【コラム】2021年いっぱいでクローズ
するZepp Tokyo。音楽ライター・兵庫
慎司が「Zepp Tokyoで観た思い出深い
ライブベスト5」を思い入れたっぷり
に振り返る!

Zepp Tokyoが、2021年いっぱいでクローズする。というニュースは、関東圏のライブ好き、音楽好きな人たちに、大きなショックを与えた。
Zepp Tokyoがあるパレットタウンは、将来的に閉鎖→再開発されることがわかっていたし、当初はもっと早くそうなる予定だった。だから2012年に、すぐそばにZepp DiverCityを作ったのだろうし、そもそもZeppという事業自体が、その場所の状況の変化に、柔軟に対応できるように運営されていることが、全国の展開を見ているとわかる。
福岡は、2016年にクローズしたが、2年後に再オープンしたし、大阪は2012年に閉まったが、その3週間後にZeppなんば大阪が、5年後にZepp Osaka Baysideがオープンした。
というふうに冷静に見ると、そこまで悲しむようなことではない気もするが、多くのアーティストも、ファンも、そうは受け取っていない。
予定を超えて、20年以上続くハコになったこと。渋谷公会堂などのホールよりもキャパが大きい、オールスタンディングのライブハウスであるという点で、画期的だったこと。それにより、多くの新人アーティストの「ここでワンマンができたら一人前」という目標になったこと。などなど、いろんな意味で、いろんな人たちが、強い思い入れを持つ場所に育っていったのだと思う、Zepp Tokyoは。というか、自分もそうだ。オープンからクローズまで知っているわけだし、数えきれないほど足を運んだし、やっぱり、しみじみさせられるものがある。
というわけで、「Zepp Tokyoで観た思い出深いライブ、5本選んで何か書けません?」という、SPICE編集部の相談に「あ、書きます書きます!」と答えたのだった。5本選ぶのにとても悩んだが、なんとか書きました。 ちなみに、最後まで入れるか迷った6本目は、2010年3月29日(月)に観た、ボブ・ディランです。もちろんすごいライブだったけど、その8年後にフジロックで観た時のインパクトがその時を超えたので、次点としました。
1999年7月16日(金)『Future Music Festival 1999』
Zepp Tokyo、できたばかりの頃は、オールナイトのイベントも、時々やっていた……いや、それ以降もやっていた。ただ、1999年当時というのは、ハウス/テクノ系などのダンス・ミュージックが、洋邦含めて盛り上がっていた時期だったので、その分、強く記憶に残っているのかもしれない。
特にこの『Future Music Festival 1999』は、同じ年の同じ月に始まった、石野卓球オーガナイズの『WIRE』に匹敵するほどの、豪華アクトが集結したイベントだった。『WIRE』は横浜アリーナなので、規模は全然違うにもかかわらず。
以下、そのタイムテーブル。オールナイト・イベントなのに、スタートは18:00だった。
18:00-18:50 SUSUMU YOKOTA(DJ)
18:50-19:50 KEN ISHII(LIVE)
19:50-20:50 Basement Jaxx(DJ)
20:50-21:30 Boom Boom Satellites(LIVE)
21:30-22:20 Captain Funk(DJ)
22:20-23:10 Red Snapper(LIVE)
23:10-00:00 DJ Krush(DJ)
00:00-00:40 Jimi Tenor(LIVE)
00:40-02:10 Juan Atkins(DJ)
02:10-02:50 Co-Fusion(LIVE)
02:50-04:20 Richie Hawtin(DJ)
04:20-06:00 Jeff Mills(DJ)
以上。つくづく豪華だ。この時はDJセットだったBasement Jaxx、これ以降ライブ・セットでの来日を何度も体験することになったなあ、とか、Captain Funk、大好きで、12インチが出る度に買ってたなあ、とか、Co-Fusion、2019年に再始動したんだよなあ、とか、いろいろ思い返して、しみじみする。トップのSUSUMU YOKOTAは、2015年に亡くなってしまったし。あと、このイベントのちょっと前に、ロンドンに出張し、オールナイトの野外レイヴでRed Snapperを観たばかりだったので、またすぐ観れた! とうれしかったことも、思い出した。
ちなみにこの頃、りんかい線はまだ全線開通しておらず、うちの方から行く交通手段がゆりかもめしかなくて、あまりアクセスのいい会場ではなかった、Zepp Tokyoは。という面倒さに負けて、クルマで行ってしまい、酒が飲めなくて後悔したことも、思い出しました。
