宮本浩次が明かす、最新作「sha・la
・la・la」誕生に至る激流と充実の日

3月27日(土)、フジテレビスペシャルドラマ『桶狭間~織田信長 覇王の誕生~』の主題歌として書いた新曲「shining」が配信スタート。4月3日(土)、新曲「passion」が、NHK『みんなのうた』にて6~7月に放送されることが発表に。4月15日(木)からは、テレビ朝日木曜ドラマ『桜の塔』の主題歌として、新曲「sha・la・la・la」のオンエアが始まる。

5月5日(水・祝)、千葉市蘇我スポーツ公園で行われたロック・フェス『JAPAN JAM 2021』の大トリとして出演。ソロとしてのブレイクで宮本浩次を知った新たなファンも、以前から宮本浩次を追って来たファンも、まとめて茫然自失とさせるような、とんでもないエネルギーのライブを、ギター・名越由貴夫、ベース・キタダマキ、ドラム・玉田豊夢、キーボード・奥野真哉と共にやってのける。
そして、2021年6月12日(土)=55歳の誕生日には、ワンマンライブ『宮本浩次縦横無尽』を東京ガーデンシアターで開催し、その4日後の6月16日には、前記の3曲を収録したニュー・シングル「sha・la・la・la」をリリースする。
2020年~2021年現在にかけての、世の中のこの状況においても、足をすくわれるどころか、むしろすさまじい勢いで加速しっぱなしの宮本浩次に、先日のライブと最新のシングルについて訊いた。
■本番までの1週間、様子がおかしくなってました
──5月5日の『JAPAN JAM 2021』の大トリのステージを観たんですが。すごかったです。
いいメンバーでしょ? エレファントカシマシは、音楽以前に中学高校の友達っていう、少年時代の友情を基本にして、そこの信頼感でやっているんだけど。この間の『JAPAN JAM』でやったメンバーは、基本的にプロの、何十年もギターを弾いてきたギタリスト、何十年もドラムを叩いてきたドラマー、オルガン、ベース──腕一本で勝負してきたトップ・プレイヤーたち。それぞれが戦いにまみれてきて、私以上にいろんな現場を経験している猛者たちだと思うんですね。だからリハの時点から、緊張感の非常に高い……『JAPAN JAM』に向けて、三回通しリハをしたんだけど。あのステージと同じ長さのものを、一回のリハにつき二回ずつやって。もう、死ぬかと思ったよ、俺。たとえば「Do you remember?」とか、「昇る太陽」とか、それでなくても限界ギリギリのとこで歌わざるを得ないじゃない?
──はい、そういう曲ですね。
という時に、今回のバンドの玉田くんのドラムは常に全力で、宮本浩次の歌に対して、さらに強い音で返ってくる。っていうのは、ちょっと経験がなくて。で、メンバー全員そうなんだよね。私が思ったのがね、たとえばレッド・ツェッペリンというバンドがすごく好きで。ジョン・ボーナムとジミー・ペイジの、あのバトルのすばらしさに、常に憧れてきた。で、ローリング・ストーンズのさ、友情に裏打ちされてる感じ……アプローチとしては、どこかエレファントカシマシ的なものを感じるのね。
──ああ、わかります。
ストーンズみたいなトップ・バンドに対して、そんなこと言うのはあれだけど、俺の中での比較だから。で、ソロの今のバンドは、レッド・ツェッペリンの緊迫感っていうぐらい、ものすごいんだ、リハの時から常に全力投球で。「よし、このままどうなったっていい!」ぐらいの気持ちでやらないと。びくともしないからさ、あのメンバーは。
──ソロで、バンド編成でライブをできたのは、三回目でしたよね。2019年8月の『ROCK IN JAPAN FES.2019』と、年末の『COUNTDOWN JAPAN 19/20』以来。
そう、1年半ぶり。だからもう、楽しみで、もう……「俺、こんなにコンサート好きだったのか?」って思うくらい。本番までの1週間、様子がおかしくなってました。
──(笑)そこまで!?
