最後の夜明け前、最後の暗闇に明かりを灯す5曲

最後の夜明け前、最後の暗闇に明かりを灯す5曲

最後の夜明け前、
最後の暗闇に明かりを灯す5曲

夜道も居酒屋もかつての賑やかさを取り戻しつつあり、神社は酉の市で混み合う今日この頃。まだまだ予断を許さない不安に震えながらも、この晩秋が夜明け前の一番の闇だと信じて孤独に耐える日々。ライヴハウスの喧騒を体が記憶しているうちに、懐かしさで凝固されてしまう前に全てが終わりますようにと願いながら、両手でそっと包みたくなる音楽を紹介します。
「銃口」収録アルバム『袖の汀』/君島大空
「My Same」収録アルバム『19』/ADELE
「Since Yesterday」収録アルバム『Strawberry Switchblade』/Strawberry Switchblade
「calling」収録アルバム『RIGHT TIME』/butaji
「空中のチョコレート工場」収録アルバム『空中のチョコレート工場』/割礼

「銃口」(’21)/君島大空

「銃口」収録アルバム『袖の汀』/君島大空

「銃口」収録アルバム『袖の汀』/君島大空

4月にされたEP『袖の汀』の終幕を飾るラブソング。凛とした核心と、直接的/直線的な意味からそっと逸れた言葉選びのひとつひとつの挟間に、余白と間隙という表現の豊かさが広がっていく歌詞が神経を撫で、ガットギターの撓みと張り、幽玄のウイスパーヴォイスを余すことなく丁寧に掬い取った繊細さが血に馴染み、穏やかなままではいられない心のさざめきを表すかのように平静さが欠け、美しいノイズが入り混じるクライマックスと不均衡な音像が鼓膜を叩く。聴き終えた直後には、まるで研磨されていない原石を飲み干したかのような気分にさせてしまう楽曲。

「My Same」(’08)/ADELE

「My Same」収録アルバム『19』/ADELE

「My Same」収録アルバム『19』/ADELE

最新アルバム『30』のリリースが待ち遠しいADELE。2008年に発表されたアルバム『19』に収録されているブルージーな「My Same」は、ディスコミュニケーションの静かな葛藤を等身大に綴ったラブソング。波のように巨大な襞を広げるベースの低音、小気味良いカッティングを刻むギターの上で、パワフルかつ緻密なドラムとダンスするように、物憂げなシャウトを交えながら煌びやかな曲線を描くスモーキーな歌声が薫る。瞬く間に襟首を掴む普遍的な裏寂しさと挑発的なタフネスが螺旋が心地良い。

「Since Yesterday」(’85)
/Strawberry Switchblade

「Since Yesterday」収録アルバム『Strawberry Switchblade』/Strawberry Switchblade

「Since Yesterday」収録アルバム『Strawberry Switchblade』/Strawberry Switchblade

Strawberry Switchbladeが1985年に発表した唯一のアルバムの冒頭は、非現実の王国で鳴り響くかのようなファンファーレで幕を開け、頭の中の箱庭が宇宙の深淵で弾け飛ぶ感覚が貫く甘酸っぱさと荘厳さが貫くニューウェイビー&スペイシーな楽曲で花道を象る。いびつに揺らめきながら重なっていくシンセサイザー、流れ星を砕くかの如く強烈な打音の真ん中でくるくる回り続けるローズとジルの歌声は、ドーリーでキュートでありながらも、どこまでもとんがっていて眩い。

「calling」(’21)/butaji

「calling」収録アルバム『RIGHT TIME』/butaji

「calling」収録アルバム『RIGHT TIME』/butaji

ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』主題歌に携わったbutajiのニューアルバム『RIGHT TIME』の「calling」は、ひび割れの音が発した時にようやく自身の乾きに気づけるほど疲弊しきった日常に降り注ぐ暖かい雨に似た優しさと慈愛だけで育まれている。喉の奥で詰まってもう一度封じ込めてまいそうな、口に出すと気恥ずかしさで染まってしまいそうなシンプルな強さと自問自答できめ細かに編まれた言葉が、壮大な柔らかさで縁取ったメロディーの中に染み込むだけで、届けられるだけのすべての人に伝わってほしいと思える不思議、奇跡の素晴らしさ。

「空中のチョコレート工場」('00)
/割礼

「空中のチョコレート工場」収録アルバム『空中のチョコレート工場』/割礼

「空中のチョコレート工場」収録アルバム『空中のチョコレート工場』/割礼

“孤高”“唯一無二”といった装飾すら追いつかない。1980年代から現在に至るまで、“遅さ”という“速さ”を緩やかに構築、刷新し続け、“完成を待ち続ける完成形”たるサイケデリックロックバンドの割礼。「空中のチョコレート工場」は紙ジャケットで再発されたばかりの同名アルバムのタイトル曲。宍戸幸司(Vo&Gu)の少年のような風通しの良さと最果てを傍観する神の視点が同居する声と詩情の永続性、ギターの滑らかなストローク、ドラムスティックの閃き、ベースの波打ち際の一音一音が粒立って、点描の放物線を幻視させ、耽溺と覚醒のあぶくに髪の切れ端から爪先までどっぷり浸かる魔法の5分39秒でできている。

TEXT:町田ノイズ

町田ノイズ プロフィール:VV magazine、ねとらぼ、M-ON!MUSIC、T-SITE等に寄稿し、東高円寺U.F.O.CLUB、新宿LOFT、下北沢THREE等に通い、末廣亭の桟敷席でおにぎりを頬張り、ホラー漫画と「パタリロ!」を読む。サイケデリックロック、ノーウェーブが好き。

OKMusic編集部

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