2002年5月24日(金) 『MTV THE SUPER DRY LIVE』
これはシンプルに「ZeppでOASISを観れるなんて!」という体験だったので、選びました。
日本のMTV(この当時はCSの音楽チャンネルだった)と、アサヒスーパードライが組んで行った無料招待のイベントで、OASIS、Dragon AshRIP SLYME、RIZE、JAY-Zの5アクトが出演。14万人通の応募の中から当選した、幸運な2000人がライブを楽しんだ。
当時のOASISは、横浜アリーナや、フジロックのグリーン・ステージ(この前年に初日のトリをやった)で観るのが普通であって、Zepp Tokyoくらいのキャパのイベントに出るために来日する、ということ自体が、異例中の異例。
そもそもこのイベント、「音楽ファンの夢をかなえる」みたいな企画で、「洋邦のアーティストの共演を観たい」とか、「好きなバンドの1日ローディーになりたい」とか、「小さな会場でビッグ・アーティストを観たい」とかいうような、応募者の夢を実現する、という趣旨だった。
という意味では、JAY-Zも来ているし、Dragon AshもRIZEもRIP SLYMEも、当時すさまじい人気だったし、その時点で「小さな会場でビッグ・アーティストを観たい」をかなえているじゃないか。と思うが、さらに完膚なきまでにダメ押ししたかったんだろうな、だからOASISまでブッキングしたんだろうな、と、推測します。アサヒスーパードライの潤沢な宣伝予算のおかげですね。一体いくら払ったんだろう、OASISに。
とにかく、「うわあ、近あ。リアムもノエルも、近あ」と、呆然としながら、2階からOASISのパフォーマンスを観たのだった。とは言え、OASIS、リアム以外は立ち位置を離れずに、黙々と演奏するタイプのバンドだし、リアムも時々タンバリンを手にウロウロするくらいなので、このくらいのキャパで観ても、意外と違和感、ない。という発見もありました。
なお、当時、日本の所属レーベルだったエピックは、この日の45分のライブを、映像商品としてリリースした。という判断をするくらい、やはり、レアなケースだったのだと思う。
2002年11月28日(木) NUMBER GIRL
解散と共に開催が発表された『Live Tour“NUM”無常の旅』の東京公演。この2日後、ツアーの最終日である11月30日(土)札幌PENNY LANE(後にライブ・アルバムになっている)をもって、NUMBER GIRLは解散した。当時自分がいた音楽雑誌=ロッキング・オン・ジャパンで、このツアーの各地を追って特集を作り、自分はこの東京公演のレポを書いた。
バンドのコンディションが最高潮としか思えない、超絶なライブだった。なんでこんなライブをやれるバンドが、解散しなきゃいけないんだ。もっと「ああ、これはダメになってきてるわ、解散も止むを得ないわ」と思わせてくれよ。
でも、解散を決めたからこそ、こういうライブをやれている、という可能性もあるか。いや、だけど、半年前にアルバム『NUM-HEAVY METALLIC』をリリースしてすぐ回ったツアーも、すごかったよな。あれ、音楽性が次の方向を目指し始めたアルバムだったから、まさかここで終わるとは……と、複雑な気持ちで脳内がグルングルンなりながら、ライブを観たのを憶えている。
ベースの中尾憲太郎が脱退を申し出、この4人以外でNUMBER GIRLをやるということは考えられなかったので解散を決めた、という理由であることが、当時、アナウンスされた。
後のインタビューで、向井秀徳は「最新作に表れていたように、これからNUMBER GIRLでやりたいことのビジョンがあったので、自分は解散など考えていなかった、でも中尾憲太郎がやめる以上、そうするしかなかった」と語っている。
向井はそのビジョンを、解散後にドラムのアヒト・イナザワと結成したZAZEN BOYSで、実現していくことになる。ただし、ZAZEN BOYSは、2004年12月にアヒト・イナザワが脱退して松下敦が加入したし、ベースは現在のMIYAで三代目である。NUMBER GIRLのような「ひとりやめたらおしまい」ではない、そうなっても持続可能なバンドに向井がしたのだと思う。
その17年後の2019年、NUMBER GIRLは再結成を果たす。2020年3月1日(日)には、Zepp Tokyoでライブを行うはずだったが、コロナ禍により、無観客生配信に変更。その模様をスペースシャワーTVのオフィシャルYouTubeチャンネルで無料生配信した。後日、振替公演の日程が7月13日(月)で出たが、それも中止。しかし、2021年12月26日(日)、東名阪ツアー『我々は逆噴射である』東京公演がZepp Tokyoでついに行われる予定だ。
2009年1月29日(木) PRIMAL SCREAM