どういう精神状態なのかわかんないんだけど、メシを抜いたりとか。涙もろくなるしさ。で、リハがもう楽しくてね、音出すのが。昨日のリハとまた違うわけよ、返ってくる音が。
──だから、ステージに出てきての第一声が、「エブリバディ! おじさんうれしくて気が狂いそうです!」だったんですね。
そう、それはね、伝えなきゃいけないと思ったの。本当にうれしかったから。あのメンバーで音を出せる喜びもそうだし、人前で歌える喜びもそうだし。それから、あのタイミングでフェスをやっている、っていうすごさもあったじゃない?
──そうですね、中止せずに。
そういう、力強いメッセージもあって、何しろ本当に楽しみでしょうがなかった。うれしくてしょうがなかったから、それを伝えなきゃと思った、まず。
■文部科学大臣賞は、俺が思ってる以上に、
ファンの人が喜んでくれたのがうれしかった
──『ROMANCE』からも何曲か歌われてましたけれども。あのアルバムの大ヒットというのは、どのように受け止めておられます?
あのアルバムは、小林(武史)さんはじめ、みなさんの、すばらしい豪華なアレンジとサウンドが付いてるけど、最初は、作業場で自分が弾き語りで歌った歌が、基本になってるわけよ。それが売れたっていうことが、ものすごいうれしかった。その作業場で自分で録ったテイクを、そのまま本番の歌に使ってる曲も……「木綿のハンカチーフ」もそうだし、「化粧」もそうだし、「白いパラソル」もそうだし、「ジョニィへの伝言」もそうだし、「ロマンス」もそうだし。自分の解釈による名曲が、そのままの歌で届いてる。その事実が、シンガー宮本として、どれだけ強い自信につながるか、っていうことですよね。(芸術選奨)文部科学大臣賞も──。
──受賞しましたよね。大衆芸能部門。
あれも、俺が思ってる以上に、ファンの人が喜んでくれたのがうれしかった。ファンの人って、やっぱり孤独なんだよね。「エレカシって知ってる?」って言っても、知らない人がほとんどだし、知ってる人がいたとしても「あの頭をグシャグシャってやる人?」とか。そう言われてた人たちが、「ほら、私は正しかった!」って思える経験だったんじゃないかな。『ROMANCE』が、ゴールド・ディスク大賞の、企画・アルバム・オブ・ザ・イヤーに選ばれたのも……リアルに売れてるものしか、ゴールドディスクってとれないから。それもすごくうれしかったし。
──シングル「sha・la・la・la」の3曲に関しては、いつ頃から動いておられたんですか。
去年(2020年)の12月に『桶狭間』の話がフジテレビからあって。河毛俊作監督はじめ、フジテレビのスタッフの方と会って。もう映像が完成していたので、それを観て、「shining」ってタイトルがいいだろう、と思いついたんだけど。いろんなシーンをイメージして、「shining 1」から「shining 4」ぐらいまで作ってね。
──「shining」は、まずイントロが新鮮でした。スパニッシュ・ギターで始まる。
あれは、フジテレビの『鬼平犯科帳』、中村吉右衛門さんが長谷川平蔵の役をやっている、池波正太郎原作のドラマがすごく好きだったんです、私は。そのエンディング・テーマが、スパニッシュの曲だったの。それがすごく印象に残っていて。当時はその曲がジプシー・キングスっていうのを知らないで、エンディングまで観るのがすごい楽しみだったの。
──ジプシー・キングスの「インスピレーション」。あのイメージだったんですね。
昔のそういう時代劇……たとえばNHKで『腕におぼえあり』っていう時代劇があって、その曲のイントロで、近藤等則さんがすごく印象的なトランペットを吹いていて。それで近藤等則さん、絶対「東京の空」で吹いてもらいたいと思って(※1994年リリースの7thアルバムのタイトル曲に、近藤等則が参加)。
──ああ、それがきっかけなんですね。
それで今回、ジプシー・キングスのその曲に触発されて。それから、「passion」は、2020年の秋に「『みんなのうた』をぜひ」という話が来て。前回、エレファントカシマシで「風と共に」をやったんだけど(2017年6~7月放送)、それが、加藤久仁生さんの素敵なアニメーションも含めて、すごく優しいテイストで。ああいう感じの曲がいいのかなと思ったら、「男っぽい歌がいいです、宮本節でお願いします」って言われて。
──アッパーな曲調ですよね。
それで、1月にテレビ朝日のドラマ『桜の塔』の主題歌の話があって。そのプロデューサーと打ち合わせをしたら、非常に明快な方針を持っていて。「じゃあ、どういう曲がいいですか?」って訊いたら、そこでも「宮本節で」って言われたんですよ。
■自分の写真を見たら、ライブの現場にいるのに、
ひとりでいても違和感がなかったの。
初めてそう思ったんだよね、俺
──それで「sha・la・la・la」を書くにあたって、とっかかりになったアイディアってありました?
