L’Arc~en~Cielとの出逢いの中で魅
せてくれた景色や想い出に感謝『30t
h L'Anniversary TOUR』レポート

30th L'Anniversary TOUR

2021.12.23 国立代々木競技場第一体育館
2021年5月に、結成30周年アニバーサリーイヤーの幕開けを飾ったライヴ『30th L'Anniversary Starting Live "L'APPY BIRTHDAY!"』を千葉 幕張メッセ国際展示場1-3ホールで開催したL’ Arc~en~Ciel。9月5日の大阪 大阪城ホールから12月26日の東京 国立代々木競技場第一体育館まで、全国8ヵ所19公演行われた今回のツアー『30th L'Anniversary TOUR』は、これに続くものであった。
L’ Arc~en~Cielの全国ツアー開催は、2020年の1月から行われていた『ARENA TOUR MMXX』以来となるのだが、この『ARENA TOUR MMXX』は、2020年1月~3月にかけて5ヵ所12公演で行われる予定であったところ、新型コロナウイルス感染拡大の影響により途中で中断されてしまい、2月28日、29日の横浜アリーナ 、3月4日、5日の国立代々木競技場第一体育館の4公演が中止となったのだった。
2021年12月23日 国立代々木競技場第一体育館。
定刻通りに会場内の照明が落とされると、センターステージを包み込む形で設置されていたスクリーンに映画の一場面のような危機迫るシーンが360°に映し出された。車に乗ったまま巨大スクリーンで映画鑑賞ができるドライヴインシアターを彷彿させるような壮大な風景だ。オーディエンスのバットマラカスライトで染め上げた赤は、薄暗く赤黒い照明に照らされたステージに溶け込んで境界を取り除き、重厚な檻の中に閉じ込められたかのようなhyde(Vo)、ken(Gt)、tetsuya(Ba)、yukihiro(Dr)の姿を浮かび上がらせた。1曲目に選ばれていたのは、yukihiroのルーツを感じさせるインダストリアルでダークな印象の「get out from the shell」。破壊的な世界観の中で、おどろおどろしいギターフレーズに絡み付くヴォーカルが低い温度で生々しく会場に浸透し、ダンスビートが叩きつけられていくその独特な表現力は、成熟したバンドの在り方を見せ付けられた、最強の幕開けであった。
2曲目に届けられた「Caress of Venus」で一気に鮮やかな世界へと導くと、フロアの赤は虹色へと景色を変えた。
「ラニバへようこそ。去年は予定されていた代々木でのライヴができませんでしたが、どうでしょうか? しっかりとできているではありませんか。みんなで反撃しましょうね。今日もいろんな楽器を使って楽しんで下さい(※観客は声が出せないため、鳴物の持ち込みが許可されていた)。可愛い声が聞けないのがとても残念ですが、みんなが安心して楽しめるように、最後までよろしくお願いいたします。360°愛してあげますからね。Are You Ready?」(hyde)
横浜アリーナでのライヴと、ここ、国立代々木競技場第一体育館でのライヴは、『ARENA TOUR MMXX』でのリベンジの場所とあって、メンバーは、そのときの分まで特別に熱いライヴにしたいという想いを寄せていたようだった。
続いて届けられたのは「the Fourth Avenue Café」。メロディの一部となっていたオーディエンスの手拍子は、4人が放つ音と共に25年前の曲を、2021年の今、この状況だからこその景色の中に、色鮮やかに蘇らせた。《あと…どれくらいだろう? そばに居てくれるのは》と唄われる主人公の切なく苦しい心情に、tetsuyaのメロディアスなベースフレーズが柔らかに寄り添った。愛しい人に思いを馳せたこの曲の最後で、hydeは大きく息を吸い、その募る愛しさをため息に変えた。