プライマル、Zeppでも、それ以外でも、そこそこの回数、観ていると思う。どの時がよかったっけ。でも『GIVE OUT BUT DON’ T GIVE UP』以降ならば、「どの時もよかった!」と、言っても大丈夫だな、基本的には。
それまでの、自分内生涯ベスト・ライブは、1999年のフジロック、ホワイト・ステージのトリで観たUNDERWORLDだったが、後年、何度目かのプライマルのライブを観て、「うわ、あの時のUNDERWORLDを超えたかも、どうしよう」って、意味もなくオロオロしたことがあったな。確か、フェスとかじゃなくて、ワンマンだった。Zeppだったっけ、違うハコだったっけ……。
などと記憶をさらいながら、いろいろ検索をかけていたら、2009年1月29日、Zepp Tokyo2デイズの2日目のライブレポートがひっかかった。メディアはrockin’ on. comで、ライターは自分だった。忘れてた。
それまでのプライマルは、アルバムごとにどんどん音楽スタイルが変わり、それに伴ってライブのやりかたも変化していくので、「今回はこういうアルバムか! じゃあライブは?」という、ある種の批評性を持って、あと若干の緊張感も持って、そのパフォーマンスと相対していた。
でも、今はもう、いい意味で、そういうバンドではなくなった。どの時代のどの曲をやっても、王道なロックンロール・バンドとして楽しませてくれる、だからこっちも無防備な心のまんまで観ることができる、そういうバンドになった──というようなことが書いてある、読み直すと。
「僕にとって、バンドのありかたや、音楽性や、その他いろいろについて、いちいち考えたり位置づけたりしなくていい、ただ存在してくれることを気分よく楽しめるバンドになったってことです、今のプライマルは」
だそうです。「だそうです」じゃないよ。でも、そのことが、とてもうれしかったんだなあ、この人は。ということは、わかります。
2014年11月8日(土)電気グルーヴ
電気グルーヴが初めてZepp Tokyoでライブをやったのは、オープン翌年の2000年。以降、何度もZepp Tokyoのステージに立ち、特に2010年代からは、ツアーの東京公演はZepp Tokyo2デイズ(たまにZepp DiverCity2デイズ)、というのが定例化していく。
毎回観ているが、特に強く記憶に残っているのが、この2014年の、結成25周年ツアー『塗糞祭』の東京公演。この2日目は、後にDVDになっている。元メンバーのCMJK砂原良徳、元サポートメンバーのDJ TASAKA、以前にユニット「電気グルーヴとスチャダラパー」を一緒にやったスチャダラパーの3人、90年代から電気のクリエイティブに関わり続ける天久聖一。以上7名の、電気と近しい人たちがゲストで登場した。
ゲストが出る時間も、石野卓球&ピエール瀧&サポートのagraph牛尾憲輔の3人だけの時間も、一瞬たりとも目も耳も離せないライブだった。と、今、DVDを観直しても、改めて思う。映像、音響、セット、選曲、構成など、どこをとってもこれ以上のものはない、と思える楽しさ、かっこよさだ。
このツアーに『塗糞祭』というタイトルを付けたことに端を発して、物販で電気グルーヴのロゴの入った刷毛が売られていた。すごい勢いで売り切れていた。ライブのオープニングで、ふたりはその刷毛を手に登場、オーディエンスも刷毛を振り回している光景は、7年後の今観ても、なかなか、くるものがあります。ちなみに、DVDにもちっちゃい刷毛が封入されています。
なお、その次の周年=30周年・2019年のツアーも、東京はZepp Tokyo2デイズだった。3月15日(金)・16日(土)。楽しみにしていたが、例のあれで、大阪公演が終わったところで中止になってしまった。そのままZepp Tokyoで電気を観ることがかなわなくなったのが、残念です。
Zepp Tokyo、最後の3日間=12月29日(水)・30日(木)・31日(金)は、『Zepp Tokyo Thanks & So Long!』と銘打って、イベントが行われる。
29日は、ライブ制作&イベンターLivemasters Inc.の設立10周年イベント『GT-Z 2021』で、フレデリックBIGMAMAアルカラ、TOTAL FAT、サイダーガール、SPiCYSOL、Lym(Opening Act)が出演。
30日は、『1つの目標として存在してくれたZepp Tokyoにて』というサブタイトルで、My Hair is BadHump BackハルカミライSIX LOUNGETETORATHE NINTH APOLLO所属の5バンドが出演する。
そして31日は、ELLEGARDENBRAHMANがツーマンを行うことが発表になった。すごい。でも確かに、どちらもZepp Tokyoで観たことがある。これ以上ない終わり方だと、素直に思う。
文=兵庫慎司

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