ボビー・チャールズのベアズヴィル盤
『ボビー・チャールズ』は、
ウッドストック産の
味わいに満ちたアルバム
本作『ボビー・チャールズ』について
72年にリリースされた本作は、中でもサポートミュージシャンの豪華さで話題となったのだが、大したセールスとはならず、数年後には廃盤となり幻の名盤として扱われた。日本ではロック名盤復活シリーズと銘打たれ、ジョン・サイモンの初ソロ作やフィフス・アヴェニュー・バンドと並んで77年に初めて国内盤がリリースされている。
本作に参加したミュージシャンは、ザ・バンドからロビー・ロバートソンを除く4名(レヴォン・ヘルム、リック・ダンコ、リチャード・マニュエル、ガース・ハドソン)とジョン・サイモン、ジャニス・ジョプリンのフル・ティルト・ブギーからジョン・ティル、ポールバタフィールド・ブルースバンドにいたバグシー・モウとデビッド・サンボーン、ニューオーリンズのドクター・ジョン、マザーズのビリー・マンディ、ディランのローリング・サンダー・レビューで音楽監督も務めたボブ・ニューワース、ハングリー・チャックからはジェフ・ガッチョンを除く4人(ギターの名手エイモス・ギャレット、ジム・コルグローブ、N・D・スマート、ニール・ヤングのストレイ・ゲイターズにも在籍した著名なペダルスティール奏者のベン・キース)、ジェフ・マルダーなどなど、“歌”のサポートに長けたメンバーたちばかり。
収録曲は全部で10曲(CD化に際し数曲のボートラ付きバージョンもある)。ボビー・チャールズのシンプルかつ優しげなヴォーカルをはじめ、どの曲も味わい深く滋味に富んだ演奏が聴ける。とりわけ「スモール・タウン・トーク」(リック・ダンコと共作)「テネシー・ブルース」「アイ・マスト・ビー・イン・ア・グッド・プレイス・ナウ」の3曲は絶品で、奇跡に近い名演だと思う。
本作を聴いていると、友人と楽しい時間を過ごしたような気持ちになるから不思議なものだ。青年期から老年期に至るまでじっくり付き合えるアメリカーナ的作品で、リスナーの日常に寄り添ってくれる稀有な作品である。
TEXT:河崎直人