【おすすめ雑誌】「 週刊文春」2021年 9/23号 [雑誌]/発売:文藝春秋(2021年09月16日発売)

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小山田圭吾インタビュー:ロマン優光
連載195

ロマン優光のさよなら、くまさん
連載第195回 小山田圭吾インタビュー 二十数年前に『ロッキンオン・ジャパン』『クイック・ジャパン』という2誌に掲載された、いじめ加害者としての体験を露悪的に面白おかしく語る記事の存在が炎上し、オリンピック開会式の音楽担当を辞任することになった小山田圭吾氏。辞任後、当時の記事のことについて初めて語ったインタビューが『週刊文春』9月23日号に掲載された。また、くだんの小山田氏がゲストとして登場した『クイック・ジャパン』誌の連載記事「いじめ紀行」で当時ライターをつとめた村上清氏の当該記事に関する説明と反省が綴られた文章も、同誌書店発売同日夜に『クイック・ジャパン』の刊行元であり、村上氏が現在社員をつとめる太田出版のHPに発表された。
 当時の彼自身の心境、現在ネット上で広まっていたり、一部媒体で報道されている内容については事実と違う部分があることの説明、オリンピックに関わる部分の状況、現在の心境や反省などが語られていてる。過去の記事の発言の説明部分に関しては、一部の90年代中期から後期にかけての「サブカル」について詳しいような人たちが推測してたことが本人の口から語られているようなものであった。小山田氏自身がやってないことがやっていたように書かれていたこと(『ロッキンオン・ジャパン』誌)。アイドル的存在であった立場から脱却するためにアンダーグラウンド的な方面にキャラクターを変えたくて、きわどいことを語ったり、露悪的に語ったこと。そういったことが語られている。
 『ロッキンオン・ジャパン』という雑誌はインタビュー記事の掲載前の本人チェックがなく、発言意図が歪んだ形で掲載されたり、本人が語ってないことが掲載されたりするということが起こっている雑誌であることは度々取り沙汰され、問題にもされてきた雑誌だ。インタビュアーが発言の意図を理解していなかったり、適当に発言をまとめて事実関係がおかしくなったり、意図的に内容を歪めたとしても、それを指摘して訂正させることができないのである。筆者も一度バンドでインタビューを受けたことがあるが、その時の記事の内容も本当にひどく、そもそもインタビューの段階で相手が全然こちらの話を理解していないひどいインタビューだった。そういう雑誌であるから、小山田氏の発言も割り引いて考える必要があると考えている人もいたわけだ。その後に行われた『クイック・ジャパン』の記事でのインタビュー部分との内容の食い違いも多い。『クイック・ジャパン』のインタビューでは、明確に他人のやったこととして語られていていることが、本人がやっていたかのような発言になっている。
 また会話の常として、面白くするために、つい話を盛ってしまうということはありがちなことで、『クイック・ジャパン』での発言の露悪的な部分(当時サブカル方面での一大潮流であった鬼畜系・悪趣味系の影響が大きいであろうことは、当時の小山田氏が根本敬氏の影響をはじめ、そういった方面への傾倒をアピールしていたことから、容易に推測できる。)も、キャラ作りのためや、その場にいる人に対するサービス精神から盛っている部分はそうとうあるであろう。ミュージシャンのインタビューなんてそんなものだ。このきわどいこと、露悪的に語ることについては、小山田氏の場合はキャラ作りの方向性やサービスの内容が結果的に失敗してしまったわけだが。
 そういった推測を裏付けるかのような説明を本人の口からしているのが文春のインタビューであった。
 多くの人(一部媒体にすら)が『ロッキンオン・ジャパン』『クイック・ジャパン』の記事の一部を切り取って構成したblogのエントリーを参考にしているのだが、小山田氏が今回説明した事実関係についての誤解の多くは、『クイック・ジャパン』の記事を原文でちゃんと読めば生じるはずがないものではある。その記事内で説明されていないことで今回改めて発言されたのは一ヶ所くらいではないか。『ロッキンオン・ジャパン』の記事から生じた誤解を訂正したい意図もあって『クイック・ジャパン』の取材を受けた部分があるという趣旨を小山田氏は今回の文春インタビューで発言している。実際に原文で両者を読み比べれば、『ロッキンオン・ジャパン』での発言は派手だがリアリティに乏しく、『クイック・ジャパン』での記事の方で語られている事実関係の方が信憑性が高いと思われる。
 文春のこの記事に対して、『AERA』や東京スポーツは小山田氏がいじめに関与したこと自体を否定したかのように読み取れるような見出しを付けて、批判的なトーンで紹介している。これはさすがに悪質な誘導ではないだろうか。文春の記事の逆を張ったのかもしれないが、筋が悪すぎる。ネット上で自分やってないことがやったことにされていると主張している人物に関する記事に対して、彼がやってもないことをやっているかのようにミスリードする見出しをつけた記事を被せていくなんて、さすがにどうかしている。『AERA』に関しては信用を失いかねない見出しだと思うし、東スポだからといって何でもやっていいわけではないだろう。
あえて露悪的にいじめ問題を扱った 村上清氏の文章に話題を移そう。
 とりあえず、二つの記事にかかわった編集者・ライターが出した声明の中では一番しっかりしているし、誠実な文章のような気はする。いじめ被害者でもあり、いじめ傍観者でもあった村上氏が、いじめ問題についてシリアスに捉えていたというのも、伝わってくる。「いじめはよくない」と正論を言ってもいじめ問題はなくならないし、正論でいじめられっ子が救われない状況に対して、露悪的にショーアップした手法でいじめを扱うこと(どこまで意識していたのかはわからないが、ようするに鬼畜・悪趣味系サブカルの方法論でいじめ問題を扱うということである。 小山田氏がシリアルキラー・カードをフェイバリットとして紹介していたことに対して反応していることから、ある程度意識していたような気がする)で風穴をあけたいというコンセプトだったのもわかった。ただ、二年前にこの記事を自分の著作(編集部注:コア新書『90年代サブカルの呪い』)で取り上げた時に書いたように、自分のアイディアに酔っていたようにしか思えない。生身の人間がそこにいるという配慮が全然なされていないのだ。被害者に対してもそうだし、小山田氏にリスクを負わせるということにもそうだ。被害者と加害者、いじめ当事者同士の対談というアイディアに関していうなら、まず、村上氏は自分をいじめていた人間と対談してみて露悪的な記事にすることから始めればよかったのではないだろうか。まず、自分がやってみればよかったのに。
