斉藤和義のライブを愛してやまない姿
が真っ直ぐに伝わった、“幻のセット
リスト”無観客ライブ詳細レポート

KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2020 "202020" 幻のセットリストで2日間開催!~万事休すも起死回生~

2021.4.28 中野サンプラザホール
昨年に予定されていた全国ツアー『KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2020 “202020”』は全公演が延期。用意されていたセットリストは、残念ながらお蔵入りとなってしまっていたが、幻のまま終わらせないために実現されたのが、『KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2020 "202020" 幻のセットリストで2日間開催!~万事休すも起死回生~』であった。初日・4月27日(火)の公演は有観客ライブとして開催されたが、2日目・28日(水)の公演は東京都に対する緊急事態宣言によって中止。しかし、無観客という形にはなったものの、中野サンプラザで収録された映像は、5月1日(土)~5月7日(金)にイープラスのストリーミングサービス「Streaming+」で配信されている。このライブの模様をレポートする。
通常のライブと同じようにSEが流れて、ステージに現れた斉藤和義(Vo, Gt)、山口寛雄(Ba)、平里修一(Dr)、真壁陽平(Gt)。メンバー各々が楽器の準備を済ませると、ドラムスティックのカウントを合図に1曲目「傷だらけの天使」の演奏がスタートした。昨年1月にリリースされたアルバム『202020』でもオープニングを飾っていたこのインストゥルメンタルナンバーは、1974年に放送されて、今でも名作として語り継がれているドラマ『傷だらけの天使』のテーマソング。あのドラマで萩原健一水谷豊が演じたほろ苦い青春像を思い浮かべつつ、斉藤のブルージーなギタープレイ、グルーヴィーなバンドサウンドに耳を傾けるのは、何とも言えず胸に迫り来るものがある体験であった。
続いて「万事休す」と「アレ」も披露されて、ますます熱を帯びていったバンド演奏。4人各々が奏でるフレーズが有機的に結合し、ロックンロールバンドとしての黄金のアンサンブルを輝かせ続ける様に、ひたすら息を呑まされた。そして、ギターを弾きながら歌声を響かせる斉藤の姿が心底かっこいい。歌の伴奏として弾いているというよりも、ギターを弾きながら歌うことによって声の切れ味、パンチ力、情感を果てしなく豊かにしている――というような印象を常に放っているのが、斉藤和義というシンガーだ。そういう魅力は、配信される映像でも鮮烈に捉えられているに違いない。
「どうも、斉藤です。よろしくお願いします。こういう感じなんですね。ここにいたらわかると思うんですけど、“しーん……”っていう感じなので(笑)」と、最初のMCタイムで無観客の会場内を見回し、少々戸惑い気味の様子であったが、「画面の前のみなさんは楽しんでいただけているんでしょうかね? 今日、本当は来るはずだった方々がいるつもりで頑張りますので、最後までよろしくお願いします!」と、配信ライブに懸ける意気込みを語った斉藤。そして、演奏が再開された。清々しく躍動するサウンドが心地よかった「いつもの風景」。あのお馴染みのイントロが奏でられた瞬間に胸がときめき、ノスタルジックでブルージーなメロディに心奪われずにはいられなかった「ずっと好きだった」。東京の様々な素敵な場所を思い浮かべながら耳を傾けていると、平和な日常が恋しくて堪らなくなった「メトロに乗って」。スタイリッシュなサウンドが多彩な風景をイメージさせてくれた「I want to be a cat」。“猫の曲つながりで”という言葉が添えられてから演奏が始まり、穏やかなムードをじっくり醸し出していた「猫の毛」。高鳴り続けるバンドサウンドに包まれながらアコースティックギターを弾き、歌声を壮大に響かせる斉藤の姿が神々しく感じられた「オートリバース ~最後の恋~」……アルバム『202020』の収録曲、過去の曲が美しく連なり合っていく贅沢なひと時であった。
「ベース、山口寛雄! そしてドラムは、『202020』っていうアルバムを一緒にセッションしながら作って、去年のツアーから初めて参加するっていうことだったんですけど、やっと昨日、一緒にライブをやりましたね。平里修一! 『おちょやん』っていうトータス松本が出ているドラマの鶴亀新喜劇の社長に似ている気がするんですけどね(笑)。そしてギターは、おなじみ。真壁陽平!」。仲間たちを紹介しつつ、ユーモアを利かせたトークを展開していた中盤のMCタイム。「無観客、寂しいもんですね。テレビ収録とも違うし。どういう恰好で観てるんでしょうね? ぜひ、エロい恰好で観て欲しいですね。どうせなら。ノーブラ、ノーパンで。“そういう感じで観てるんだよ”と思うと、こっちもやる気が違いますからね(笑)」という話を経てから届けられたのは「君の顔が好きだ」。ピアノを弾きながら響かせる熱い歌声、躍動感に満ちたバンドサウンドが会場全体に生々しく広がっていった。
