南佳孝の真のデビューアルバム
『忘れられた夏』に聴く
名うてのミュージシャンたちの
素晴らしきアンサンブル

伝説的プレイヤーたちの共演

アルバム『忘れられた夏』のオープニングはポップで明るい雰囲気のM1「これで準備OK」。ファンキーなリズムと、ギターのカッティングが印象的なソウルナンバーだ。先に述べたように、個々の音が踊っているかのように鳴っており、それが折り重なって楽曲を構成している。キャッチーな歌メロもさることながら、間奏で嘶くサックス、アウトロ近くでのエレキギター、エレキピアノの旋律も耳を惹くし、楽曲を根底で支えているベースラインも個性的である。バンドメンバーは、鈴木茂(Gu)、小原 礼(Ba)、林 立夫(Dr)、佐藤 博(Key)、浜口茂外也(Per)に、南を加えた面子。サックスはJake H. Concepcion(Sax)で、ホーンセクションはそのJake率いるグループが担当している。音楽ファンには上記メンバーの説明は不要だろう。1970年代、キャラメル・ママからティン・パン・アレーへとバンド名を変えたグループのメンバー、サディスティック・ミカ・バンドのベーシスト、そして“King of Sax”と言われたサクソフォン奏者である。今となってみれば、伝説的プレイヤーの共演である。活き活きとした演奏になっているのは当たり前と言っていい。当時、ほとんどのメンバーが20代前半ではあったが、流石の演奏を響かせている。そのはつらつした感じは歌詞からも感じられる。

《つまらない事は シャワーで洗い流して/オーデコロンをたっぷり体になじませて》《鏡の前でヘアーリキッドふって/リーゼントにくしを入れ》《だけどおニューのくつが見つからない》《おろしたてのスーツに体を包み込み/これで準備OK オンボロ車で飛び出せ》(M1「これで準備OK」)。

本作『忘れられた夏』は南佳孝の2ndアルバムであって、これが彼のデビュー作ではない。1stアルバムは1973年の『摩天楼のヒロイン』。1stから2ndまでは実に3年のインターバルを要している。これには、前述した南本人がシンガーとして表に出ることを望まなかったからだとか、1stのセールスが芳しくなかったからだとか、諸説あるようだが(多分どちらも…だろうが)、いずれにしても本作が心機一転のタイミングで発表する作品であったのは事実だろう。先行シングルとしてもリリースされたM1「これで準備OK」は、サウンド、歌詞の両面から見てもオープニングナンバーに相応しい。続くM2「ジャングル・ジム・ランド」はラテンを感じさせるファンキーなナンバー。M1と同じバンドメンバーで、これまた独特のアンサンブルを展開している。

M3「ブルーズでも歌って」は文字通りのブルースであり、一転、ミドルテンポに雰囲気が変わるが、バンドメンバーもチェンジ。佐藤 博、Jakeを除いて、直居隆雄(Gu)、稲葉国光(Ba)、宮沢昭一(Dr)といったジャズメンに加えて、シンセ(※正確には“Moog”とクレジットされている)を矢野 誠(Key)が務めている。ブルースとはいえ、音像はやはりジャズテイストが強めというか、都会的な仕上がりと言える。とりわけ間奏のサックスがムーディだ。M4「眠りの島」、M5「忘れられた夏」も上記メンバーに乾 裕樹(Key)、浜口茂外也、M4では鈴木告(Trb)が加わり、アダルトで落ち着いたサウンドを響かせる。ムード歌謡的な空気感を漂わせつつ、サビで異国的な雰囲気が醸し出されるという、何とも不思議なM4。幻想的なエレピ、サビに重なる箇所で一風変わったエフェクトを聴かせるギターと、音色のセレクトも興味深いM5。ともにゆったりと聴かせるだけでなく、サウンドの妙味も示している。名うてのミュージシャンを司りつつ、アンサンブルに留まらず、独自のフレイバーを注入しているのは、南佳孝のアーティストとしての面目躍如と言っていいだろう。

OKMusic編集部

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