神使轟く、激情の如く。 魔法少女に
なり隊、ミオヤマザキを迎えた対バン
ライブ『LEGIT Vol.10』レポート

LEGIT Vol.10

2021.9.10 豊洲PIT
現在、アイドルシーンからロックシーンへ次々と挑戦状を叩きつけ、殴り込みをかけているグループといえば彼女たち、神使轟く、激情の如く。(以下、神激)だ。実久里ことの、生牡蠣いもこ、涙染あまね、三笠エヴァ、二日よいこ、TiNAの6MCがクリーンボーカル、ラップ、スクリーモ、シャウトを次々と繰り出しながら、メタルコアとラップを軸に予想不可能な展開をみせる“プログレッシブミクスチャーメタルコア”という新ジャンルのサウンドで、2022年3月30日(水)に開催する初の日本武道館ワンマンライブ『神使轟く、激情の如く。日本武道館単独公演「宣戦布告」』に向けて、様々なバンドを迎えて対バンイベント『LEGIT』を展開中。ここではそのなかから9月10日、東京・豊洲PITに魔法少女になり隊ミオヤマザキを迎えて開催したスリーマン『LEGIT Vol.10』の模様をレポートする。
魔法少女になり隊
トップバッターは魔法少女になり隊(以下、ましょ隊)。コロナ禍のなか、魔女の呪いで喋れなくなっていた火寺バジル(Vo)の呪いが解けてマスクをとってしゃべれるようになったことで、バンドのRPG設定も解除。そこに明治(Gt)の脱退も加わり、残ったgari(VJ,Vo)、ウイ・ビトン(Gt)の3人でラウドロックバンドとして新章をスタートさせたばかり。
魔法少女になり隊/火寺バジル(Vo)
魔法少女になり隊/ウイ・ビトン(Gt)
魔法少女になり隊/gari(VJ,Vo)
ステージ後方にRPG風の映像が流れ、サポートメンバーとともにgariが「どうも初めまして!」と溌剌と挨拶をしながら現れ、オーディエンスにクラップを求める。そこにバジルが登場し、ライブは「NEW ME」でスタートをきった。オートチューンなしのバジルの歌声、サビでバジルのオクターブ下をgariが歌ったかと思えば、間奏ではギターの速弾きが飛び出すなど、ましょ隊の新章の始まりとなったこの曲で、冒頭からNEWな自分たちを存分に見せつけていく。
魔法少女になり隊
魔法少女になり隊
間髪入れずに泣く子も黙るフェスアンセム「おじゃ魔女カーニバル」の投下で、フロアは一気に沸きあがって、ヘドバンの嵐。「せっかくの対バンイベント、我々はコラボしたいたいなと思う訳ですよ」とgariがいうと、ソデから神激のよい子、いもこ、三笠が走ってステージに飛び出してきて「ハレ晴レユカイ」のカバーを一緒に歌唱しだした。対バンイベントでしか観られないスペシャルステージに観客は大興奮。
魔法少女になり隊
神激の3人が姿を消した後も、ステージはその勢いをキープしたまま和テイストな「ヒメサマスピリッツ」へ。この曲ではバジルが扇子を手に持ち、それを華麗に振ってフロアをアゲて、観客たちをましょ隊のペースへどんどん巻き込んでいく。トランシーなイントロからヘヴィロックへと展開してく「完全無敵のぶっとバスターX」、さらに激しいギターリフにgariのスクリーモ、バジルのクリーンな歌パートのコントラストで魅了していく「願い星」を響かせ、最後はステージを駆け巡りながら「冒険の書1」で楽しく、気持ちよく、盛大に大爆発。トップバッターらしく、フロアいっぱいに熱気を広げたところで次へバトンタッチした。
ミオヤマザキ
真っ赤なライトにステージが包まれ、taka(Gt)、Shunkichi(Ba)、Hang-Chang(Dr)が静かにオンステージ。エレクトロな激しい4つ打ちビートにピアノの不協和音が重なっていったところでmio(Vo)が最後に定位置につく。メンバーは強い逆光に包まれていて、シルエットしか見えない。音が途切れる。暗闇のなか、続く無音状態。さっきまで楽しかった場内の空気は徐々にひりついていく。まだ歌っていない。なのに、この数秒間で観客の心を一気に鷲掴みにして、ミオヤマザキの内面世界へと引き摺り込んだところでラウドな「オカルティック69」で幕開け。
