半世紀以上に及ぶ活動の中で
最高傑作のひとつに挙げられる
ロッド・スチュワートの
『ナイト・オン・ザ・タウン』
本作
『ナイト・オン・ザ・タウン』について
カバー曲については前作ほど有名曲が収められているわけではないが、キャット・スティーブンスの「さびしき丘(原題:The First Cut Is The Deepest)」やラルフ・マクドナルド&ウィリアム・ソルターの「貿易風(原題:Trade Winds)」、マンフレッド・マンでヒットした「プリティ・フラミンゴ」など、今回も佳曲を取り上げている。面白いのはギブ・ギルボーのケイジャン・カントリー「ビッグ・バイユー」とハンク・トンプソンのカントリー・クラシック「人生の荒波(原題:Wild Side Of Life)」という2曲のカントリーナンバーが収録されているところ。「ビッグ・バイユー」は盟友ロン・ウッドのソロアルバム『ナウ・ルック』(’76)にも収録されているだけに、ふたりともこの曲にハマっていたのだろう。
アルバムは大ヒットした名曲「今夜きめよう(原題:Tonight’s The Night(Gonna Be Alright))」(8周連続全米1位)から始まる。途中に出てくるフランス語のダイアログはボンドガールで知られる映画女優のブリット・エクランドによるもの。当時エクランドはロッドのガールフレンドであった。続く「さびしき丘」(全英1位)、「フール・フォー・ユー」、「キリング・オブ・ジョージー・パート1&2」(全英2位)のどれもが紛れもない名曲。「フール〜」と「キリング〜」で聴けるジェシ・デイヴィスの泣きのギターが素晴らしい。「キリング・オブ・ジョージー・パート2」では、物語がビートルズの「ドント・レット・ミー・ダウン」のメロディーに乗せて歌われている。
LPではファストサイドとなっていた6曲目以降はカントリー(前述の「ビッグ・バイユー」と「人生の荒波」)でもロックンロール・スタイルで演奏されており、後のヒット曲「ホット・レッグス」の原型はここで生まれたことが分かる。ロッドがもっとも得意とするスタイルではあるが、本作以降のアルバムでは形骸化してしまっているのは残念だ。「ビッグ・バイユー」と「人生の荒波」に登場するフィドルのクレジットはないが、どちらもデビッド・リンドレーによるもの。
前作と本作の大ヒットでロックシンガーの頂点を極めたロッドであるが、次作の『明日へのキック・オフ(原題:Foot Loose & Fancy Free)』(’77)後はロックだけでなく、ジャズやディスコも歌えるポップスターとして活躍の場を広げている。ただ、ジェフ・ベック・グループ時代からロックシンガーとしてのロッドの歌を愛聴しているロックファンにとっては、少し寂しい気持ちになるというのが正直なところかもしれない。
TEXT:河崎直人