【ポップしなないで インタビュー】
モードが切り替わって、
覚悟を決めたところがあった
無邪気でけろりとしたかめがいあやこ(Key&Vo)のヴォーカルと、繊細な感情を巧みな言葉遊びで表現するかわむら(Dr)によって、“一見ふざけているけど真摯”という特徴を持つポップしなないで。ミニアルバム『美しく生きていたいだけ』はそれを幹としながらも、殻を破ったような生々しさが露になっている。
力の限りにライヴをするだけでは
もの足りなくなっていた
今作を聴いて、ポップしなないでの真髄に一歩踏み込んだような感覚になりました。今年3月に行なわれた神田明神ホールでのライヴ『ポップしなないで 神頼みツアー ファイナル』を観た時にも感じた、“音楽を届けることに対しての覚悟”みたいなものが具現化されているように思えます。
かわむら
そう言っていただけて嬉しいです。まず、前アルバム『上々』(2020年11月発表)が集大成のような一枚だったので、神田明神ホールでのライヴはそこから次に踏み出すステージというか、音楽的な挑戦をしたいと思っていたんですよ。今まである意味視野を狭くして表現してきたものを、今度は広げていくステージにしなきゃいけないなと。だから、サポートメンバーやVJ、マニュピレーターにも参加してもらって、どう表現していくのかを考えました。
かめがい
そっちのほうが楽しいんですよね。今までは“私はこういうことがやりたいんだ!”という心意気でライヴをしていたのが、お客さんにいい体験をしてもらいたいっていうほうにシフトしたのかな? 力の限りにライヴをするだけでは、今の自分たちにはもの足りなくなっていたので。
かわむら
“自分たちはこれしかできないから”って思うのは簡単で、本当はもっとチャレンジしたいことがあることに気づいたんですよね。そんな神田明神ホールでのライヴを経て、次に出す作品にも新しい考えや刺激をちゃんと落とし込みたいと思うようになりました。ポップしなないでは全てを曝け出して音楽をやっているというよりは、どこか飄々としている部分があると思っていて、これまでの自分たちだったら恥ずかしがって言わなかったことや、認めたくなかったことについて、アルバムの制作中にかめがいさんと話したんです。今までの自分たちにも肯定すべきところがたくさんあるけど、“自分たちの表現って何なのか?”“何のために音楽をしてるんだろう?”というところまで踏み込んで。
かめがい
かわむらくんが言葉や曲で表現していることと、私がやりたいことはある意味一致していて、無情なことや自分が抱えている悲しみを持ったまま、前を見て笑ってやるくらいの感じで歌いたいと思っているんです。そういう根っこの部分はずっと変わっていないけれど、今作にはそれを6年間やってきて感じたことも加わっていて。特に最近は、音楽を通して誰かの人生にかかわっていることをすごく実感するようになったんですよ。曲を聴きながら何かを思ってくれる人もいるし、あとから“あの時あの曲を聴いていたな”って思い出してくれたり、“別れた恋人がこの曲好きだったな”と懐かしんでくれたり。音楽を届けるってそういうことなんだなっていう意識は強くなりました。
そんな心境の変化も込められた今作で核になった曲はありますか?
かわむら
1曲目の「支離滅裂に愛し愛されようじゃないか」はベースになっていると思います。ライヴでもやってきた「SG」「でも暮らし」「tempura」に関しては、ポップしなないでが新しいモードに変化していく前兆の曲になっていると思います。中でも「SG」は、少し前までは説得力を持って演奏できているのか分からない曲だったんですよね。それが今やっとしっくりくるようになったというか。
「SG」は心の痛みが全然隠れていなくて、かめがいさんの熱唱する感じにも胸が締めつけられます。
かわむら
曲自体は結構前からあったんですけど、いったんライヴではやらなくなったんですよ。
かめがい
まだやれなかったんだと思う。披露するまでにいかなかったんです。
かわむら
そういう曲も自然と自分たちのものになったことが、今作の核になっている気がします。