情感にあふれた
陰影のある歌を聴かせる
マリア・マッキーの『永遠の罪』

ソロとしての活動

ローン・ジャスティス解散前から、パロミノ仲間のドワイト・ヨーカムに誘われてツアーやレコーディングに参加し、解散後の87年にはザ・バンドのロビー・ロバートソン初のソロアルバムに参加するという幸運に恵まれると、1989年には待望のソロアルバム『マリア・マッキー』をリリースする。プロデュースはミッチェル・フルーム、エンジニアにはチャド・ブレイクというロス・ロボスで名を上げた名コンビが担当し、バックにはリチャード・トンプソン、マーク・リーボウ、ジム・ケルトナー、ジェリー・シェフといった大物ミュージシャンたちが参加している。ソングライティングではマッキーが中心となり、ロビー・ロバートソンも作詞で1曲共作するなど、当時は大きな話題となった。また、ブルース・ブロディ(元パティ・スミス・グループ)は曲作り、アレンジ、キーボードなど八面六臂の活躍で、彼なしではこのアルバムは成立しなかっただろう。

このデビューソロ作はローン・ジャスティス時代とは違って、カントリー系の要素よりもアメリカンロック的な要素が強くなっており、ボーカルはもちろんソングライティングやアレンジ面もよく練られている。ソングライターとして、また実直なロックシンガーとして文句なしの仕上がりになった。アルバムジャケットのマッキーのポートレートはとても美しく、当時ジャケ買いした人も少なくなかった。

本作『永遠の罪』について

ソロデビュー作から4年が経過した93年、本作『永遠の罪』はリリースされた。プロデュースにはアメリカンレコードのジョージ・ドラクリアス。彼はジェイホークスの傑作『ハリウッド・タウンホール』(’92)のプロデュースも手掛けており、その縁でジェイホークスのメンバーふたり(マーク・オルソン、ゲイリー・ローリス)が本作のバックを務めることになった。前作の豪華絢爛なサウンドプロデュースとは打って変わって、手作り感のあるシンプルな音作りはマッキーのヴォーカルとの相性も良く、情感にあふれた熱いヴォーカルが全編にわたって聴ける。ところどころにジャニス・ジョプリンを思わせるような情熱的な歌い回しもあって、聴いている側も熱くなる。

また、バックはジェイホークスの他、ブルース・ブロディ(前作と同様)、黒人女性コーラス、スタックスでお馴染みのメンフィスホーンズ(泥臭さが最高!)、ジム・ケルトナー、ドン・ウォズ、ローン・ジャスティス時代の盟友2人(ドン・ヘフィントン、マーヴィン・エツィオーニ)、ベンモント・テンチ(ハートブレイカーズ)などのミュージシャンが参加している。

収録曲は全部で10曲。カントリーあり、サザンソウルあり、ロックあり、ポップスありとサウンドバリエーションに富んではいるが、全ての曲がマッキーのフィルターを通して解釈されているので、どのナンバーもバランス良く整然と並んでいる。フィリーソウル風の1曲目「アイム・ゴナ・スーズ・ユー」は絶品で、ストリングスをはじめ、バックの黒人女性コーラスもばっちり! また、これまで聴いたことのなかったマッキーのシャウトもすごいのひと言。ここから最後まで、息をつく間もなく彼女のヴォーカルに引き込まれてしまうのだ。印象的なのは、アルバム全編を彩るゲイリー・ローリスのギターワークで、決してうまくはないのだが、カントリーでもソウルでも彼ならではの歌心あるプレイがとても味わい深い。

僕自身、このアルバムを何回聴いたのか覚えてないぐらいたくさん聴いた。それなのに、飽きるどころかいつも新鮮な気持ちになるのだから不思議な作品だと思う。最後に、前作の美しさとは対照的な素のマッキーを捉えたジャケットのモノクロ写真は、デニス・ホッパーの手によるものである。

TEXT:河崎直人

アルバム『You Gotta Sin To Get Saved』1993年発表作品
    • <収録曲>
    • 1. アイム・ゴナ・スーズ・ユー/I'm Gonna Soothe You
    • 2. マイ・ロンリー・サッド・アイズ/My Lonely Sad Eyes
    • 3. マイ・ガールフッド・アマング・ジ・アウトローズ/My Girlhood Among the Outlaws
    • 4. オンリー・ワンス/Only Once
    • 5. アイ・フォーギブ・ユー/I Forgive You
    • 6. アイ・キャント・メイク・イット・アローン/I Can't Make It Alone
    • 7. プレシャス・タイム/Precious Time
    • 8. ウェイ・ヤング・ラバーズ・ドゥ/The Way Young Lovers Do
    • 9. ホワイ・ワズント・アイ・モア・グレイトフル/Why Wasn't I More Grateful (When Life Was Sweet)
    • 10. 永遠の罪/You Gotta Sin to Get Saved
『You Gotta Sin To Get Saved』(’93)/Maria McKee

OKMusic編集部

全ての音楽情報がここに、ファンから評論家まで、誰もが「アーティスト」、「音楽」がもつ可能性を最大限に発信できる音楽情報メディアです。

新着