INTERVIEW / ION AWA楽曲コンテスト
でW受賞。チルを愛する新鋭・ION、そ
のバックグラウンドからアーティスト
としての核に迫る

ボースティングやいわゆる“ラップ・ゲーム”とは遠く距離を置き、メロディックなフロウで等身大のリリックを届ける。そんなラップ・ミュージックを発信する新世代アーティストが注目を集めつつある昨今、大阪出身のIONはまさにそんなシーンに急速的に喰い込んできそうな新鋭だ。
昨年リリースの1st EP『Just Size』収録曲「youth」が話題を呼び、今年開催されたサブスクリプション型(定額制)音楽配信サービス「AWA」による若手アーティストの知名度向上を目的とした楽曲コンテスト 『AWA ROOKIES STAGE』(https://news.awa.fm/awa-rookies-stage) で再生数ランキングで3位を獲得。同コンテストにサポート参加させてもらったSpincoasterでは、特別審査員賞としても選出。今回はそんな新たな才能を世に知らしめるため、ION初のインタビューをお届けする。
Interview & Text, Photo by Takazumi Hosaka
多様なバックグランド〜ラップとの出会い
――音楽との出会いについて教えて下さい。
ION:元々両親が音楽好きで、小学校の頃には尾崎豊さんやTHE BLUE HEARTSなどのロックだったり、ヤンチャな友だちや先輩たちの影響でCHEHONさんなどのジャパレゲなどを聴いていました。でも小6か中1くらいのときに、当時流行ってた「Baby」がきっかけでJustin Bieberにハマって、来日公演も観に行ったんです。そこですごく衝撃を受けて。その後、知り合いの繋がりでボーイズ・グループのオーディションに挑戦してみたら、幸運なことにも受かって。そこでダンスを始めて、さらに聴く音楽が広がりました。
――昔から幅広い音楽を聴いていたんですね。ダンスはどのようなジャンルを?
ION:主にヒップホップとポッピンですね。ダンスの影響でヒップホップだったりエレクトロニック・ミュージックを聴く機会が自然と増えました。そのグループは方向性の違いなどで徐々にメンバーが抜けていき、自然と解散することになったんですけど、その一方で僕はダンス自体がめちゃくちゃ楽しくなってきて。高校生のときはずっとダンスしかしてなかったです。その後、京都造形芸術大学に入って、写真や映像の勉強も始めたんですけど、そのタイミングでまた友だちからダンス・ボーカル・グループに誘われて。そこでラップ・パートを担当するようになりました。
――そこからご自身のソロの活動へどのように移行していくのでしょうか?
ION:そのグループも「とりあえず1年頑張ろう」っていう話だったんですけど、結局1年経たずに解散してしまって。その頃、ちょうどBIMさんのアルバム『The Beam』に出会って。めちゃくちゃハマって、ライブにも行くようになりました。それまではダンスをやっていた関係で、USのメインストリーム寄りのラップばかり聴いていたんですけど、BIMさんの日本語で、肩の力が抜けた感じのラップを聴いて、「こんなスタイルあるんや」「自分もやってみたい」って思うようになりました。
――それから色々なラッパーを聴いたり?
ION:はい。唾奇さんやBASIさん、JJJさんなどにはとても影響を受けていると思います。あと、SIRUPさんやTENDREさんなどの、R&Bなどのブラック・ミュージックを軸としているアーティストさんの音源も聴くようになりました。
自分に言い聞かせる『Keep On Living』
――自身で楽曲を制作するようになったきっかけは?
ION:中退してしまった大学の同級生に、DJもやってて音楽制作の機材をいっぱい持ってるやつがいて。そいつの家で機材を触っていくうちに、自分でも作れるんじゃないかって思って。最初はフリマ・サイトでインターフェースとかを中古で買って、DTMを始めました。当時はタイプビートも知らなかったのと、ひとりで全部やる方がカッコいいって思ってて。トラックも自分で作ってSoundCloudなどにUPしてたんですけど、今ではもう聴けないようなレベルでしたね……(笑)。
――なるほど。
ION:色々と試行錯誤していくうちに、タイプビートを導入してみたらしっくりきて、YouTubeにも曲をUPするようになりました。その頃、元々知り合いだったYackleに「拡散を手伝ってほしい」って連絡したら、「これってリリースしないの?」って聞かれて。彼にディストリビューション・サービスなどを教えてもらって、曲をリリースしていくことになりました。
――Yackleくんとはファッション・ショーで出会ったそうですね。
ION:はい。当時、服好きなやつらでファッション・ショーを開催したりしていて。そこで友人伝いに知り合いました。リリースの話の流れでミックス・マスタリングもYackleにやってもらうようになって。
――昨年8月に1stシングル「youth」をリリースし、翌月には7曲入りEP『Just Size』を発表しています。この作品のトラックはタイプビートで?
ION:「ocean diving」と、スキット「restart」は自分で作りました。あとは『origami Home Sessions』のmabanuaさんのトラックを使わせてもらった「nogame」、大阪時代の友人と作った「pierce」、それ以外の3曲はタイプビートです。DTM自体はずっと独学なんですけど、東京で知り合った KIILOIHEYA(https://twitter.com/kiiloiheya) のメンバーに教えてもらったりしつつ。
――作品をストリーミング・サービス上でリリースして以降、環境や心境の変化はありましたか?
