仲村宗悟

仲村宗悟

【仲村宗悟 インタビュー】
“仲村宗悟はこういう曲も
書くんだ!?”と思わせたい

バラエティーに富んでいるけど、
アルバムとして統一感がある

「あなたのこと」と「素敵な世界」についてもお願いします。

「あなたのこと」はどストレートですよね(笑)。

そうですか? シャッフルチューンですがインターパートで6/8拍子になったり、2番はちょっとレゲェっぽくなったりしていてフックが効いていると思いますが。

そうなんですけど、意識的にトリッキーにしてやろうと思ったわけではなくて、僕の中でやりたいことがあったんです。曲調はまったく違うけど、潤さんと話した時にThe Beatlesの「レディ・マドンナ」みたいにしたいと言ったんです。ウォーキングベースでアッパーな感じにして、華やかなコーラスも入れて…みたいな。完全に「レディ・マドンナ」に寄せるんじゃなくて、そういう気持ちでアレンジしてほしいと伝えた結果、こういう曲になりました。これはバンドの演奏もすごく良いし、歌録りの時も気持ち良く歌えましたね。

「レディ・マドンナ」のような曲を作ろうではなくて、「レディ・マドンナ」の要素を活かして独自のものに仕上げたんですね。「あなたのこと」は“君のことが好きすぎてニヤついていたら君に蹴飛ばされてしまった”という歌詞も最高です(笑)。

“可愛い歌詞を書くな、10年前の俺”と思いました(笑)。本当に恋人のことが大好きで、蹴飛ばされても嬉しいというか…むしろ、蹴飛ばされるためにやっているみたいなところもあるという(笑)。すごくハッピーな曲なので、聴いてくれた人にもそれが伝わると嬉しいですね。「素敵な世界で」は3カ月前くらいに書いた曲なんですけど、自分の中で原点に帰ったというか。“他にないものにする”にとか“お洒落にする”にといったことを全部取っ払って、自分の中から出てくるメロディーを想いのままにかたちにして、言葉にしてみよう…みたいなところから入っていきました。

「素敵な世界で」はちょっとUKの香りもありますね。

さっきThe Beatlesの話をしましたけど、僕はUKロックも好きなんですよ。この曲の歌詞は…“世界中の人が手をつなぐ”とか“全ての人が平等に”ってことは絶対に無理じゃないですか。そういう中で、僕は自分の近くにいる人たちと幸せを分かち合えれば、それが一番いいと思っているんです。「素敵な世界で」はそういうことを歌っています。

全ての人が身近にいる人を大切に思うことが大きな平和につながると思うので、「素敵な世界で」の歌詞は心に響きましたよ。多面性ということではブラックコンテンポラリーに通じる味わいを活かした「チョコレート」も挙げられますね。

「チョコレート」はセクシーな曲が欲しくて作りました。僕の中で今、一番好きな曲調ですね。今までの仲村宗悟にはなかったタイプの曲ですけど、これもデモは作り込んだりせず、いつもどおりにアコギ一本で歌って、“ここのコード感は変えないでほしい”ということだったり、リズムパターンや鳴らしたい楽器の音を伝えてアレンジしてもらいました。ただ、この曲の歌詞は今回のアルバムの中で一番苦労しましたね。ストレートなラブソングに感じるかもしれない…受け取る人それぞれの解釈で全然構わないんですけど、僕のイメージではこのふたりはつき合っていていないんです。もっと言えば、お互いに違う相手がいてもいいくらいな状態。主人公のふたりは関係を持っていなけど、目から伝わってくるもので惑わされている…そういうことを描きたかったんです。あと、この曲はメロディーに言葉をハメるのも難しくて! 苦労した上で納得のいくものに仕上げられたという意味でも、「チョコレート」は思い入れが強いです。

必聴の一曲と言えますね。先ほど話をした「あなたのこと」と同じく、「チョコレート」もブラコンっぽさがありつつメロディー自体はモロにブラックミュージックではないというのも絶妙です。

それぞれの作家がそれぞれのバランス感覚を持っていると思うけど、僕のバランス感でブラックテイストとポップスフレイバーを混ぜ込むとこういうものになるんです。僕だけの配合の仕方というのがあるから。なので、“絶妙”と言っていただけて嬉しいです。

模倣で終わらせるのではなく、自分の音楽を作りたいという強い意志を感じます。さらに、『NATURAL』は楽曲クオリティーの高さに加えて、表現力に富んだヴォーカルも大きな聴きどころです。

歌の面では全体を通して力を入れすぎないということを意識しました。トップ近辺のハイトーンにいく時に、今までのレコーディンではちょっとキツくても声を張ったほうがカッコ良いと思って地声で歌っていたんですよ。でも、今回はファルセットを多用しました。“ナチュラル”というテーマだったり、アルバムを締め括るのが「素敵な世界で」という曲なので、それがそうさせたのかもしれないですね。激しく歌ったのは「わかってちょうだいね」くらいなので。歌唱面で特に印象が強い曲を挙げるとしたら、「チョコレート」と「素敵な世界で」かな? 「チョコレート」は基本的にリズムに対して後ろに乗って、楕円を描くようなイメージで歌うんですけど、それが後ろすぎてもいけないし、前に出てしまうとカッコ悪いという。特にBメロは、それを意識しましたね。「素敵な世界で」も固くなりすぎても違うし、ゆったり柔らかすぎても違うんですよ。なので、一本の太いものが真ん中にあって、その周りで遊んでいるようなイメージで歌いました。

「素敵な世界で」のAメロもそうですが、今作はローヴォイスも結構使われていますね。低いキーでメロディアスな曲をきれいに聴かせるのは難しいという話も耳にしますが、仲村さんはいかがでしたか?

難しかったです。でも、声の響かせ方というのがいろいろあって、低いところを歌う時に“低い声を出しています”というふうに歌うと重ったるく聴こえるんですよ。そうじゃなくて、上を響かせるようにして歌うと低い音域でもライトに聴こえるっていう。レコーディンする時に自分でいろいろ試してみて、プロデューサーとも話し合いながら、どういう歌い方でいくかを決めていきました。

声域の広さに加えて、いろいろなニュアンスを使い分けられるのもさすがです。さて、『NATURAL』は仲村さんの魅力が詰まった一作になりましたね。

『NATURAL』はそれこそ10年前に書いた曲もあれば、つい最近書いた曲も入っているし、いろんな曲が入っているんですよね。それを並列で聴いた時に、当たり前のことではあるけど、作っている畑は一緒だなということを感じたんです。同じ畑で育ってきて、今があると。だから、『NATURAL』はバラエティーに富んでいるけど、アルバムとして統一感がある。そういうものが作れて良かったです。

OKMusic編集部

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