季節を感じさせた「winter fall」では、アイスバーンのように輝く水色に染まったフロアが場内の空(天井)に反射し、幻想的な世界を作り上げた。hydeは左右の客席に視線を送って距離を縮め、オーディエンスが作った氷の世界の中に浮かび上がった雪道の中を一人ひとりと手を繋ぐかのような温もりでゆっくりと歩きながらこの曲を歌い、メインステージを守るken、tetsuya、yukihiroは、サウンドという光で雪原をさらに輝かせ、そこに格別な美しさを描き出した。
hydeのウインクで締めくくられた「winter fall」から続いて届けられた「flower」では、照明がオレンジ一色に変わり、hydeがハーモニカを吹いて魅せた。様子を伺うかのように1フレーズ届けてはフロアからのレスポンスを待つhyde。そんなhydeに、客席は鳴り物で応えた。hydeの表情と鳴り物で繰り返されたコール&レスポンスから「flower」のイントロへと繋げると、メインステージの外周がゆっくりと時計回りに回転し始め、hydeと時間差でtetsuyaもその外周部分に移動し、2人を乗せた外周ステージは、全方位を埋め尽くしたオーディエンスの元にhydeとtetsuyaを運び届ける。2人の姿が近づくとフロアのバットマラカスライトは大きく揺れ、オーディエンスの歓喜の声が聞こえた気がしたほど、フロアの光の動きが歓声に代わって熱を伝えてくれていた。
先に移動していたhydeがtetsuyaの横へ行き、ベースを弾くtetsuyaの右肩にそっと左の頬をくっ付けるように軽くもたれ掛かった。オーディエンスの、声を出せない辛さが痛いほど感じ取れたが、マスクの下で幸せな笑顔が広がっていただろうと想像すると嬉しくなる。30周年という節目にこの曲で、この光景が見ることができたことを心から尊く思った瞬間だった。
「X X X」のイントロが流れる中、hydeは話した。
「みんな準備はいい? 三十路になりました、L’ Arc~en~Cielです。大人っぽく参りたいと思います。みんな付いて来てね。Are You Ready? Tokyo!」(hyde)
真っ赤にステージを塗りつぶした赤の中で、紫色の照明に照らされた4人が妖艶に浮かび上がった。そして届けられた「X X X」。hydeによって生み出された、この毒を孕む美しさも、L’ Arc~en~Cielの武器と言えるだろう。ここから繋げられた「fate」でも、強くL’ Arc~en~Cielらしさを感じたのだが、ここでは改めてサウンドを構築するそれぞれのプレイの素晴らしさを再認識させられた。完全に引き算の美学を成功させた“上物”に徹したkenのギターには、力加減に高度な演奏力を感じ、隙間なく動く特有の憂いを持つtetsuyaのベースの存在感にL’ Arc~en~Cielというバンドの低音が担う役割の重要性を感じ、手数の多さと細やかで繊細なドラミングにyukihiroというドラマーのセンスを感じた。この主張の強いプレイがL’ Arc~en~Cielというバンドとして成り立つとき、そこに絶対的な一つの魂が宿る不思議と、この4人がL’ Arc~en~Cielという人生を歩むことになった出逢いの奇跡に改めて感謝した。ここから間髪入れずに「REVELATION」へと繋がれ、「fate」で緑に染まっていたフロアが再び赤に染め上げられた。大きく回転し方向を変えていったメインステージと、そこから吹き上がるスモークの迫力は圧巻だった。

「NEO UNIVERSE」での光の柱を使った未来的な美しい演出の中に溶け込んだ4人。どこまでも鮮やかな光を放つ「NEO UNIVERSE」が描き出す景色の中で、オーディエンスは両手を伸ばし、その光を全身で受け取っているようだった。そんな「NEO UNIVERSE」のアウトロからダークなクラヴ系のサウンドへと繋がれると、テンポをあげていったそのリズムは、「DRINK IT DOWN」のイントロへと繋がれていった。真っ暗に落とされた照明の中、hydeがステージ上で紫色に光るマイクスタンドを回すのが見えた。暗めな照明の中で届けられた「DRINK IT DOWN」は、ディープな音色と迫り来るサウンドでオーディエンスを駆り立てていった。その後も、8本のトーチに囲まれる深淵な世界観の中で届けられた「花葬」の中に沈んだ4人、実に映画的な静かな暗さを宿す「EVERLASTING」の中に佇んだ4人。曲と景色が変わっていく中で全く表情の違うL’ Arc~en~Cielを魅せてくれたのは、とても印象的だった。

