フリースタイルピアニスト・けいちゃ
ん、東京で初めての有観客ライブを開
催 両翼を広げ世界へ「もっと楽しい
ことができる」

ピアニストのけいちゃんが2021年7月10日(土)、Zepp Haneda(TOKYO)(東京都大田区)にて東京で初めての有観客ライブを行った。約1時間40分のステージでは、6月に発売したメジャーデビューアルバム『殻落箱(がららばこ)』収録曲ほか、ジャズやクラシックなど全15曲を〝熱奏〟。盛り上がる観客を前に「もっと楽しいことができる」と自信を見せ、「この世界に革命を起こしたい」と決意表明した。バンドメンバーを率いて展開中の『けいちゃん Zepp Tour 2021 ~ Freestyle Piano Party「殻落箱」~』の、東京公演の様子は同年7月25日(日)23:59まで、イープラス「Streaming+」でアーカイブ視聴できる。

羽田空港の跡地に昨年7月に誕生した複合施設「羽田イノベーションシティ」の中にある同会場。Zepp最大のキャパシティーを誇るホールに足を踏み入れると、ステージの中央に置かれたグランドピアノが青く照らされていた。目をこらしてみると、ピアノのそばには拡声器やショルダーキーボードなど、けいちゃんらしさを感じるアイテムが。これから始まる未知の世界に期待が膨らんでいく。
開演時間の午後6時ちょうどに真っ暗になったステージ。この時を待っていた観客たちが、手拍子を送り続ける。ドクドクという鼓動音や時計の秒針を思わせるチクタク音が、胸の高鳴りと重なる。ドラムやギターなどバンドメンバー4人が定位置に付くと、最後にヘッドマイクを付けたけいちゃんが登場。拍手がひときわ大きくなった。
東京都内で初めて行う、有観客でのワンマンライブ。記念すべきその時は、歌声を初めて披露した「浄土」で幕開けした。立ったまま鍵盤に手を置くけいちゃんのシルエットが、赤白に点滅する舞台上で揺れる。初音ミクと歌声を合わせた曲の中盤には、超高速演奏も披露。配信ライブじゃない。生のけいちゃんの迫力に、フロアが吸い込まれていく。右手で片合掌し、祈りを捧げて曲を終えたけいちゃんを、揺れるペンライトの光りが温かく迎えた。
手を止めずに始まった「透明シンデレラ」では、ステージからフロアへとのびる照明が、思考停止して生きている〝私〟を探すサーチライトのように光る。隠していた思いを浮かび上がらせるような激しいピアノで圧倒すると、脳天にナタを振り下ろすような鋭い歌声で、観客の心を揺さぶった。
「ハロー、東京」。有観客ライブ初めてのMCは、穏やかに始まった。「すげぇ、でけえ」と会場を見上げたけいちゃん。8日(木)の北海道から始まった全5カ所をめぐるツアーは、東京のみ「Streaming+」で配信。
「最初からアクセル全開で行きましたかね。疲れました」と肩をすくめてみせたが、「デビューアルバムの曲や違う曲をやったりするので、最後まで楽しんで」と呼びかけ。拡声器を手に取り始めた「般若 -HANNYA-」では、門馬由哉のギターとピアノの掛け合いを見せるなどして、魅了した。
時計の秒針音の中、ステージ上部から真っ白な光りが5人の心臓を照らした「From Impulse」では、胸を貫いた衝動に突き動かされるように音を加速させていく。目にも留まらぬスピードで88鍵を駆け抜けるけいちゃんのピアノに4人の音が重なることで、よりスピードが増す様子は、帆を膨らませて前進していく5人の思いを体現するようだった。
照明がセピア色に変わった空間で、曲の余韻を残すように。ジャズや、「エリーゼのために」(ベートーヴェン)のフレーズを演奏するなど、少しの間を経て「動き出すラボラトリー」が始まった。メンバーそれぞれの個人技を、手をひらつかせたり、ステップを踏むなどして楽しんだけいちゃん。ソロ回しの後、ショルダーキーボードを手に上手(かみて)に向かったけいちゃんは、左手を振りながら「ハロー」と〝音で会話〟するユニークな手法でファンにあいさつ。下手ではステージ前方に座り込み、至近距離でパフォーマンスを見せた。ショルダーキーボードを背中に回した中盤には、右手を背後の鍵盤に、左手をグランドピアノに置き〝二刀流〟の演奏で聴衆をくぎ付けにした。
「有観客ライブ。僕初めてなんですけど、どうですか?ちゃんとかっこいいですか?」と声をかけたMCでは、ベースの岩切信一郎からメンバーを紹介。梅雨の合間に青空が広がったこの日。門馬から「晴れ男」と褒められると、けいちゃんはうれしそうに笑っていた。