ミオヤマザキ/mio(Vo)
ミオヤマザキ/taka(Gt)
オープニングからバンドは爆走モードだ。「ミオヤマザキ、始めます」といつものようにmioがクールに開始を宣言。スラップベースが映えるファンキーな「鋲心全壊ガール」でぶちあげておいて、バンドは再び場内を無音状態へと陥れる。さっきまでの勢いが嘘かと思うほど静まり返ったフロアに、mioが吸い込むブレス音がそっと響く。
ミオヤマザキ/Shunkichi(Ba)
ミオヤマザキ/Hang-Chang(Dr)
聴こえてきたのは「ノイズ」だった。激しいボーカルは姿を消し、mioは可憐な女の子を思わせるような柔らかくて儚く、美しい歌声でこの曲に寄り添っていく。BメロパートではShunkichiが主旋律を弾いて歌とベースでユニゾンを鳴らすと、曲のメランコリックさはさらに倍増。曲が終わっても、場内には拍手さえ起こらない。独特の緊張感。観ている側は息をするのも忘れて、mioの歌、その残響のなかにポツンと1人だけ取り残されたような気分になる。

ミオヤマザキ
ミオヤマザキ
そこに、さらにロッカバラード「セフレ以上恋人未満」を上乗せ。ピアノの弾き語りのなか、ささやくようなか細い声で始まった歌は、バンドがエモーショナルな演奏で高まっていくのと並行してふつふつと激情。その声がオーディエンスの心の奥深くまで入り込み、リスナーが蓋をして塞いでいた感情をこじ開けるよう。そして電話のベルが鳴り響いて「メンヘラ」へ。ここの流れは鳥肌モノ。もう最高の展開といわんばかりに場内は歓喜に包まれ、強烈なヘドバンとともに蓋をしていた感情を外に吐き出していく。takaが真ん中のお立ち台でイントロを弾いて始まった「CinDie」から、スピード感の溢れる「un-speakable」、ジャジーなエッセンスを入れた「正義の歌」を畳み掛け、会場に集まった観客全員になんともいえない深い傷跡と高揚感を残し、メンバーは全員深々と頭を下げ、ステージを去っていった。
神使轟く、激情の如く。
本日のラストを飾るのは、もちろん神激。フロアではさっそく神者(=神激のファンの呼称)たちが推し色のペンライトで客席を盛り上げる。そこに黒い革ジャンでビシッときめた6人が登場。“YO! YO!”“ウチら神激だ”と神激のラップ担当、二日よいこがヒップホップのフロウのような煽りをまずは軽くかまして、そこからなだれ込むようによいこのラップと涙染あまねのシャウトが容赦無く襲いかかって「合法トリップ:ボイルハザード」が始まるという幕開けで、この日の神激はスタートをきった。
神使轟く、激情の如く。/実久里ことの
生牡蠣いもこ、TiNAとクリーンボーカルでキャッチーなメロディーを歌い継いだのも束の間、そこから急転直下でデスメタルエリアへ一気にシフト。あまねが可愛らしいルックスからは想像できないゴッリゴリのグロウル、激しいシャウトを繰り出すと、フロアは体を折りたたんでヘドバンを連発。どうせ6人の女の子が歌って踊るだけでしょ、という初見の観客の先入観を、ここで一瞬にして覆してみせる。激しく転調、展開を繰り返していくヘヴィなミクスチャーサウンドは、アイドルというよりも明らかにバンド寄り。バックバンドが隠れているんじゃないかと思うぐらい生っぽく、重厚感ある神激のライブサウンドは、神激の7人目のメンバーともいえるマニピュレーターが、パラデータで音を操り、場内の空気感、メンバーのバイブスにシンクロさせて各楽器の音を瞬時にミックス、エフェクトして出音を調整しているからだ。
1曲目から神激ならではの要素を盛り盛りに詰め込んだステージングで、初見のお客さんを完全に虜にしたあとは「ましょ隊、ミオヤマザキ、カッコいいバンドのファンは絶対にカッコいいんで。だから、神者もめちゃくちゃカッコいい。そんな三者が集まっての化学反応。コブシ上げて飛び跳ねろ」といって三笠エヴァがフロアの温度を上げていき、そこから「自己都合主義メタモルフォーゼ」へとつなぐ。“神激バンザーイ!”のキャッチーな合唱と楽しいフリ、フリースタイルゾーンではTiNAの合図でジャンプ、三笠の合図で“変な踊り”での横移動、ラストの“ウォーオーオオッ”とシンガロングしたくなるところでのタオル回しなどを通して、新しいファンと神者がどんどん一つになっていく。