「EVERLASTING」から「MY HEART DRAWS A DREAM」へと繋がれるとき、セットのソファーにもたれかかるように座り込み、切なさを含んだ美しいアルペジオ弾いていた自然体なkenの姿も、とても印象深くこの日の記憶の中に残った。オルタナティヴロックやハードロックからの影響を感じさせるkenが奏でる日本人離れした鮮やかな泣きのギターフレーズは、kenにしか描き出せない個性である。
虹色に染まる中、hyde が「ハミングTokyo!」と叫び、客席にハミングが広がった。「MY HEART DRAWS A DREAM」で客席に広がったハミングは、かけがえのない今を脳裏に焼き付けてくれた時間となった。この先、今が過去になるとき、一緒に唄うことができなかった景色の中で、“今できる精一杯”でお互いの存在を感じ合えたことを、いつか懐かしく思い出す日が来ることだろう。
「こんばんはー。お元気? お元気? 代々木、帰って来ました! 帰って来たね。前回のツアーがね、途中で終わっちゃったんで、リベンジですか。帰ってこれてよかったです。2年近く前ですね。僕、2年くらい前に1人で来ましたよ。でも、こうやってみんなが集まってくれるって嬉しいね。ありがとう」(tetsuya)
tetsuyaの言葉から、4人は改めてこのツアーが無事に完走できそうなことを心から喜んでいるのが伝わってきた。tetsuyaは「kenちゃんの昨日のMCがすごすぎて……」と、前日に行われた代々木初日公演でのkenのMC中の発言を掘り下げ、その場をアットホームな空間へと変えた。
「クリスマスっぽい曲、お聴きください」(tetsuya)
と、tetsuyaの曲紹介から始まったのは「Hurry Xmas」。オーディエンスは、バットマラカスライトを赤と緑に変えてクリスマスカラーでフロアを彩った最高の演出を4人に贈ると、yukihiroのハネ感ある軽やかなリズムに体を揺らした。こんなにもクリスマスが似合うバンドは他にいない。4人とオーディエンスは最高のクリスマスを届けてくれた。
ライヴ終盤は、「Driver's High」。ステージが回転し、メンバーはメインステージから伸びた4本の花道に足を運び各方面のオーディエンスを余すことなく楽しませた。
そして、hydeがギターを掻き鳴らしながら歌った「HONEY」では、メインステージで歌うhydeと、花道先端からメインステージに向かって歌うkenが、メイン旋律とコーラスで声を重ね合う最高のフォーメーションを魅せ、メインステージでは、tetsuyaとyukihiroがアイコンタクトを取り合いながら演奏をするという貴重な場面も魅せてくれた。
そしてラストに置かれていた「READY STEADY GO」では、最高のハイライトが仕込まれていたのである。yukihiroが叩き出すリズムが最高に気持ちいいイントロから始まったこの曲で、hydeとtetsuyaが外周ステージに移動すると、高速スピードで外周が回り始め、オーディエンスを喜ばせたのだった。コーラスでは、tetsuyaが自身の前に置かれたカメラに向かってコーラスをすると、ステージ上のLEDヴィジョンにその映像が映し出され、ライヴをより立体的に演出していた。こんな最高のハイライトが本編ラストに隠されていたとは! この構成のセンスの良さに敬服した瞬間でもあった。
