ケラリーノ・サンドロヴィッチ
meets 秋元 康で創造!
彼らにしか成し得なかった
歌謡曲が並ぶソロ作『原色』

超強力なメンバーが下支え

…と、かなりザっと全曲を解説してみたが、確かにほとんどがパロディーと呼んでいい代物ではあるものの、先に“大人が真剣にパロディーを楽しんでいる”と述べたように、チープさがないというか、適当にやっているような感じが微塵もないのである。その要因として、バンドサウンドがかなりしっかりとしている点が挙げられると思う。参加ミュージシャンのクレジットに、芳野藤丸と角田順というふたりのギタリストの名前がある他、ドラマーには長谷部徹、岡本郭男のふたり、パーカッションには浜口茂外也が名を連ねている。ベーシストには“HIDEKI MATSU”とあって、これとまったく同じ名前のミュージシャンを見つけられなかったが、ドラムに長谷部がいるとなると、これは松原秀樹のことかもしれない(違っていたらすみません。先に謝っておきます)。これらのメンバーの経歴はあえて説明しないけれども、現在まで日本の名立たるアーティストのレコーディング、ライヴに参加しているスタジオミュージシャンたちばかりである。それら凄腕の面子で、数多くの筒美京平作品のアレンジを手掛けてきた、日本を代表する編曲家と言っていい船山基紀の創造する楽曲を演奏するのだから、それが悪いはずはないのである。GS期からヒット曲を書いていた井上大輔のメロディーも然りであるし、秋元 康の歌詞はもはや説明は不要だろう。歌謡曲を作る布陣として、この上ない…とは流石に言い過ぎではあろうけれども、超強力なメンバーであったことは違いない。

そんなサウンドに支えられたケラのパフォーマンスも、決してそれらに見劣りするものではないことを最後に強調しておこう。ケラというミュージシャンを説明する時、やはり本稿前半で説明したように、その多彩な活躍ぶりが注目されることが多く、作品に話が及んでも、類稀なるワードセンス、他者ではあまり見ることがないルーツの引用なども注目されることがほとんどだったと思う。少なくとも、そうしたことよりも先に彼の歌唱に関した話が語られることはほぼなかったような気がする。だが、有頂天結成から数えて40年間、ヴォーカリストを務めてきた人である。しかも、あらゆるユニット、バンドにおいて…だ。そのヴォイスパフォーマンスもまた悪いわけがないのである。

とりわけ本作ではシアトリカルな歌唱が目立つ印象である。具体的に示せば、M3「上海雪」では圧力が強め、M4「マリンタワー」ではまったりとした感じと、タイプは異なるが、共に楽曲の世界観に合わせた歌い方を見せている。M7「マリー(瞳の伝説)」のねっとりとした歌唱はまさにGSっぽい。M8「ほっといて」、M9「いくじなし」の歌劇的な感じは、ことさらに彼が劇作家であることとの関連を述べるまでもないけれども、何とも“らしい”と思わせるし、自身も楽しんで演じていたような印象を受ける。そんなふうに考えると、本作に関する文献を探すことが困難であったため、はっきりと断言することは難しいが、『原色』は、秋元康のプロデュースによって、奇才の新たな一面が開花したアルバムと言えるのかもしれない。

TEXT:帆苅智之

アルバム『原色』1996年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.情熱の炎
    • 2.Continueしたい
    • 3.上海雪
    • 4.マリンタワー
    • 5.テレビのボリュームを下げてくれ
    • 6.サヨナラの前に接吻を
    • 7.マリー (瞳の伝説)
    • 8.ほっといて
    • 9.いくじなし
『原色』('96)/ケラ

OKMusic編集部

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