KEN LLOYD(Vo)(Photo by 田中和子)

KEN LLOYD(Vo)(Photo by 田中和子)

OBLIVION DUST、
『Tour 2021 “Metanoia”』
Zepp Tokyo公演のレポートが到着!

いきなりみぞおちを直撃する凄まじい音圧と、屈強でありながら一方で緻密さとしなやかさを携えた盤石のバンドアンサンブル。そして猛る轟音に呑み込まれることなく、激しいシャウトから艶やかなクリーントーン、ファルセットまで全身全霊を賭して表現し尽くすKEN LLOYD(Vo)の常人ならざるボーカリゼーションに「これぞOBLIVION DUST!」と胸の内で快哉を叫んだ。9月11日、東京・Zepp Tokyo。今年2回目の東名阪Zeppツアーとなる“OBLIVION DUST Tour 2021 Metanoia ”のファイナルだ。

 先行きがまるで見通せない不透明な現状の真っただ中にあって、果たして何をするべきで、何をするべきではないのか。全世界が新型コロナウイルス感染症の猛威に曝されて1年半余り、多くの人々が毎日のようにそうした自問自答を繰り返してきたことだろう。ことに音楽を始めとするエンターテインメント業界に吹く逆風は苛烈で、何をするべきで何をするべきでないのかの線引きに悩まされ、胸を痛めているアーティストおよび関係者は数知れない。OBLIVION DUSTもその例外ではない。だが、彼らは前回のツアー“OBLIVION DUST LIVE 2021 - ELIXIR FIXER -”からわずか半年弱という短いインターバルで今ツアーの開催に踏み切った。当初は2020年3月に行われる予定だったものを1年越しに実現に漕ぎ着けた“- ELIXIR FIXER -”ツアーも然りだが、今回も開催の決断に至るまでには葛藤も逡巡も山ほどあったに違いない。だが、そのうえでOBLIVION DUSTとしてやるべきことは何かと熟考を重ね、さらには前回でつかんだ手応えを推進力に彼らはバンドを動かしていくことを決意した。加えて来年、2022年にはデビュー25周年を迎えることもそうした決意の一助となったのかもしれない。いずれにせよ、彼らは腹を括ったのだと思う。見えないものに対して闇雲に拳を振るうのでも歯を剥き出すのでもなく、無力感に立ち尽くすのでもなく、あくまでも冷静かつ合理的に判断し、前に進むことを決めたのだ。KENはもとよりK.A.Z(Gu)もRIKIJI(Ba)も、サポートを務めるARIMATSU(Dr)、YUJI(Gu)も全員が同じ覚悟でステージに立っていることはこの日、それぞれの目に宿った強い光と揺るぎなくタフな佇まいからも明らかだった。

 感染予防対策のため、通常ならばスタンディングスペースとなるはずの1階フロアにも椅子が並べられ、着席は会場収容人数の50%以内というガイドラインを遵守して一席置きとされた客席。来場者にはマスク着用も義務づけられ、歓声など発声も禁じられているから開場前の場内は驚くほどに静かだが、それでも募る期待が尋常じゃないことははっきりと肌に感じられる。このコロナ禍、ライヴに参加することを躊躇する人々にも配慮してこの日の公演はストリーミングによる生配信も実施されたのだが、おそらく画面の前にいるファンもワクワクとその瞬間を待ち侘びていただろう。

 開演時刻の17時30分を回ると同時に客電が落ちた。ひとり、またひとりとステージに姿を現すメンバー。最後にKENが登場するや、言葉にならない昂揚が爆発的に場内を満たす。けたたましいシーケンストラックが鳴り響き、間髪入れず不敵なバンドサウンドが迸った。幕開けを飾る「Syndrome」にオーディエンスの腕がざんざんと突き上がり、のっけから狂騒はピークに達する勢いだが、もちろんバンドは追撃の手を緩めず「Remains」「No Medication」とライヴの鉄板チューンを次々とドロップ。歓声はなくとも、客席一面に揺れる手のひらが雄弁に歓喜を物語っていて、それがメンバーをいっそう鼓舞しているようにも見える。当然ながらモッシュもダイブも起こらない。観客一人ひとりがそれぞれの持ち場でルールを守りながら全力で放たれる音楽を受け止め、できる限りの形でその愉悦を表現する。それがこんなにも空間を熱くさせるとは。ステージと客席とが互いに互いを刺激し合い、興奮を加速させていく様はコロナ禍前と比べてもまるで遜色ないと思えるほど。非常事態であればこそ彼らとファンとの間に結ばれた絆の固さ、築き上げられた信頼のたしかさがありありと伝わってくる。

 未音源化ながら2018年のツアーで披露されて以降、すっかりライヴの定番曲としての地位を獲得した新曲「Satellite」。すでに3年前の楽曲を新曲と呼んでいいものか迷うところだが、さらにソリッドかつシャープにブラッシュアップされた演奏、徹頭徹尾、扇情的なKENのパフォーマンスと歌声(天を指し、“Satellite Satellite”とファルセットを繰り出すサビ終わりが最高に痺れる)はOBLIVION DUSTというバンドの止まることを知らない進化を見事に体現して、今なお鮮度を保ち続けていると言っていい。ただし、それは「Satellite」に限らず、1997年リリースの1stアルバム『LOOKING FOR ELVIS』から2016年リリースの最新ミニアルバム『DIRT』までの新旧作からほぼ満遍なくピックアップされてこの日のセットリストに並べられたすべての楽曲にも当てはまるのだから驚異だ。しかも前回のツアーとは1曲も重複しない選曲だという。2000年にリリースされた10thシングル「FOREVER」のカップリング曲「S.O.S」をはじめ、近年あまりライヴで披露されてこなかった曲もラインナップ、それでいてどの曲も第一線級の現役感で観る者に迫ってくるのだから堪らない。