『桶狭間』はもう映像も上がってたし、スタッフの中にも明快なエンディング曲のイメージがあったのね。でも『桜の塔』の方は、当然、映像はまだだし……彼らの中で、ドラマのイメージははっきりしてたんだけども、曲に関しては、自由裁量で任されて。まず「sha・la・la・la」っていう言葉がデモの段階からあって、その言葉がどこまで説得力を持って……いい言葉じゃない? 不思議な哀愁があって、投げやりな感じもあって、でもなんかこう、いいものを持ってるじゃない? 「sha・la・la・la」っていう言葉と、あのメロディが。それをどうやっていい形にしようかな、というので作っていきましたね。
──この曲の歌詞は、これまで宮本さんが何度も歌ってきた、テーマにしてきた内容なんだけど、不思議に新しい感じがして。前もあった、でも今の空気になっているというか。
ああ、でもそれねえ……さっきのライブの話に似てるんだけどね、あの、もう、うれしくてしょうがないんですよね。それは……なんつったらいいんだろうなあ……このシングルの初回盤のね、『JAPAN JAM 2021』の時の写真を、岡田さんが撮ってくれたのね。
──初回限定盤に付く、岡田貴之さんが『JAPAN JAM 2021』の日の宮本さんを撮ったドキュメントフォトブック。
それを見て、ほんとにびっくりしたんだけど。いつもだったらそこに、メンバーが写ってないと、なんとなく寂しそうに見える。でもその写真がさ、ライブの現場にいるのに、ひとりでいても違和感がなかったの。初めてそう思ったんだよね、俺。
──へえ!
うん……まあ、非常に充実してるっていうかね。これが生きるっていうことだろうな、と思う。だから前は、散歩する宮本浩次だったりとかさ、文学者に憧れる宮本浩次、漢文に憧れる宮本浩次、ロック・スターに憧れる宮本浩次、いろいろいたんだけれども。でもその写真を見たら、初めて、ただのロック歌手として、そこに立ってたんだよ。自分で見てそう思って、本当に驚いた。まあ、そういう写真を、デザイナーの吉田ユニさんが選んでくれたのかもしんないんだけど……あ、でも、MUSICA(音楽雑誌)の写真を見てもそう思ったから、もしかすると、俺がそういうふうに変わったのかもしれない。
──それは大きいことですね。
うん。これこそが、ちゃんとしたロック歌手になった証なんじゃないか、と思っていて。それは、みんなが宮本浩次の歌がいいって言ってくれて、曲の発注を受けて……「宮本節でお願いします」って言われて、宮本浩次のいちばん純度の高いものを作る。「sha・la・la・la」で言うなら、これまで常に歌ってきたようなテーマなんだけど……たとえば「無事なる男」っていう歌のね(1992年の『エレファントカシマシ5』収録曲)、<『だってそうだろう。こんなもんじゃねえだろうこの世の暮らしは。もっとなんだか、きっとなんだか、ありそうな気がしてるんだ。』>とか──。
■ほっといたって死ぬし、がんばったって死ぬし。
何しろ、そういうことも含めて、幸せだっていうことなんですよ
──ああ、ある意味同じですよね。
あれ、24歳の時に作ってる歌だし。そういう歌っていっぱいあるじゃない? エレファントカシマシに。でも、30年以上の時間を経てさ、今また同じことを言ってる。「sha・la・la・la」で、<星に願いをかけた二十歳の頃 いかした大人になりたいってよ 粋で洒落てて金持ちで 愛する人のためには命さえ捧げる そんな大人さ>とか。だから今は、ひとりのシンガー、社会人として、世の中に対峙してるっていう感じが、すごくしていて。だからこそ、体調の管理しなきゃいけないとかさ、出てくるわけよ。筋トレとか。落ちていくのが人生だ、衰えて朽ち果てていかざるを得ないにもかかわらず、なんで俺は腕立て伏せ30回を3セットやらなきゃいけないんだ、とか。
