新たな境地を切り拓く世界のディーヴ
ァ中丸三千繪に聴く 『MICHIÈ NAKA
MARUソプラノリサイタル ~Starly C
hristmas 2021~』

近年、オペラ歌手の枠組みを超えて、さらなる活動の幅を広げつつある世界のディーヴァ 中丸三千繪。彼女が取り組んできたコンサート『Starly Christmas』が、今年(2021)も12月11日(土)、東京・紀尾井ホールで開催される。今年はデビュー当時を振り返り、オペラ歌手 中丸三千繪の原点に立ち返るという。コロナ禍を経て久々に開催されるファン待望のコンサートにかける思いを聴いた。
原点回帰のレパートリーは「時を経て理解できたこともあった」
――中丸さんが長らく取り組んでいる『Starly Christmas』ですが、2021年バージョンへの思いをお聞かせください。
関東でリサイタルを開催するのは去年の2月以降初めです。プライベートでの演奏会はできる限り継続してきたのですが、公には大変久しぶりです。個人的には昨年9月にサントリーホールでショパンのピアノ協奏曲2曲と「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」など3曲を指揮しましたので、昨年の夏まではずっとそれに時間を充て、一日中ショパンを勉強していました。でも、今、振り返ると、その期間もとても充実していましたね。
そのコンサートの後、自分自身が音楽を始めた時のことや、本当は何をしたかったのかということ考え直す機会に恵まれました。私としては、このコロナ禍の約一年は、そのようなことを考える良い機会だったと思っています。そのような経緯もありまして、今回の『Starly Christmas』は、オペラ歌手としてデビューした頃に歌っていたレパートリーや、かつて、コンクールで歌った作品などを中心に、今一度、自らの歌手人生の原点に立ち返ってみたいと考えています。
――プッチーニやヴェルディなどの、いわゆるイタリア・オペラの名作と言われる作品からのアリアの数々がプログラムの軸になるということですね。
デビューしてから3~4年は、皆さん、コンクールで勝った時のレパートリーや得意な曲目を中心に歌っていくわけですが、例えば、いつもプッチーニのアリアばかり歌っていると、「これしか歌えないのか」ということになってしまいます。ですから、一般的なケースとしてはマニアックな方向に進化してしまうんです。私も一時期はそのような傾向にありました。
ところが、ある日、ファンクラブの皆さんや母から「いつもCDで聴いている曲を生演奏で聴きたいのよ。難しいものじゃなくて、耳に慣れているものをもっと歌って」と言われたんです。そのような言葉を聞いて、『トゥーランドット』のリューのアリアや『ラ・ボエーム』のミミのアリアから遠ざかっている自分がいるのを感じ、ハッと気づかされたんです。やはり、人間というのは時々原点に戻ってみないとダメなんですね。そんな経緯から、今回は懐かしいイタリア・オペラのレパートリーで7割くらい歌ってみようと考えています。

