J-WALKの
『DOWN TOWN STORIES』から
“大人のロック”とは何かを検証

『DOWN TOWN STORIES』('90)/J-WALK

『DOWN TOWN STORIES』('90)/J-WALK

J-WALK(現:JAYWALK)の1stアルバム『Jay-Walk』、1stシングル「ジャストビコーズ」がリリースされたのは1981年6月1日。すなわち、今年デビュー40周年を迎えたことになる。幾度かのメンバーチェンジを経て、現在も元気に活動中のバンドである。今週はそんなベテランバンドのアルバムを紹介。東京オリンピックもほぼ無観客になり、選手たちに直接、声援を送ることができない…“まさに「何も言えなくて…夏」だなぁ”なんてことを考えて選んだわけではないので、悪しからずご了承くださいませ。

大人向けの情緒と成熟

40年ものキャリアを誇るバンド、J-WALK (現:JAYWALK)。彼らの熱心なリスナーではない筆者としては、本稿作成にあたってネットでその情報を漁ることになったわけだが、このバンドには“大人”という形容がわりとついていることに気づく。“大人のロック”、“大人のポップス”、“大人のラブソング”、“大人のサウンド”…そんな具合だ。ちなみに、彼らには「小さな君と八月の彼(とりあえず大人)」というレパートリーがあることも、“J-WALK 大人”でググって知った。まぁ、それはさておき──J-WALKの何が“大人”なのか。何を以て“大人”という形容がされているのか。その辺を、彼らの代表曲「何も言えなくて…夏」、そのオリジナル曲と言える「何も言えなくて」が収録されたアルバム『DOWN TOWN STORIES』から、恐れ多くも分析、検証してみようと考えた。 “大人”の基準はかなり曖昧なものであろうから、その辺は完全に独断となるが、あまり私見を入れず、それなりに平均的な基準の基で語りたいとは思う。そんな今週である。

アルバムを順に見ていこう。M1「DAYBREAK & DAYBREAK (Inst.)」はインストである。ややオキナワンを感じさせる主旋律はエレキギター。そこにシンセも重ねられている。曲が進むとギターの音圧も上がっていき、決しておとなしめではないけれど、テンポはゆったりとしている。バックに波の音で何とも雰囲気がある。そこに喧噪はない。エレキギターはロックな音像であろうが、少なくともキッズ向けでないことは間違いないだろう。ここにある情緒は大人向けだ。

そんなM1に続くのがM2「真冬のオン・ザ・ビーチ」。これはタイトルからしてアダルトではある。ビーチが大体、夏のものであることは、TUBEを聴くまでもなく、みなさん理解できるだろう。それを真逆の季節に持ってくるというのは、それ相応の見識、人生キャリアがあることの表れと言っていい。イントロからリズミカルに鳴るシンセの音、ドゥワップ的なコーラスワークからすると、そこがことさらに強調されているわけでもないけれど、いわゆるクリスマスソングと言ってもいいかもしれない。その一方で、サウンドはユニークで、間奏のシンセ(たぶん鍵盤だと思うが、もしかするとギターシンセかもしれない)はハワイアンな感じというか、明るくファニーな音色。アウトロで聴こえてくるギター(だと思う)のカッティングもなかなか個性的で面白い。クリスマスソングだからといって、もろにそれっぽい装飾をするだけではないところに、バンドの成熟さを感じるところではある。歌詞も渋い。
《長い歳月には/夏と同じ数の/暗い冬があること/忘れてないさ今の俺は》《つぎの夏は/ここには来ないよ 俺/終らせたくない/目の前の恋を/二度と離したくない》(M2「真冬のオン・ザ・ビーチ」)。
年齢を重ねなければ言えないというか、少しばかり含蓄を感じる内容ではあって、これが“大人のラブソング”なのかと独り言ちたところである。

M3「Thousand miles」もテンポはゆったりめ。イントロのメインはギターが務めているが、これも少しばかりハワイアンっぽい印象。派手さはないけれど、確実に自己主張している流麗な響きだ。そのギターは歌が始まるとヴォーカルに絡み、ブルージーな雰囲気を醸し出す。ヴォーカルはエモーショナルでありつつ、どっしりとした感じで、それに呼応したのか、間奏のエレキギターもそれまでと打って変わって太めの音を出しているのも聴きどころだろうか。そこに重なるサイケな感じのコーラスも興味深く、この辺もまたこのバンドの懐の深さが発揮されたものと見ることができると思う。歌詞は、そもそもこういうができるのは18歳以上であるし、わりと落ち着き払っているので、もっと齢上であることは間違いない。
《眠りにつく街や/やっと目覚めた街を/貫いて走る/この道が好きだから》《1000(a thousand)miles/君の声 聞きたくて/1000miles/俺はもうここまで来た》《しがみつく思い出も/退屈な毎日も/走り続ける俺に/追いつけはしないだろう》(M3「Thousand miles」)。

そして、件のM4「何も言えなくて」を迎える。歌詞の世界観を知ってしまった今、改めて聴くと、意外にもポップなサウンドで少し驚く。溌溂としている…とは言わないけれども、4つ打ちのドラムといい、エレキギターの奏でるメロディーといい、別れ歌の印象は薄い。この辺はサウンドと歌詞の対位法ということなのだろうか。それでいて、歌はメロディアスではあるものの、カラッと突き抜けていくわけでも何でもなく、総合的にポップさ全開ではないので、大きな違和感を持つほどにはならないのだが…。歌詞は言うまでもなく、実に味わい深く、ここで描かれている手遅れ過ぎる後悔の念は、人によっては鋭く深く突き刺さるものかもしれない。
《綺麗な指してたんだね 知らなかったよ/となりにいつも いたなんて 信じられないのさ/こんなに素敵なレディが俺 待っててくれたのに/“どんな悩みでも 打ち明けて” そう言ってくれたのに》《"私にはスタートだったの あなたにはゴールでも"/涙浮かべた君の瞳に/何も言えなくて ただ"メリークリスマス…"》(M4「何も言えなくて」)
冬の歌だったものをのちに歌詞を変えて夏バージョンとして、それが大ヒットしたのだから、もともとその世界観が相当しっかりしていたことは間違いなかろう。

OKMusic編集部

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