 ベースをマシンガンのごとく肩に構え、客席を狙い撃つRIKIJIのアジテートや、ひらりと台に飛び乗ってはギターのネックの根元をつかみ、その自重でスライドさせて独特の音色を鳴らすK.A.Zのトリッキーなプレイなど、オブリファンにはお馴染みの見どころも随所に散りばめつつ、エモーショナルにアグレッシブに展開されるステージ。切々とした想いが募りゆく「Easier Then」、甘やかでいて誠実な想いを孕んだ歌声とスケール感のある音像が美しく相乗する「All I Need」とタイプの異なるバラードを立て続けに披露してオーディエンスを釘付けにし、その胸の奥を容赦なく締めつけたかと思えば、余韻に浸らせてなどやるものかとばかり「30」になだれ込み、奔放自在に客席を揺さぶっていく。「Goodbye」でKENが張りのある歌声を伸びやかに轟かせているその後ろでK.A.ZとRIKIJIが向かい合い、互いの音を重ね合った一瞬に心躍らせたファンも少なくなかっただろう。OBLIVION DUSTには1曲の中でも目まぐるしく展開が変わる楽曲も多く存在し、ゆえに観る側は息をつく隙もまばたきする間もないのだが、そうしてグイグイと翻弄されるのがまたこのうえなく痛快。ライヴバンド、OBLIVION DUSTの本領を存分に発揮して、ステージの躍動感も天井知らずにいや増してゆく。

 MCではこの日の会場であるZepp Tokyoが来年1月1日をもって閉館することに触れる一幕もあった。OBLIVION DUSTにとってはこれがZepp Tokyoでのラストライヴとなるのだ。「僕よりもK.A.Zくんのほうがもっと思い入れが強くて先週ぐらいからずっとその話ばっかりしてる」とKENに話題を振られたK.A.Zは「1999年にここができて、ちょうどその年にZilchやKyoちゃんとかと一緒にオブリがライヴしたんです」と当時を振り返りながら思い出を語り、自身にとって最後のZepp TokyoとなるステージをOBLIVION DUSTでやれてとても光栄だと口にする。KENも「Zepp Tokyoさん、メンバーみんながそれぞれにいろんなバンドでお世話になりました。本当に今までありがとうございました」とバンドを代表して感謝を述べた。

 とはいえ、いつまでも感傷に浸っている彼らではない。「ここでみんなと空間を共有できる残りの時間、最後までお付き合いよろしくお願いします」とKENが告げるといよいよライヴは終盤戦に突入、「Wrong Decision」のサイケデリックな浮遊感漂う導入から大胆に施されたEDMアレンジでアグレッシブに畳みかける。このダイナミックなコントラストこそ、OBLIVION DUSTのOBLIVION DUSTたる所以だろう。七色のライトがミラーボールに乱反射、Zepp Tokyoが瞬時に熱狂のダンスホールと化した「Sail Away」の、サビではじけるオーディエンスのクラップはKENの歌、メンバー一丸となった朗々たるアンサンブルにもぴったりとハマり、この日最高の一体感をマーク。さらに多幸感を加速させラストの「24 Hour Buzz '99」まで一気に駆け抜けた。

 ライヴ中のMCでKEN本人の口からも告知されたが、ライヴDVDが2022年の春にリリースされることが正式にアナウンスされた。MCでは「“新しい音源!?”と思った方、それはまだ来ません」と冗談めかしつつも、今ツアー前からK.A.Zと一緒に作業に手をつけ始めていたこと、ツアー後には本格的に制作に入る予定であることも明かしたKEN。いわく「今までにないようなポップな曲や激しい曲があったりする」らしい。今ツアーのタイトルに掲げられた“Metanoia”とは古代ギリシャ語を語源とした“回心する・悔い改める”の意を持つ単語だが、宗教的な意味合いだけでなく“精神面の根本的な変化”という意味もあるようだ。2022年に迎えるデビュー25周年に向けたキックオフツアーとなった今回を経て、バンドはいかなる変化、あるいは進化を遂げるのか。動き出した彼らの未来を刮目して待ちたい。

 なお、本公演のアーカイブ配信は9月14日(火)まで視聴することができる。ライヴバンド、OBLIVION DUSTの真骨頂をこの機会に思う存分堪能してほしい。画面越しでも間違いなく圧倒されること請け合いだ。

文:本間夕子/撮影:緒車寿一、田中和子

【配信ライヴ情報】

『OBLIVION DUST Tour 2021 “Metanoia”』
アーカイブ配信日程:2021年9月 14日(火)23:59まで

<視聴チケット>
配信プラットフォーム・チケット発売
PIA LIVE STREAMING:https://w.pia.jp/t/obliviondust-pls/
2021年9月 14日(火)20:30まで販売
視聴チケット代:¥3,500(税込)
KEN LLOYD(Vo)(Photo by 田中和子)
K.A.Z(Gu)(Photo by 田中和子)
RIKIJI(Ba)(Photo by 緒車寿一)
『OBLIVION DUST Tour 2021 “Metanoia”』 9月11日 at Zepp Tokyo(Photo by 緒車寿一)

OKMusic編集部

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