神使轟く、激情の如く。/涙染あまね
続いては、あまねの語りから神激のメタルコアを凝縮した“神奏曲”シリーズから、まずは「神奏曲:ガイア」をアクト。声が出せないオーディエンスは“G.O.D”コールをコブシを勢いよく突き上げてアピール。よいこがハネ感を入れたテクニカルなラップで曲をグルーヴィに展開させたところからの爽やかなサビが、この日は広い会場ならではの開放感で、気持ちよく後方へと抜けていった。メンバーたちもこの豊洲PITには慣れてきたようで、ステージを広々と使ってフォーメーションダンスを見せたり、フロントに並んだ6つのお立ち台を使ったり、大きな会場だからこそできる神激のパフォーマンスを堂々とした様子で披露していく。
神使轟く、激情の如く。/二日よいこ
TiNAが今日の対バンライブについて「めっちゃ楽しいです」と感想を伝えると、それに続けてバジルと交流のある三笠はお揃いのネックレスをつけていることを嬉しそうに自慢。自分が好きだったミオヤマザキの「正義の歌」を生で聴けたことについて、あまねは「カッコよすぎて。感謝です」と興奮気味に伝えた。
神使轟く、激情の如く。/三笠エヴァ
ことのの歌い出しから、ラップとスクリーモが同時進行しながらもJ-POPセンスを感じさせるメランコリックなメロディを主体にしたサマーチューン「青瞬螢詠」を間にはさんで、「BAD CAKE」からライブは大詰め。この曲が始まったときの神者の振りコピの一丸となった盛り上がりもすごかったが、ここではキレキレのよいこのラップにカオティックなあまねのグロウル、TiNAの歌にダンスとメンバーの個性を生かしたアクトが炸裂。
神使轟く、激情の如く。/TiNA
「神奏曲:テンペスト」では必殺技の昇龍拳で、フロアの熱量を高めた三笠が、曲終わりに「あなたたちが声を上げられないいまだからこそ、私たちは音楽を止めちゃいけない。ライブとライブハウスを守る」と力強い言葉を伝え、続けて「神奏曲:インフェルノ」を高らかにぶちかます。
神使轟く、激情の如く。/生牡蠣いもこ
最高潮に場内が熱くなったところでいもこのMCが始まった。
「楽しい、幸せな時間なんて一瞬で終わってしまう。この扉開けて外に出たたら、ぐるぐるといろんなことに悩んで。ときには我慢することもある、ときには妥協もして。それでも生きていかなきゃいけない。そんなときに支えてくれるのが音楽だと思ってる。(さらに熱がこもった声で)音楽聴いてるときだけは熱くなれる。強くなれる。そんな音楽が、今日ここにあると信じてる」。
感情が揺さぶられた。ライブ中、神激のMCを聴いていると体の奥からぐいぐい熱いものが込み上げてきて泣きそうになる瞬間が何度もある。これが、たまらない。そのパッションをよいこが素早く引き継ぎ「この曲をあなたに捧げます」といって、届けたのは「不器用HERO」だった。曲中、いもこが思わず叫ぶ。「心の声、届けて!」。声を届けるようにジャンプを繰り返す観客たち。6人はセンターに縦一列に並んで、息の合った動きで千手観音を見せる。それはまるで、オーディエンスに質力最大限でパワーを飛ばし、自分たちの音楽で豊洲PITに集まったみんなを支えられるヒーローになる、といっているようだった。
ことのの挨拶でカッコよくこの日のラストアクトを飾ってみせた神激。この対バンライブシリーズ『LEGIT』を通して、アイドルシーンからバンドシーンへと飛びだした神激が、次はどんなバンドとの対バンを控えているのか。その報告をワクワクしながら待っていてほしい。
取材・文=東條祥恵 撮影=鈴木恵

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