MIYAVI

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【MIYAVI インタビュー】
未来を指し示すことに
自分たちの役割がある

コロナ禍において顕在化した社会の歪に対し、“Imaginary=想像力”を持って立ち向かおうと呼びかけるアルバム『Imaginary』。世界で活躍するアーティストらしいグローバルな視点が貫かれた、極東から全地球人に向けられたメッセージが詰まっている。

今回はJ-POPの
いいところを取り入れた

今作はバラエティー豊かではあるものの、メロディー指向というところでは一本筋が通っている作品ではないかと感じました。MIYAVIさん自身が何を考えて、どのようにアルバム制作に臨んだのかということをまず確認させてください。

制作を始めた当初はそこまで明確なものはなくって。本当は2020年、東京オリンピックの前後に2枚のアルバムを出す予定だったんです。『Imaginary』はそのうちの一枚で、前作の『Holy Nights』(2020年4月発表)のあとに出そうと思っていたアルバムなんですけど、音楽家として、やっぱり作品ってオーディエンスの前で演奏することで完成するという部分もあるというか。コロナでなかなかツアーがやれない中で、昨年は自宅から、チームラボから、VRからXRまで、とにかくたくさんバーチャルライヴをやったんですけど、やっぱりリアルなライヴとはまた違う表現方法になる。そういう意味で作品が消化し切れないというところもあって、この作品を一度冷凍保存したというか、作りすぎないままにしたんですね。前作の『Holy Nights』はコロナ禍の前に作ったんですけど、僕たちは静かな夜にいる。でも、ふと見渡せば世界は燃えている。実際にコロナも含めて世界中が燃えている中、そこで“自分たちは何を歌うのか?”“何を届けられるのか?”というところをすごく考えさせられたし、同じ時代を生きている=共時性みたいなものをテーマに作りました。今作はドラスティックに世界がシフトし、非物質化していく中で、僕たちの在り方も変わってくる。そこで自分たちの存在意義と役割みたいなもの…これは僕だけじゃなくて、世界中の表現者たちが考えさせられたと思うんですが、やっぱり“未来を指し示す何かを生み出す”ことに、表現者としての自分たちの役割があるんじゃないかと。想像力を持って未来を描く、それは単純なことですけど、その繰り返しと積み重ねで人間はここまできたと思うんです。思い描く力と、作り出す力、それが『Imaginary』のひとつのテーマです。あと、その反面、自分たちが作ってきた文明、文化、ルールや決まりというもの自体が、気づけば重荷になっている部分もある。「New Gravity」という楽曲も収録していますが、ここから先は新しい重力…世界が反転したあとの社会、価値観が変わっていく社会で、自分たちがどうあるべきなのか、どうあれるのかということを歌った作品です。

コロナ禍において制作されたことで、この暗い世相、ネガティブな世界が作品作りに影響したということですね。

普段はファンやオーディエンスの前で演奏するイメージをしながら書いてますけど、表現する場所がバーチャルライヴや配信など少しずつ変わってきている中、じゃあどういった表現の仕方がベストなのか? リアルとバーチャルでは表現の仕方、受け手の刺さり方が全然違う。そこは非常に影響されますよね。

そんな中、曲作りにおいて何が一番変わりましたか?

実際に目の前にオーディエンスがいないということで、一緒に踊るとか、ビートに委ねて身体を動かすとか、そういったことが皆無の状況で、だったらそこで何をオーディエンスと共有するのかと言ったら、それは歌詞であり、メッセージであり、メロディー。端的に言うと、同じように汗をかいてライヴ一緒に作り上げるだけじゃなく、魅せるライヴ、聴かせるライヴにシフトしてきている。そういう意味では、電波を通じてでも伝わるようなもの…それはメロディーも含めてですけど、それは意識しました。

冒頭でも申し上げましたが、本作はメロディーが際立っていると感じていまして。オープニング「New Gravity」から「Imaginary (feat. Kimbra)」「Warrior」と、冒頭3曲からしてメロディアスだし。こうしたメロディー指向は、コロナ禍でオーディエンスとともに身体を動かすことができない中、メロディーであればダイレクトに届けることができるという意識があったからでなんですね。

それは少なからずありましたね。ただ、コロナあるなしにかかわらず、ギタリストとして、コンポーザーとして、作品を作る上での優先順位というかディレクションが変わってきているのは確かで。例えば、10年前に作った5thアルバム『WHAT'S MY NAME?』(2010年10月発表)に比べたら、リズムで表現する部分とメロディーで表現する部分との割合は変わってきています。そして、9th『Fire Bird』(2016年8月発表)を出してからよりギターで歌うことを意識してきました。今回のアルバムに関してはギターにプラスして、ヴォーカルのコーラスワークも含め、結果もう一度テコ入れをすることになりました。歌録りの状況もここ数作品とは違っていて、東京とロサンゼルスとでの遠隔の作業になり、東京で録るということで、ここ何作かずっと共同製作しているLenard Skolnik(レニー・スコルニク)に加えJeff Miyahara(ジェフ・ミヤハラ)も共同プロデューサーとして迎えて、新しいヴォーカルアプローチにチャレンジしています。