──(笑)。
でも、ほっといたって死ぬし、がんばったって死ぬし。何しろ、そういうことも含めて、幸せだっていうことなんですよ。だから、同じことを歌っていても、新しさがあるとするならば……エレファントカシマシの宮本浩次がソロをやってるんじゃなくて、『宮本、独歩。』と『ROMANCE』で、ある程度の市民権を得たことによって、まわりも宮本浩次を、ちょっと、そういう目で見てくれるようになった。バンドマン宮本浩次から、ソロの宮本浩次へと、ようやく産声をあげた。その中でようやく、宮本浩次がくり返し歌ってきたテーマが、白日の下にさらされた、その第一弾だっていうふうに、この3曲のシングルに関しては思っていて。
──『みんなのうた』に、エレファントカシマシで「風と共に」を提供した時は、『みんなのうた』に似つかわしい曲調でしたけど。「passion」は、依頼した側も『みんなのうた』っぽさよりも「宮本節」であることを望んでいたんですね。
そう言ってた。「『ガストロンジャー』のような曲を」って言ってたし。それぐらい、メッセージ性が強い曲を……今、こういう世の中で、『みんなのうた』に耳を傾けてくれる人たちを、肯定してほしい、ということだったの。<どの道 この道 俺の道 行くぜ 転がり続けろ>とか。<俺の生涯に悔いなしって言いたいぜ>とか。もう、ネガティブなことを一切排除して。青年時代に追い求めた、悩み、葛藤の中にあるカタルシス、葛藤するからこそ人生だ、みたいな……エレファントカシマシ、初期の作品はそうだったけど、それを経た、ひとりの人間の目指すものって、こうやって生きていること、夢を追い求めることだ、っていう言い方もできるじゃない? 快/不快で言ったら、「不快な思いで今日1日を送りたい」って思って出かけて行く人って、ひとりもいないと俺は思っていて。人は絶対快を求める、って思ってる。そこの部分をちゃんと、まっすぐ、全部歌ってやる、っていうふうに思って作りました。
──依頼した側に「今のこういう世の中だから」というのがあったんですね。
この3曲によって、私はかなりすっきりした部分がある。小林さんとの信頼関係もそうだし、ライブにおいても、このメンバーで……宮本浩次が小さくない、大きな宮本浩次、彼らをひっぱっていく宮本浩次でいたいと思える現場だしね。一歩間違えると、一発ですから。
──ああ、食われる。
だから、彼らと一緒に音を出せるのは、本当に楽しみでしかたないし。ただ一方で、体力が回復しないところを見ると、思ってる以上にエネルギーを使ってるんだよね。今でも身体の疲れが完全に抜けてないというか(※このインタビューは、そのライブの1週間後)。ようやく治ってきたけど。だから、相当タフに身体を作り直すぐらいの感じでやらないと。宮本浩次のキャリアの中で、いちばん手強いね。
──『JAPAN JAM』のステージ、11曲だったじゃないですか。エレファントカシマシのワンマンでは、30曲ぐらい平気でやってるのに。
そう、それがねえ……ほら、昔、エレファントカシマシ、7曲か8曲しかやんなかったじゃないですか?
──はい、デビュー間もない頃。
あん時と同じぐらいエネルギーを使ってる、そういうニュアンスだよね。
──(笑)ああ、なるほど。
だから、ちょっとヤバいですよ。これでツアーに出たらできんのかな? っていう。そういう悩みの中にいます(笑)。ものすごい楽しみですね。

取材・文=兵庫慎司 撮影=吉場正和

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