボーズマンの賞逸につながった可能性も考えられる。
 観客の鑑賞形態や興行形態の異なる配信作品と劇場公開作品を同列に扱うべきか否か、といった課題はあるが、それはまた別の話だ。
 他にもさまざまな理由が考えられるが、確かなのは、アカデミー賞は少数の審査員が議論するのではなく、1万人とも言われる世界中のアカデミー会員たちの投票によって決まるため、意外な結果になる可能性は十分にある、ということだ。
 審査員が選考する場合は、その意思を賞に反映できるが、投票制の場合、開票するまで結果は誰にも分からないし、全体のバランスを考慮することもできない。つまり、この結果は決して、ボーズマンの熱演や生前の功績を否定するものではない。中には、ボーズマンとホプキンスで迷った末、ホプキンスに投票し、受賞結果を知って後悔している人がいるかもしれない。そうした意外さも含めて、こうしたことこそ、数々の逸話を残しながら長い歴史を積み重ねてきたアカデミー賞の面白さだとも言える。
 思わぬ幕切れとなった今回のアカデミー賞だが、その歴史をひも解けば、死後、2年連続で主演男優賞にノミネートされながら無冠に終わったものの、今や伝説的存在となったジェームズ・ディーンの例もある。そんなふうに、ボーズマンの名はこれからも長く語り継がれていってほしいし、ホプキンスの名演も、授賞式を台無しにした悪者扱いではなく、正当に評価されることを願う。それが、コロナ禍という未曽有の危機を経験した映画の未来を切り開くことにつながると信じるからだ。(井上健一)

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