 村上氏のその後の仕事を見てみると、今となっては、あの記事の問題点はわかりすぎるほどわかっているはずだし、本当に反省していることだろう。小山田氏にしても、文春の記事で語っている心境は嘘ではないだろう。
 ただ、どんなに反省していたとしても、世間の大半には伝わらないのも事実だ。
 いじめ記事の存在自体は昔から知られており、ネット上で軽く話題になることもあったし、筆者も二年前に90年代サブカルにおける悪趣味・鬼畜系(及び、その影響)について検証する新書を出した時に触れている(そういえば、新書執筆時に小山田氏サイドに取材を申し込んだが返事は帰ってこなかった。小山田氏が無視したというよりは事務所判断で本人に問い合わせる以前の段階で跳ねられたのではないかと考えている)。しかし、今まで炎上したことなど一度もない。小山田氏に対する世間の注目度はそれぐらいのものだった。小山田氏の騒動が大きなことになったのは、反オリンピックの流れによる部分が多かったと思われる。いじめ記事をオリンピックを攻撃する材料として利用しようとする人間がでたことで、いじめ記事の存在すら知らなかった人、小山田氏に興味もなかったような人に届き、人権意識の高い真面目な人から、叩ければ何でもいいような人まで巻き込んだせいで大きな話題になったのだ。
 反オリンピックというテーマがなくなった現在、小山田氏の文春記事の内容を気にしているのは、小山田氏やフリッパーズ・ギターが好きな人、サブカルが好きな人、障害者問題やいじめ問題に関心が高い人ぐらいである。あの時に話題にしていた人の多くが別に気にしていないだろうし、その人たちにとっては小山田氏のイメージは最悪ないじめ加害者のままになってしまうだろう。今後も状況はなかなか変わらないだろうし、どんなに反省していようが、反省が伝わってくるような仕事をしようが、イメージが覆るのには難しいだろうし、それについては本当に気の毒だと思う。
 2年前に書いた新書の小山田氏に触れた部分が他所の記事に引用されたり、その部分が含まれる一章がまるまる文春webに転載されることで、多くの人の目に新しく触れることになったのだが、小山田氏を叩きたい人も擁護したい人も、自分に都合のいい言葉を求めてるだけで文章全体の趣旨に無関心の人も多く、期待した言葉がないとピントはずれな批判をしてきたりもする。叩く材料として利用できたら何でもいいし、好意的に解釈するために利用できればなんでもいいのだろう。そういうことから考えてみるに、小山田氏が今後に何を発信しようが、悪く思いたい人は何が何でも悪く解釈するだろうし、良く思いたい人は何でも好意的に解釈する。結局、どっちの言うことも信用ができない。そう考えると、今回の文春の記事に関しては、小山田氏に対して思い入れのないライターがフラットな立場で取り組んでいることは、非常に良いことだと思う。
 小山田氏のいじめ記事問題に関する自分の見解は情報が増えることによって補完された部分はあるが、基本的に特には変わらない。また、批判的な見解を出したが、彼に重い罰を与えろというようなことは別に思ってなかった。やったことに関する正当な批判は受けるべきだし、必要以上に善意で好意的に解釈することもダメなことだし、やったことに見合わないような過剰な罰を勝手に与えようとすることも、事実を確認しないままに臆測を元に勝手に罰を与えようことも、本当に間違っている。そこは対象に対する評価や好き嫌いとは関係なく、フェアに行われなければならない。私はそう思っている。
追記
 村上氏が企画の問題点に気付いてなかったのは若さ故と納得はするのだが、編集長である赤田佑一氏(編集部注:当時)は実際どのように考えていたのか気になるところではある。赤田氏も問題ないと思っていたのか、その問題があるからいい記事になると思っていたのかどちらなのだろう。
追記2
原稿完成後に小山田氏の謝罪文を読んだが、文春での発言の延長線上にある、何が問題であったかに対する自覚がしっかりとなされた、自分の弱さなどにちゃんと向かい合った文章だと思う。
(隔週金曜連載)※今回土曜更新
【おすすめ雑誌】「『週刊文春』2021年9月23日号」/発売:文藝春秋(2021年09月16日発売)
https://books.rakuten.co.jp/rb/16877563/
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再注目。『90年代サブカルの呪い』※現在紙書籍はほぼ市場在庫のみのため、在庫切れのない電子書籍で探されることをおすすめします。
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★ロマン優光、太郎次郎社エディタスのWebマガジン「Edit-us」でも連載中。気になる人は「Edit-us」で検索してみてください。

【ロマン優光:プロフィール】
ろまんゆうこう…ロマンポルシェ。のディレイ担当。「プンクボイ」名義で、ハードコア活動も行っており、『蠅の王、ソドムの市、その他全て』(Less Than TV)が絶賛発売中。代表的な著書として、『日本人の99.9%はバカ』『間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに』(コアマガジン刊)『音楽家残酷物語』(ひよこ書房刊)などがある。現在は、里咲りさに夢中とのこと。twitter:@punkuboizz
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楽天ブックス
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