クラシック、ジャズ、ポップスなどを自由に弾く〝フリースタイルピアニスト〟が自身のコンセプトだと話したけいちゃんは、ジャンルを超えた楽曲を披露する「カバータイム」を展開。最初にバンドメンバーと「夏祭り」(JITTERIN'JINN)を披露すると、ひとりでステージに残ったけいちゃんは、ひとすじの光りの中で「Moanin’ 」(アート・ブレイキー&ザ・ジャズメッセンジャーズ)を演奏。色気のある音色で、フロアをスイングさせた。
繰り返されるフレーズに深い孤独を感じる「ノクターンOp.19-4」(チャイコフスキー)では、悲しい叫びを鍵盤に込めた。絶望の淵から見上げた空に、スッとのびたオレンジ色の光り。闇に沈んだ心に血を通わせていくように。丁寧に編み上げた「思い出に添えて」は希望の光を思わせた。聴き手の背中をそっとなでるような優しい音色で、観客を包み込んだ。
「どうでしたかー?」。鍵盤に向かう真剣なまなざしとは一転。人なつっこく笑ったMCでは、後ろを振り返り「あれ?(メンバー)戻ってきてー!!!どこ行っちゃったのーー!???」と甘える場面も。再登壇した4人は、昨年12月に無観客公演を行った、さいたまスーパーアリーナ(さいたま市中央区)でも共に舞台に立ったこと、またこの日の舞台セットがさいたま公演と一部同じであることなどを報告した。
門馬が「画面の中の人だったのが、生きていたってことですよね」と話すと、けいちゃんが「生で僕のことを見るのが初めてって言う人いますか?」と会場に問いかけ。7割くらいが手を挙げる状況を見たけいちゃんは「結構いるな。それは興奮するな」と高揚。「立てる人は立ってみましょうか」というけいちゃんの誘いに応えたファンに「みんなで一緒に1曲を作り上げていきましょう」と再び拡声器を手にすると、「盛り上がる準備はできていますかーー??」と呼びかけ。「もっと手を挙げて、あぁ良い景色だ」と笑うと、「パスピエ」がスタート。
けいちゃんの〝ひよこロゴ〟が入ったピンクやイエロー、グリーンなどのペンライトが会場で光りの波を作っていた。続く「World & Me」では、みずみずしい演奏で五線譜の中を泳いでいく。うっ屈した思いを吹き飛ばすようなパフォーマンスに、客席に笑顔が広がった。思いを受けたけいちゃんは、何度も客席に目をやりながら、大空を舞うように軽やかにプレーを継続。思いを交換し生まれた空間は、光に満ちていた。
「楽しい時間はあっと言う間に過ぎてしまい、残り2曲」と話したMCでは、「またライブをするので、よろしくお願いします。最後までその調子で。死ぬ気で盛り上がって」と語りかけたけいちゃん。バロック風のイントロから、けいちゃんのブラックな一面を感じる「千寸法師」では、ヘッドバンギングをするように大きく右肩を揺らし鍵盤に思いをぶつけていく。沈むベース、鋭いギターは聴き手を〝破滅のパーティー〟へといざなった。
「これで全曲。心の中で、いっぱい歌ってください」と熱く語った本編ラストは「√Future」で締めくくり。宇宙空間を疾走するようなピアノに息をのんだ。
アンコールを願う拍手に応え、「呼ばれた気がしたー」と再登場したけいちゃんは、「非常に気持ちが良い」と満足そうに会場を見つめると「僕は1年数カ月か前に活動を始めて、いま良い景色を見ることができています」と感謝。「でも私、まだまだ物足りないの。もっと楽しいことができると思うし。この世界に革命を起こしたいと思っているんです」と気炎。真っ赤に燃え上がったステージで決意表明のような「革命のエチュード」(ショパン)をバンドアレンジで聴かせ、圧倒した。
「最後まで盛り上がって行きましょう」と奏でた「HIRAKE-GOMA」では、華やかな音で会場を彩っていく。リズムに合わせて行進するように、足を上げた門馬の姿は、「共に歩んで行こう」というファンへのメッセージを感じさせた。
終演後はマニピュレーターでキーボードの大場 映岳-hana-、ドラムの生田目勇司らと並びファンに一礼。「みんな大好き。またどこかで会いましょう」と再会を誓っていた。
6月30日(水)に発売したアルバム『殻落箱』は、オリコン週間音楽ランキングのアルバムランキング(7月12日付)で10位を獲得。同週で1位を記録した韓国のBTSのベスト盤などと並ぶ偉業で、新人ながら注目度の高さをうかがわせた。羽田から両翼を広げたけいちゃん。その道は〝大成の日〟へと広がっていく。
取材・文=Ayano Nishimura 撮影=高浪裕太

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