アンコールでは、LEDヴィジョンに映し出された大阪の街、そして彼らの結成当初のホームグラウンドであるライヴハウス難波ROCKETSに通う1人の少女が映し出された。少女はステージを照らすようにスマホの光を灯すと、その光は、国立代々木競技場第一体育館の客席の景色へと繋がり、客席はオーディエンスが灯すスマホのライトで埋め尽くされた。満天の星空が広がる中で届けられたのは「ミライ」。メインステージの上で光るミラーボールから放たれる光と客席から放たれるスマホの光は、L’ Arc~en~Cielらしいメロディの運びが美しい「ミライ」を、より感動的に、言葉にできないほどの美しさへと導いてくれた。
「美しいライトをありがとうございました。とても綺麗でした。一つひとつの光に意味があると思っています」(hyde)
hydeは客席を指差し、そこをスタート地点に会場にウェーブを起こそうと、オーディエンスに協力を求めた。その企みは、このウェーブが場内を一周し終えたら、「FOREVER」を聴けるというもの。つまり、ウェーブの成功の瞬間が次に用意されていた「FOREVER」のスタートとなる! というものだった。
1回目のウェーブはリレーションが上手くいかなかったという判断だったとみえ、メンバーが微動だにしなかったことで失敗とみなされ、2回目のチャレンジへ。2回目のチャレンジは見事に成功し、オーディエンスは見事に「FOREVER」を聴ける権利を勝ち取った。詞曲を共に担当したtetsuyaらしい極上のポップチューンの「FOREVER」。オーディエンスは両手を高く上げ、サビを待たずとも、Aメロのメロディの運びがtetsuyaが描くL’ Arc~en~Cielであることが即座に感じ取れるこの曲を全身で求めていたのだった。
最高のライヴナンバーである「Blurry Eyes」「GOOD LUCK MY WAY」と間髪入れずに届けてラストへ繋いだ4人に、オーディエンスは最高の盛り上がりを返した。
「30年もこうやって変わらずライヴをやらせて頂いて、みんなが喜んでくれて、こんなに素敵なことはないですね。こんなに長い30年、未来は想像もしていませんでしたが、これもみんなが作ってくれた未来だなと思っております。コロナ禍で大変な時期ではありましたが、もう少し声を出したりするのに時間もかかりそうですね。みんな今日まで感染対策を頑張ってくれてありがとうね。また次に会えるまで、みんな元気でいて下さい。最後は「あなた」を演奏したいと思います。大合唱はできませんが、ハミングでよろしくお願いします。今日はありがとうございました」(hyde)
ラストに届けられた「あなた」。壮大なイントロから始まったこの曲は、ここに集まることができたという大切さを改めて感じさせてくれた瞬間であり、同じ時代に生まれ、こうして出逢えた奇跡を、改めて必然だったと感じさせてくれた瞬間でもあった。4人とオーディエンスは、それぞれの中に存在する大切な“あなた”と、目の前にいる大切な“あなた”に向けて唄った。そのハミングの中には、それぞれとL’ Arc~en~Cielとの色褪せることのない絆を感じた。
「ありがとう! まった明後日ね~」(tetsuya)
最後にステージに残ったtetsuyaは、25日にまたここで逢える未来への喜びを叫び、ステージから去った。“またね”という次に逢えるためのおまじないは、何が起こるか分からない未来に、いつも希望をくれる。客席に揺れたバットマラカスライトの光と、ミラーボールの光と、最後に空から降った銀色の光(細かい銀テープ)は、30年という歴史の中にまた一つ歴史を残す景色となった。
L’ Arc~en~Cielをこの世に生み出してくれてありがとう。30年続けてきてくれてありがとう。L’ Arc~en~Cielとの出逢いの中で魅せてくれた景色や想い出をありがとう。出逢いという喜びと、別れという悲しみがそれぞれの30年という歴史の中にあるように、L'Arc~en~Cielという音楽もそこに共にあることの素晴らしさを実感できた時間だった。
この先のミライも、ずっと、4人とオーディエンスが作り出す、このかけがえのない景色を見続けていけますように。
取材・文=武市尚子 撮影=石川浩章

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