【LMYK インタビュー】
英語と日本語を使って
世界的に活動していきたい
ドイツ人の父、日本人の母を持ち、ニューヨークの大学在学中に音楽制作をスタートさせたシンガーソングライターのLMYK。2ndシングル「0 (zero)」は前作同様、世界屈指のプロデューサーチームのJimmy Jam and Terry Lewisがプロデュース。哲学的な思想が垣間見える同曲について深く話を訊いた。
私たちの“脳”では
つかめないものを表現したかった
初めに名前の由来を教えてもらえますか?
“L”が名前で“M”はミドルネーム、お父さんがドイツ人でお母さんが日本人なので苗字がふたつあるから、“Y”と“K”はその頭文字になっています。
記号というか暗号みたいな名前ですよね。
性別はもちろん、ひとりなのか大人数なのかも分からないようにあえてそうしたところもあります。最初は本名でやろうと思っていたんですけど、作っている音楽と合わない気がしてこういう表記にしました。私には馴染みのある4文字だし、“エルエムワイケー”って意外と日本語でも言いやすいので。
「0 (zero)」はアニメ『ヴァニタスの手記』のEDテーマ曲ですが、曲はアニメのために書き下ろしたものですか?
お話をいただいて作った曲ではありますが、原作を見て私自身が普段追求しているテーマにつながったので、「0 (zero)」の内容は『ヴァニタスの手記』から私が考えさせられたことについて書きました。
タイトルの“0 (zero)”に込めた意味を知りたいのですが。これは何もないことを表現しているのでしょうか?
何かの反対じゃないというのが大きいかもしれないです。何かがあるとない、“1”と“-1”とか、対比するものではないものを“0”で表していて。全ての土台になっているようなものを表現したんです。私の中では今、私たちが見て感じているものの全ての土台となるものを表す言葉が“0”でした。
そういうものを原作からインスパイアされたと。
そうです。原作には謎に包まれたキャラクターの過去とか記憶を辿っていくというテーマがあるんですけど、その追い求めながら探している姿と…これは普段私自身が考えていることですが、それを追い求めた先にあるものは何なのかという想いが重なった感じがありました。
考え方に哲学的なものを感じますね。歌詞の冒頭4行がそれを如実に表していて、最初の2行では《始まった途端に終わりが見える》というそのさまを分かりやすくアイスに例えているのですが、3〜4行で一気に哲学的、物理学的、天文学的ともとれる描写へと移行するという。ここのギャップがすごいんですよ。
自覚はないんですけど、上の2行は身近な感じがしますか?
はい。みなさんそう感じると思います。でも、そのあとの2行もLMYKさんの中では同じ宇宙内にあるお話というか。
そうです。私たちが見ているアイスにも宇宙があるんですよね。実体のある物質が時間をかけて溶けていく様子の中には、時空もあって距離もある。3行目の《最も遠く》は時空も距離も想像できない宇宙の果てのような、私たちの感覚にはない一番遠いところになります。「0 (zero)」では私たちの“脳”では掴めないものを表現したかったので、私たちの身近にあるもの、アイスと一番遠いものを並べて描くことで “0”を表したんです。
例えば、この“0”を他の言葉で例えるとしたらどんなものになるのでしょうか?
類語はいろいろあると思います。私が自分で作った造語があるんですけど、英語で“生まれる”という意味の“BIRTH”と、“死ぬ”という意味の“DEATH”を合体させて“BIRTHDEATH”。生まれる瞬間と死ぬ瞬間って同じ要素を持っていると思うんです。どちらの瞬間も生き延びようという意図がないところにある。生まれた時から死ぬまでの間、人間の生命にしてもウイルスにしても、生存が一番の優先順位だと私は思うんですよ。全てのものが生き延びることをモチベーションとして、死へと向かっている感覚なんですけど…でも、生まれた瞬間と死ぬ瞬間はそれに左右されてないんです。だから、この歌も“始まった途端に終わりが見える”という歌詞で始まるんですね。それは“0”のように円のような頭と爪先がないものだと思っています。
普段からそうやって哲学的に物事をどんどん追求して考えていくタイプですか?
はい。分からないから面白いんです。明確なことを並べていったら見えないものが明らかになるんじゃないかとか、当たり前の点をつなげていったら当たり前じゃないものが見えくるんじゃないかとか。本を読んだりもするんですけど、“どうしてこうなるんだろう?”と芯のところを知りたくなって、そこを掘っていくのが好きですね。
子供の頃から?
そうですね。“なぜ?”という問いはいつもありました。親にも“なぜ数学を勉強しなきゃいけないの?”って言っているような子供で。それが大人になるにつれてさらに深まっていきましたね。最初は自分を省みるところから始まって…私は曲を書き始めたのが大学生時代なんですけど、その時も自分中心で“なぜ私はこういう行動をとるのか?”“なぜこう思うのか?”と自分の真理に迫っていたんです。結局それは大きい視野で見るとみんなに共通してあるもので、私だけが経験していることではないということに気づいたんですね。みんなそれぞれが同じように生きる意味や、生きづらさを感じたりしている。そこで、自分は誰なんだ? 自分の生きる意味は? そもそもなぜそこに意味を見出そうとしているのか? その理由は何だ? …という感じで掘れば掘るほど、その“そもそも”のところに深く入っていってしまい。それを今も掘っている最中です。
その掘っているところが歌詞になりメロディーになると。
うまいこと言いましたね!
ありがとうございます。最近思いついたんです(笑)。
その“そもそも”を自分の内側に向かって掘っている最中に、音楽というアウトプットの自己表現が加わったのはなぜでしょうか?
一番のきっかけは大学3年の時です。それまで人前で歌ったりとか、歌手になりたいと思ったことはなかったんですけど、カラオケで歌うのは好きだったんですね。
歌っていたのは日本語の歌ですか?
洋楽も歌っていたから、どっちもという感じです。高校生の頃から曲を書いたりはしていたんですが、人に披露することはなくて。ギターを鳴らしながら歌詞を乗せてみたり、ちょっと思いついた言葉を書き留めたりする程度だったから、一曲をフルで完成させたことはなかったんです。でも、大学3年生の頃、“自分は何がしたいんだ?”と考える時期があって。そんな時、イギリスの歌手、エミリー・サンデーの「Read All About It Pt.III」という曲がラジオで流れてきて、それにすごく共感したんです。自分のことを歌っているかのようにすごく刺さったんですよね。サビの歌詞が《I wanna sing》なんですけど、その言葉と楽曲全体に背中を押されたのが大きいです。