カシオペア、
ライヴ録音に思えない
超絶演奏が満載『Mint Jams』は
文化遺産に推したほどの大々傑作

比類なきライヴアルバム

さて、そのポップさがあるところを大前提に押さえてもらったところで、本題に入る。今回、『CASIOPEA』と『Mint Jams』のアナログ盤が新たなカッティングで再発されるということで、当初は1stアルバムである『CASIOPEA』を取り上げようかと考えていた。こちらも大前提のポップさが発揮されつつ、どの曲においてもバンドのアンサンブルの妙は面白いし、ホーンセクションにBrecker Brothers、David Sanbornという世界的な奏者を迎えている楽曲での世界観の構築は申し分ないと言える。ロック的なキレとAORのムーディさが同居しているところもいい。デビュー作としては傑出している。

ところが…だ。『CASIOPEA』に続いて、『Mint Jams』を聴いて驚いた。ライヴ盤であることは承知していたけれど、聴き進めていくうちに徐々に度肝を抜かれていった。随所随所で“ほんとにライヴ盤!?”と感嘆したのである。自分が知るライヴアルバムと言うと、演奏テクニックうんぬんというよりも、ライヴ会場での空気感の再現が最優先である傾向があったように思う。RCサクセションの『RHAPSODY』然り、BOØWYの『“GIGS” JUST A HERO TOUR 1986』然り(チョイスが偏ってるけど…)。『MINT JAMS』は明らかにそれらとは違う。会場に立ち込めた空気感はほとんど無視していると言っていい。ライヴ会場での一発録りというか、ライヴテイクならではの緊張感ある演奏、そこだけにフォーカスしている印象である。どこのパートもめちゃくちゃテクニカルなのだ。こんなライヴ盤、少なくともポピュラーミュージックの分野では他にないと思う。

まずオープニングのM1「テイク・ミー」。ほんのわずかに残響音が感じられるところに、かろうじてライヴテイクであることを認識できるものの、知らないで聴いたらライヴ盤とは思わないであろう。楽器の音以外を極力抑えている。そして、アンサンブル。確かにギター、ベース、キーボード、ドラムの音だけが鳴っている。しかし、たった4つの音しか鳴っていない感じがほとんどしないのである。各パートの音符が多くて密集感が強い…とか、そういうことではなく、お互いがお互いの間を埋めていると言ったらいいだろうか。4つの音しかないが、まったく軽く聴こえないのである。相互に合っているかと言えば、デジタルサウンドのように完璧にジャストではない気もするけれど、それがいいグルーブを生んでいるようでもある。

M2「朝焼け」でさらにこちらのテンションが上がる。まずドラムとベースが見事にシンクロしていることに気付いて驚いた。ライヴ音源を使ってミックスしているといっても、ここまで正確にシンクロさせるのは相当に細かい作業が必要だろうから、これは実際の演奏がぴたりと合っていたということだろう。さらに、ギターのカッティングの正確さにも舌を巻く。“サンプリングマシンに取り込んでループさせているのか!?”と勢い思ってしまうほどの正確無比な演奏はすごいのひと言である。そうではないと分かっていても一応調べてみたのだが、[日本ではシンセ・プログラマーの先駆けである松武秀樹が1983年当時、国産初と思われるデジタル・サンプラーをスタジオで使用していた]ということなので、その情報が正しいとすれば、『MINT JAMS』のリリースはその1年前ということで、手弾きであったことは疑う余地すらもない([]はWikipediaからの引用)。

あと、その軽快なギターを支える他のパートの仕事っぷりも聴き逃せない。ギターがソロを弾く時になると鍵盤がギターカッティングに近いフレーズを繰り返す。そして、鍵盤が主旋律を弾くようになると、ギターがカッティングに戻りその背後を支えるというリレーション。後半、ギターが暴れ気味になっていくところは、ベースがしっかりとメロディーを鳴らす。時々スラップ的なおかずも入れながらなので、決してリズムをキープしているだけでもないベースの技にも脱帽だ。M2は終わり方のキレの良さも抜群! 気持ちいいほどにスパッと終わる。演者の息の合い方が尋常じゃないのはそこでも分かる。

OKMusic編集部

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