中丸三千繪

――3割はクリスマスらしい作品でしょうか。
はい。クリスマスにちなんで、シューベルトやカッチーニの「アヴェ・マリア」を歌いたいと思っています。
――今回は石田純一さんもゲスト出演されるそうですが、中丸さんも、石田さんもワインラバーでいらっしゃるので、ワインつながりということでしょうか。
いえ、ワインではないんです。石田さんとは、かなり前にテレビの音楽番組で共演して以来のお付き合いなんですが、スポーツクラブもご一緒ですし、共通の友人が多く、いつも話題の中心は、どちらかというとイタリアのことや、ミラノのスカラ座の話などが共通の話題です。
もう一つは、マスメディアでは、その方の極端な部分ばかり強調されてしまうことがありますね。でも、石田さんは、ご一緒に食事などしていても本当に素敵な紳士でいらっしゃるんです。そんな石田さんの本来の姿を、会場の皆さんにも生で感じて頂きつつ、イタリアの話題で楽しんで頂けたらと思っています。
――先ほど、「原点に立ち返って」というお話がありましたが、今回、再びデビュー当時に歌われていたレパートリーを再発見し直す機会を得て、思いを新たにされたことはありますか。恐らく、当時はレコーディングもかなりされたと思うのですが……。
先日NYから戻って来て10日間の隔離期間中に、ずっとピアノの前で歌うか、譜面を見ているかという感じでしたので、歌い始めた頃のCDも、もう一度すべて聴き直してみたんです。やはり、「違う!」と感じることが多かったですね。「昔はこういうふうな解釈だったけれど、今はこうなんだ」というように。
例えば、当時(コンクールの優勝後、デビューしたての頃)カラヤンのアシスタントをやっていた指揮者であり、ピアニストのレッスンを受けていた時、彼はいろいろ意見をしてくださったのですが、私自身としては受け入れられないことも多々あったんですね。でも、今、CDを聴き直しながら振り返ってみると、「ああ、なるほど。あの時マエストロはこういうことをおっしゃりたかったんだ」ということが、とてもよく理解できたんです。
偉大なソプラノだった故ミレッラ・フレーニと共演した時も、同じステージで傍にいながら、彼女の試みることが大味に聴こえて少し違和感を覚えたこともあったのですが、実際、私自身が彼女の歳になってみて、ようやく「そういうことだったんだ」と理解できるようになりました。
もう一つは、当時はとても神経質になり過ぎていて、繊細過ぎる演奏をCDや演奏会でお聴きになる方々も辛いものがあったのでは、と反省しました。そのような意味で、すべてを含め、今、三段階目のテクニックの勉強をし直さなくてはと思っています。
――同じ、『トゥーランドット』 に出てくる登場人物でも、かつてはリューを歌っていたのが、現在はトゥーランドット姫を歌ってみたいと思われることなどもありますか。
その通りですね。今はトゥーランドット役を歌いたいですし、できればオペラ上演として『トゥーランドット』という作品を手がけてみたいと思っています。
“オペラ歌手の中丸三千繪”ではなく、“音楽家”として
――中丸さんの多彩な活動の一つとして、近年、クラシック音楽界の繁栄を願って、新企画を立ち上げていらっしゃるということですが、今後、どのような活動を展開していきたいとお考えでしょうか。
今年8~9月にかけて「イブラ音楽財団」が主催するコンクール(イブラ・グランド・アワード・ジャパン)に審査員として関わる機会を頂いたのですが、この場を通して本当に隠れた素晴らしい才能に出合えたことに感謝しています。500人以上が参加したコンクールでしたが、特に素晴らしいピアニスト二人にお会いできたことを嬉しく思っています。もちろん、歌い手も素晴らしい才能の持ち主がいまして、「絶対に連絡してね」と、私も名刺を差し上げました。
ところが、クラシック音楽というのは、このようにネット社会全盛になっても、まだ一般的に敷居が高いと思われているんですね。なので、若い素晴らしい才能を持った方々はたくさんいても、なかなか一般的に認知されるのが難しい状況があります。私たちは、そういう方々を、私たちで主催するコンサートにお呼びして、一緒にステージで演奏して頂きたいと思っています。オペラに関しては、カンパニーを立ち上げ、彼らにステージに立つ機会を与え、私自身、海外でやってきたこと、学んだことを少しでもお伝えできればと考えています。
中丸三千繪
オペラに関しては、今までにもオペラ関係者の方々​から「中丸さんがやらなければ誰がやるの?」と言われていたのですが、コロナ禍以前は自分のことで精いっぱいでした。でもこの一年いろいろなことを考えまして、「これ位でいいかな……、というのはいけない。自分自身で新たな第一歩を切り拓いていかないと、自分自身もダメになってしまう」と反省しました。もう一つ、これも周りの方々から提案頂いていることなんですが、私の名前を冠したコンクールを企画しまして、入賞者にはイタリアで生活する機会のご協力をしてあげられたらいいなと考えています。
【ファンクラブ事務局代表 平田氏よりコメント】現在、中丸三千繪ファンクラブとして『MICHIÈ NAKAMARU Famiglia』というグループがあります(Famigliaは、伊語でファミリーの意)。このグループは、中丸さんを応援するファンの集いとしての活動のみならず、若く才能ある演奏家でまだステージに上がる機会に恵まれない方々や、キャリアがあってもファンクラブの運営等が難しいという方々を巻き込んで、皆さんで一緒に活動していきましょう、というユニークなコンセプトを打ち出しています。クラシック業界の繁栄を願い、立ち上げた新プロジェクトとして、今後、さらに本格的に活動を展開していきたいと考えています。