ION:めっちゃありましたね。色々なプレイリストにも入れてもらえて、再生数がSoundCloudとかに上げていたときの比じゃないくらい増えて。その分、より曲の細かい部分まで気にするようになりました。人にどういう風に受け止められるだろう、とか。アングラなラッパーさんからしたらイタいやつだと思われるんじゃないか、とか。最近では“自分は自分”って考えるようになりましたけど。
――リリックはどういった風に書くことが多いですか?
ION:フックから先に考えます。メロディに適当な言葉を付けて歌っているうちに、リリックが固まってきて。そこからヴァースも膨らませていくっていう感じです。自然とその時考えていることとか、その時の感情が出ていると思います。
――今年1月には早くも2nd EP『Keep On Living』がリリースされました。この作品はどのように生まれたのでしょうか?
ION:『Just Size』をリリースしてから、ありがたいことにワーナーのサブ・レーベル〈+809〉から声を掛けてもらえて。次の作品をサポートしてもらえるという話になったので、一気に制作していきました。タイトルの『Keep On Living』には……それこそ今はコロナ禍で、色々な人の生活にも影響が出ていますし、そうじゃなくても、生きているだけで嫌になることっていっぱいあるじゃないですか。本当、「死にてえな」って思うことも少なくない。でも、現実は続いていく。タイトルにはそんな想いが込められています。
――ある意味、自分に言い聞かせているというか
ION:そうですね。自分を励ますというか。「ラブでピース」は嫌なこともあればいいこともあるよって自分に言っているような感じです。この曲はTOCCHIさんの「これだけで十分なのに」の、BASIさんのカバー版に影響を受けた部分もあるのですが。勢い任せで作った『Just Size』と違って、『Keep On Living』はもっとじっくり考えながら作りました。
「基本的には毎日チルしていたい」
――今後の動きはどのように考えていますか?
ION:今はアルバムを制作していて、週イチでスタジオに行ってRECしています。「youth」を出してちょうど1年後になる8月辺りにリリースできるように動いているので、この1年での自分の成長をお見せできればなと思います。まずは先行シングルとして、SSWのameを客演に迎えた「夜中のドライブ」という曲を7月に配信する予定です。
――今の時点で、どのような作品になりそうか、見えてきていますか?
ION:作品としてはよりチルなサウンドを意識していて。他アーティストさんから提供してもらったビートを使用した曲も収録する予定ですし、『Just Size』から「youth」と「pierce (feat. PAIN)」、「nogame (feat.mabanua)」も新録して収録しようと考えています。リリックでは生きている上で感じる不満やフラストレーション、あとは元々好きな都市伝説というか、SFチックな内容も取り入れたりしつつ、それらをあくまでもポップに表現していけたらなと。
――Yackleくんとも曲を作っているそうですね。それもアルバムに?
ION:はい。アルバムとは別で、シングルとして発表すると思います。
――曲を書いて世に発表するという行為は、IONさんにとってどのような意味を持つ行為なのでしょうか。
ION:単純に自分の曲を聴いてもらって、褒めてもらえると嬉しいですし、何よりも自分のいいところも悪いところも出せるのって、僕にとっては音楽しかないんですよね。僕は普段、思っていることや自分の考えを人に伝えるのが得意ではないんですけど、音楽だったらそれがスムーズにできる。
――今後、どのようなアーティストになりたいと考えていますか?
ION:具体的なアーティスト像はまだ見えていないのですが、とにかくもっと多くの人に聴いてもらいたいなと思っています。あとは野外フェスなどにも出れたらいいなって。
――何か大きい夢などはありますか?
ION:40代くらいになったらカフェとかを開いて、スローライフを送れたら最高だなって思いますね(笑)。音楽は続けつつも、基本的には毎日チルしていたいです。
――やはりIONさんを形成する要素において、“チル”は欠かせないものなんですね。逆にテンションが上がる瞬間だったり、アッパーな気分になりたいときはないのでしょうか。
ION:それがあんまりないんですよね。お酒も弱いので全然飲まないですし。昔からチルな方が性に合うというか……今思い返せば、若い頃みんなとはしゃぐこともあったんですけど、それも周りに合わせるためにちょっと無理してたなって。だから、物心ついたときからこういう性格なんだと思います。
――ここ最近、コロナ禍が長く続いていることもあり、鬱屈とした気分になってしまう人も多いと思います。そんな状況下で、チルを愛するIONさんは心の平穏をどのように保っているのでしょうか。
ION:嫌なことがあっても、それを糧に曲を作れるって思えば耐えられるというか。あと、最近はそういう物事も、見方を変えれば大したことないことなんだって思うことが多いですね。唾奇さんのリリックにも《捉え方次第で変わるangle》(「Lycoris Sprengeri-紫狐の剃刀-」)という一節がありますけど、本当にその通りだなって思います。
【リリース情報】

ION 『Keep On Living』

Release Date:2021.01.27 (Wed.)
Label:ION / +809
Tracklist:
1. I believe
2. soulmate
3. HELP
4. GO
5. ラブでピース

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