真壁のボトルネック奏法で彩られながら響き渡った「歌うたいのバラッド」は、名演と表現するのが実にふさわしいものとなっていた。曲が展開するほどに、ドラマチックさを増していったバンドサウンド。斉藤によるブルージーなエレキギターがアウトロでじっくり奏でられて締め括られた瞬間、何とも言えず綺麗な余韻が会場内に漂っていた。そして、斉藤がアコースティックギターを弾きながら1コーラスを歌った後に、他のメンバーの演奏も合流し、温かなサウンドが雄大に高鳴っていった「小さな夜」も、印象的だった曲として思い出される。こんなことを今更書くのは妙な気もするが……斉藤和義の音楽は本当に名曲の宝庫だ。
ライブが後半戦に差し掛かってきた辺りでは、アルバム『202020』の中で強烈な個性を放っていた曲たちの魅力を存分に体感することができた。サイケデリックでスペイシーなサウンドを妖艶にきらめかせていた「ニドヌリ」。山口のウッドベースがバンドサウンド全体に重厚なムードを添える中、サメやサングラスをめぐる不思議な物語がじっくりと歌い上げられた「シャーク」。真壁による華麗な速弾きプレイを経てから演奏が始まり、ルーズなノリのロックンロールを熱く響かせた「Room Number 999」。おそらく配信を観る視聴者の大半が画面の前で開放的に踊ることになるはずの「愛とやらにせっつかれているのは気のせい?」。アジテーションのように言葉を溢れ返らせていく斉藤の歌がとても刺激的だった「a song to you」……アルバム『202020』が名作であることを再確認させられる場面の連続となっていた。
観客がライブ会場で明るく大合唱できる日が、いつか戻ってくることを願わずにはいられなかった「ベリー ベリー ストロング ~アイネクライネ~」。間奏の時に斉藤、山口、真壁がステージの前方に飛び出して、平里のドラムが観客の手拍子を誘うかのように一際熱を帯びた場面が、有観客による平時のライブの臨場感を思い出させてくれた「歩いて帰ろう」……この2曲も披露されて本編は終了。そして、アンコールを始める前に、斉藤は想いを語った。「初めてこういう配信ライブをやりまして、やっぱり寂しい……。安全対策をしつつ、また早い段階でできるようになるといいなと思っております。でも、今日は今日で貴重な体験ができたので、楽しかったです。ありがとうございます!」。ライブを愛してやまない彼の姿が真っ直ぐに伝わってきて、思わず胸が熱くなる言葉だった。
「昔、大好きだったアニメで『アンデルセン物語』というのがあったんですけど、そこでかかってた曲」と言いつつ歌い始めた「キャンティのうた」は、安らぎに満ちた空間をステージ上に作り上げていた。『202020』は、先述の「傷だらけの天使」も含めて、斉藤が大好きな曲のカバーが収録されているのも魅力だ。「キャンティのうた」がこうして披露されたのも、今回の配信ライブの大切な見どころだと思う。そして、「このセットリストでやるというのは一応2本だけでしたけど、ライブはやれたということで。『202020』も、やっとちょっと浮かばれた気がしております。『202020』と、新しく出た『55 STONES』、2枚のアルバムを引っ提げてのツアーが5月2日からあるわけですけど。これからたくさん全国を回る予定なので、お近くに行った際は一緒に盛り上がれたらなと思っております。今日は観ていただいて本当にありがとうございました」という挨拶の後、ラストを締め括ったのは、3月24日にリリースされたニューアルバム『55 STONES』のリードトラック「Boy」だった。この曲の原型は、昨年の自粛期間の真っ只中だった5月中旬に斉藤がギターをふと手にした際に生まれた。イントロのリフが出来上がった時点で手応えがあり、メロディや歌詞のアイディアも一気に浮かんだのだという。そして、緊急事態宣言が明けた直後の5月下旬にレコーディングされたのだが、その時のメンバーがまさしく山口寛雄、真壁陽平、平里修一だ。彼らが斉藤と心底楽しそうに交し合っていたサウンドは、とても瑞々しいエネルギーを帯びていた。《Boy やめんなよ Oh Boy 夜明けは近いぜ》《Boy 歌おうよ Oh Boy 新しい歌でも》など、口ずさむと元気になるフレーズが、この曲の中にはたくさんある。配信ライブを観る全国の視聴者に、心のこもったエールを届けることになるだろう。
このようにして迎えた終演。「ありがとうございました!」と挨拶をしてステージを後にした4人の胸の内には、観客が目の前にいないことに対する寂しい気持ちも当然あったと思う。しかし、良い演奏ができた手応えも目いっぱいに感じていたはずだ。このライブの模様は5月7日(金)までイープラスのストリーミングサービス「Streaming+」で配信されている。非常に濃密な内容となっているのでお見逃しなく!
取材・文=田中大 撮影=岡田貴之

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