――このような時代において、アーティストだけではなく、一般的な社会において、クラシック音楽の果たす役割というようなものをどのように捉えていますか。
例えば5万人集めるコンサートなんかも一見、ノリノリで楽しそうですけれども、何か虚しさやネガティブな感情があって、それを発散する方向に作用するケースが多かったりします。ところがクラシック音楽というのは、一人になった時に暗い部屋で聴いてもいいし、皆さんでワイワイ食事をしながら聴いてもいいですし、どんな時にもその人のその時の感情に寄り添ってくれる。それがクラシック音楽の本質なんです。実際、いろいろなジャンルのミュージシャンやアーティストたちがクラシックのそのような力からインスピレーションを受けて多様な音楽や芸術のかたちを創造しています。
例えば身近な例で申し上げると、大衆音楽の頂点にいたフレディ・マーキュリーが、オペラをこよなく愛していたというのは、『ボヘミアン・ラプソディ』を見て感じられた方も多いと思いますが、彼は、オペラやクラシック音楽の持つ何かに揺り動かされて、あのような偉大な作品を生みだしたのです。このように、身近にある様々なジャンルの音楽が、実はクラシック音楽を原点にして、生まれ、世界の人々に愛されているということを、少しでも多くの方々に感じて頂けたらと思いますし、私たちが、そういうことに気付いて頂けるように演奏活動をしていかなくてはいけないと思っています。
中丸三千繪
――長いキャリアを積んでこられて、現在、ご自分の歌手人生の中では、どのような立ち位置にいるとお考えでしょうか。例えば、オペラのキャラクターに例えるとすると、どのような境地でしょうか?
イブラのコンクールで参加者の方々から「中丸先生にお会いできるのを楽しみにしていました」とお声をかけて頂きまして、初めて「ああ、そんな立場になってしまったんだ」と気づかされたんです。私自身の中では、つい最近10年くらい前までコンクールを受けていて、実は、まだ大学生のままの気分でいたんです(笑)。でも、オペラのキャラクターというと……、そうですね……。
――先ほど、トゥーランドット役をおやりになりたいとも。
いや、それが却って自分自身の中では、どちらかと言うと『フィガロの結婚』の伯爵夫人が、しっくりいく感じでしょうか。
――それは、「すべてにおいて寛容な心で」、というような境地を意味していますか。
どちらかというと、そういう感じですね。私自身は、自分のことを激しい性格の人間と思っていたのですが、実はそうではなくて、それを演じていたんだということもわかりましたし、そういう意味ではこのコロナ禍の自粛生活は、自分のことを振り返る本当にいい時間でした。
――指揮者としての活動も今後、深めていきたいと考えていらっしゃいますか。
はい、オペラ歌手の中丸三千繪というよりも、音楽家として最後までいきたいと言う気持ちが強くなってきていますので、それが、指揮なのか、演出家なのかプロデューサーというような立場なのかはわからないのですが、いろいろなことに挑戦していきたいと思っています。
――最後に読者にメッセージをお願いします。
「かけた情けは水に流せ、受けた恩は石に刻め(刻石流水)」――昔、あるご住職から教えて頂いたお言葉なのですが、私自身、この言葉を時々思い出しながら生活しています。与えて頂いたことは、どんなことでもすべて良しとして、それに感謝しながら生きていきたいと思っています。
このコロナ禍において、多くのことを制限されてきましたが、決して腹を立てずに、皆さんにも、毎日、自分が生きていることへの感謝をしながら生きていって頂きたいと思いますし、私たちも演奏家として少しでもご協力できるように、少しでも良い演奏をして何かのお役に立てるように努めていきたいと思っています。今年の『Starly Christmas』も心温まるクリスマスコンサートにしたいと思っていますので、どうぞ12月のお忙しいひとときですが、ぜひご来場ください。
取材・文=朝岡久美子

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