Jeff Miyaharaさんが参加されているのも今作の大きなポイントなので、そこもおうかがいしたかったのですが、やはり新しいことを試みようと彼を起用したんですね。

もちろんそれもありますけど、何より僕がLAに飛べない中、東京でヴォーカルを録音するとなった時に“東京でしか録れない”じゃなくて、“東京だから録れる”ものにしたかった。ヴォーカルディレクションを含めて自分たちと同じ温度感で作品作りに臨める人間…感度や感受性も含めて、グローバルシーンの流れ、温度も感じていて、僕たちのミッションに対して理解してくれる人間が必要だった。スタジオでコンピュータのスペースバーを叩くことは誰だってできるけど、“なぜこれを作っているのか?”“どういう方向に向かっているのか?”という根本的なスタンスを理解しているかどうかで、一緒の部屋にいる必要があるかないかが明らかに違う。そういう意味で、彼は同じようなスピード、温度感、共通言語があると直感で感じました。“日本の中の東京”ではなく、“世界の中にある東京”。そこってすごく大きくて。東京は東の京(みやこ)だけど、それは京都から見た東ではなくて、世界から見て極東にあることが意識できているかどうか。

ジェフさんはJ-POPも手がけられていらっしゃいますよね。先ほど申し上げました冒頭3曲はメロディーのキャッチーさや曲の展開はJ-POPと言っても差し支えないと思います。これはジェフさんの起用が影響したものと見ていいですか?

影響しています。ヴォーカルトラック以外にも口を出してきましたから(笑)。彼自身、すごくパッションを持って臨んでくれたので、すごくいいケミストリーがありました。LAのチームとの作業は時差もありますし、やり方の違いもありますから、そこを調整するのは正直すごく大変ではあったけど、彼のエッセンスを入れることに意義があると思ったし、むしろチャレンジしたかった。彼はJ-POPをたくさんやってきていますが、さっきの極東の話じゃないですけど、彼の中でのJ-POPは日本のコンビニで鳴っているJ-POPではなくて…もちろん日本のマーケットに合わせた仕事もたくさんしてきてると思いますけど、彼は“世界で鳴らすJ-POPとは何だろう?”ということをずっと考えてきた人であることを、最初に会った時に感じたし、J-POPにもたくさんいいエッセンスがあるので、今回はそこを取り入れたというか。アルバムのアートワークをPERIMETRONに任せたのも同じ感覚です。自分自身、こんなに長い間、日本にいることもなかったので、逆に日本にいるからこそできることがしたかった。無理してロスに飛ぶこともできますけど、隔離などのリスクがあるわけじゃないですか。そういう意味では、逆にこのシチュエーションの中で今の東京でしか作り出せない作品を産み出せたのかなと。

ジェフさんが作り出すJ-POPにMIYAVIさんも共感されて今回のアルバムに至ったと思うのですが、そのJ-POPの良さって何でしょうか?

綿密さじゃないですか。流れとグルーブで押し切らないというか。それって日本料理と一緒ですよね。構築美。ただ、細かすぎて…それは譜割りや音域もそうですが、なかなかグローバルのミュージックシーンでは鳴らない部分もあったりするんですけど、プロダクションの進め方の丁寧さも含めて、そこにいい部分はたくさんあると思います。ポップさという部分で、その良い部分だけを抽出して、これまでのMIYAVIの作品にはなかった要素もたくさん散りばめられています。

アルバム後半に収録された「I Swear」、「Are You With Me?」はともに軽快なナンバーで、この開放感もJ-POP的だと思って聴いていました。

非常にポップですね。他にも候補曲があったし、ダンストラックもありましたけど、今回はこういうかたちで、この布陣でやる中で、ポップでメロディアスな楽曲に振り切った部分はあります。それこそもともと「Are You With Me?」は入れる予定ではなかったですし。今、ECC の語学・教育推進アンバサダーをさせてもらっているのですが、「Are You With Me?」はその生徒さんと一緒に英語を使って曲を作るという企画で作ったものなので、このアルバムに入れることは考えていなかったんですけど、レニーやジェフも“入れたほういい”と。

今回のアルバムの流れからすると、これは入れてしかるべきだろうと思います。

そうですね。結果的にそのようになって良かったなと思います。
MIYAVI
アルバム『Imaginary』【初回限定盤A】(CD+DVD)
アルバム『Imaginary』【初回限定盤B】(CD+DVD)
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OKMusic編集部

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