ゼリ→、衝撃のデビュー作
『RODEO★GANG』に
音楽的センスの萌芽と
揺るぎないスタンスを窺う
歌詞に貫かれたブレない前向きさ
アルバムのフィナーレはM13「LONDON NIGHT MOVIE」。ここまでは親しみやすいナンバーが多かった(ほとんどそうだったと言っていい)が、これが唯一と言っていいマイナー調だ。まぁ、Bメロからサビにかけてはわりとポップではあるし、完全マイナーと言えるほどではないものの、完全ポップでもない。この時点でこういうタイプがバンドのレパートリーにあって、それを1stアルバムの最後に収録したというのは、単にここしか置場がなかったから…というわけでもなかろうし、少し意味ありげだったようにも思う。それは下衆の勘繰りにしても、ゼリ→が最初期においても、決してライヴ向けのパーティーチューンだけをやるバンドでなかったことは分かる。本作収録曲の多くはカズキ(Gu)が作曲しており、彼はのちにコンポーザー、アレンジャーとして本格的にその才能を開花させていくわけだが、このM13からはその一端を覗かせているようにも思う。
ゼリ→において最も他者と差別化ができるのはヤフミが手掛けた歌詞ではなかろうか。『RODEO★GANG』がリリースされた2000年にもなると、パンクロックだからと言って、世間に物申す内容──とりわけ無秩序なことを提示するような内容を言うバンドは少なくなっていた。むしろ、その逆で前向きなメッセージを隠すことなく発するいわゆる“青春パンク”が出てきたのがこの頃ではあるのだが、ゼリ→の歌詞はそれとも異なる。前向きは前向きでも内向きな前向きさと言ったらいいだろうか。自分自身はいかに生きるべきか? そこフォーカスが当てられている。
《くさってる 心の中で増えてゆく BLUE GHOST/諦めてしまえば 楽になるのか BLUE GHOST/蹴りいれろ自分に ツバを吐き出せ BLUE GHOST/蹴りいれろ亡霊に 全て吐き出せ BLUE GHOST》(M2「NO THANKS BLUE GHOST」)。
《光ない場所に情熱を/力ない虫ケラに勇気を/くだらない昨日に別れを そしてもう一つの願いは》《そう暗闇で迷っていた 昔の自分のために》《光を放つように》(M3「光を放つように」)。
《震えだせ HOWLING SUNDAY/誰も知らない場所へ向かう/歩きだせ HOWLING SUNDAY/自分のために/1、 2、 3、 4、 5/escape from “PAST"》(M4「HOWLING SUNDAY」)。
《That's my way いつの日か老いぼれて/逃げ腰になる日がきたら/That's my way 手の中に隠してあるナイフで/俺を殺してくれよ JUST MY WAY》(M5「MY WAY」)。
《おもちゃのピストル撃って憂鬱を吹き飛ばして/自分の居場所は自分で探して…/Don't stop my growing up & fuckin' with my head/周りが思ってる程 だめな世代じゃない/oh yeah》(M8「おもちゃのピストル」)。
《神様どうして 夜は長いの ずっとずっと眠れず/きっといつかは 朝日が昇るさ きっときっと Always I'm crying》《死んでも世界は 何も変わらない/だから生き抜いて 何かを変えてやろう》(M11「NITRO GANG」)。
勢いで主だったところを抜き出してみたが、こうした内容は上記以外にもまだまだあって、ほとんどがこのタイプだと言ってもいいほどであった。ゼリ→後期、LAID BACK OCEANに通じる作風ははっきりと見て取れる。逆に言えば、デビュー以降、ヤフミのスタンスはまったくと言っていいほど、ぶれていなかったことも分かり、今さらながらに頼もしく感じたところだ。
TEXT:帆苅智之