ケラリーノ・サンドロヴィッチ
meets 秋元 康で創造!
彼らにしか成し得なかった
歌謡曲が並ぶソロ作『原色』
超強力なメンバーが下支え
そんなサウンドに支えられたケラのパフォーマンスも、決してそれらに見劣りするものではないことを最後に強調しておこう。ケラというミュージシャンを説明する時、やはり本稿前半で説明したように、その多彩な活躍ぶりが注目されることが多く、作品に話が及んでも、類稀なるワードセンス、他者ではあまり見ることがないルーツの引用なども注目されることがほとんどだったと思う。少なくとも、そうしたことよりも先に彼の歌唱に関した話が語られることはほぼなかったような気がする。だが、有頂天結成から数えて40年間、ヴォーカリストを務めてきた人である。しかも、あらゆるユニット、バンドにおいて…だ。そのヴォイスパフォーマンスもまた悪いわけがないのである。
とりわけ本作ではシアトリカルな歌唱が目立つ印象である。具体的に示せば、M3「上海雪」では圧力が強め、M4「マリンタワー」ではまったりとした感じと、タイプは異なるが、共に楽曲の世界観に合わせた歌い方を見せている。M7「マリー(瞳の伝説)」のねっとりとした歌唱はまさにGSっぽい。M8「ほっといて」、M9「いくじなし」の歌劇的な感じは、ことさらに彼が劇作家であることとの関連を述べるまでもないけれども、何とも“らしい”と思わせるし、自身も楽しんで演じていたような印象を受ける。そんなふうに考えると、本作に関する文献を探すことが困難であったため、はっきりと断言することは難しいが、『原色』は、秋元康のプロデュースによって、奇才の新たな一面が開花したアルバムと言えるのかもしれない。
TEXT:帆苅智之