ねズの番旗揚げ公演『あの川に遠い窓
』青柳尊哉×岡田優×今奈良孝行イン
タビュー/19年ぶりの上演となる戯曲
、その行間に想いを馳せてー

2022年1月28日(金)より下北沢OFF・OFFシアターにて、ねズの番の旗揚げ公演『あの川に遠い窓』が上演される(1月31日まで)。ねズの番は、俳優の青柳尊哉と岡田優が立ち上げた演劇ユニット。14年前にオフィス3○○の『りぼん』での共演を機に出会った二人は、その後劇団ねじリズムにともに所属し劇団員として活躍。退団を経て、それぞれ別の場所でキャリアを積んだ二人が同じ舞台に立つのは9年ぶりとなる。
二人にとって初となる自主企画に選んだ戯曲は、弘前劇場の主宰・長谷川孝治が1997年発表した二人芝居『あの川に遠い窓』。長谷川が演出を手がけ、俳優の村田雄浩と山田辰夫が出演した本作が最後の上演されたのは2003年であり、村田と山田以外での上演は今回が初となる。演出は、俳優としても様々なカンパニーの舞台で活躍する傍ら、自身のユニットSYOMIN`Sを主宰する今奈良孝行が手がける。開幕を控えた稽古後に、青柳と岡田と今奈良に話を聞いた。
左から青柳尊哉、今奈良孝行、岡田優

■過去に所属していた劇団の二人芝居に触発されて…。
――記念すべき旗揚げ公演ですね。まず、ねズの番を立ち上げるにあたり、きっかけとなった出来事などがありましたらお聞かせください。
青柳 自分たちが旗揚げから参加していたねじリズムが2年前に上演した『/(スラッシュ)』という作品がありまして。かつての仲間である石川シンさんと鈴木祥二郎さんが作・出演をして、俳優の高野ゆらこさんが演出をした二人芝居だったんですけど、俺と岡ちゃんは同じ日に観に行っていて。終演後に外で会った岡ちゃんが「青柳さん、二人芝居やりたくないですか?」って(笑)。それが最初だったよね。
岡田 「青柳さんと何かやりたいな」という思いは前々からぼんやりと持っていたました。そんな中で『/(スラッシュ)』でねじリズムの石川さんと鈴木さんが二人きりで舞台に立っているのを見て、素直にいいなと思ったんですよね。作品もとても面白かったですし。その時の気持ちをそのままぶつけてみたという感じでした。
青柳 それこそ最初は『/(スラッシュ)』をやろうかという話も出ていたんですけど、せっかくだから色々な本を見てみようかという流れになり、いくつかの戯曲を取り寄せて一緒に読みました。
岡田 その中で「これがやりたい」と二人の意見が合った戯曲が長谷川孝治さんの『あの川に遠い窓』だったんです。
――二人芝居をやりたいと思ったきっかけが、かつてともに所属をしていたねじリズムだったんですね。「ねズの番」というユニット名もそこに由来があるのでしょうか?
岡田 これには紆余曲折がありまして……。
青柳 ねじリズムは五文字で五人の劇団ということもあって、一人ずつ担当の文字があったんですよ。そもそも担当の文字ってなんのこっちゃって話なんですけど、ホームページのビジュアルも一人ずつその文字の書いたロンTを着ていて。そこでそれぞれが担当していたのが「ね」と「ズ」だったんです。で、「ねズの番」がまず候補にあがって。
岡田 でもある日、担当の文字自体が違ってたことに気づいて……。自分は「ズ」だったんですけど、「ね」を担当していたのは石川さんで、青柳さんは「リ」だったんです。となると、リズの番になってしまうとなって……。
青柳 じゃあ他の候補でいこうかと一時は思ったんですけど、そのエピソード含めて、なんかすごい自分たちっぽいなってなってそのまま決めちゃいました。石川さんには「『ね』の担当って俺じゃない?」ってすぐに指摘されましたけど(笑)。
――そんな経緯があったとは! ねじリズムの作品は何度も観させていただいていますが、『あの川に遠い窓』とは全く印象の異なるお芝居だと感じます。旗揚げの作品として本作を選んだ理由には、どんな経緯があったんでしょうか?
青柳 最初に読んだ時は、正直よく分からなくて。この本の意味と言えばいいのかな、それが初回では掴みきれなかったんです。でも、その掴めなさも含めて魅力に感じて。読み進める度に引き込まれていって、「どうしてこうなっているんだろう?」という部分を立ち上げて探したくなる本だったんです。
岡田 自分は長谷川さんの他の戯曲の舞台を観たことがあって、その時の印象では「自分がこういった本をやる機会はなさそうだな」と思っていたんです。作品がどうこうというよりも、それこそ、自分がこれまでやってきた演劇の色というか畑とは違うものだという感覚で。いわゆる「静かな演劇」にカテゴライズされる会話劇だと思うんですけど、自分はどちらかというとアングラ寄りの作品に出ることが多かったので。
青柳 やったことのない戯曲という印象は同じく持っていました。でも、年齢的にも経験的にも「確立されているものを解釈して育てる」ということをやってみたかったんですよね。若い頃は劇団とか含めてオリジナルにこだわっていたし、ここ数年自分は海外戯曲が続いていたこともあって……。そんな中で、日本の方の戯曲を探す中でしっくりくるものに出会えたという感じでした。
岡田 自分も「できないことをできるようになりたい」って思ったことが一番のきっかけだったように思います。活字を言葉にした時がとても美しい戯曲で、同時にそこに頼ったらいけない作品でもあると感じました。
青柳 登場人物が何を考えてどんな風景を見ているのか。そういうことを考えさせられる戯曲なので、長谷川さんの素敵な言葉に戯れながら、それを自分の体に落としたい、口にしたいという欲求がすごくありますね。発表されてから20年以上経っている演劇史に残るこの本とどう向き合えばいいのか。そういうところを自分たちなりの解釈、描き方で作りたいと思っています。

■行間にこそ解釈を馳せられる、奥深い戯曲の世界
――本作の演出のオファーを受けた今奈良さんが最初の抱いた印象や、演出の構想についてもお聞かせいただけますか?
今奈良 僕も二人と同じく文学的な戯曲だと感じました。「自分には書けないものだなあ」というのが率直な感想でしたね。演出については、自分なりの理想がありまして。脚本や演出、もっと言うと、照明や音響などの効果的なものも含めて、そういったバッググラウンドが最終的には観客に見えなくなるような。そんなものを作りたいと思っていて……。
岡田 自分は過去にも何度か今奈良さんの演出を受けたことがあるんですけど、そういったことはいつも仰っていますよね。
今奈良 厳密にはこだわりもあるし、作品に沿ったものをプランはするんですけど、「役者がただそこにいる場面」に引き込まれていくというか、そういうことがやりたいと思っているんですよね。そういう意味でも、この作品なら文学的なセリフの応酬の中でそんな景色が叶うんじゃないかなと思いました。稽古を見る限り、それに近づいている手応えもあります。
今奈良孝行
青柳 そのためには、本への解釈を共有することが重要になってくるので、日々の稽古の中でも都度すり合わせをしています。隠されていることが多いというか、描かれていないところに自由な発想ができる部分も多い本なので、自分たちなりに思いを馳せたりして。
今奈良 過去公演のDVDも観させていただいたのですが、行間に想像の余地がすごくあると感じましたね。観客の方も各々の感覚で「これはこうなんじゃないか」って考えることを楽しめるとは思うのですが、自分たちの解釈の強度は上げておきたいというか、その先に想像という余白があるのかなと思っています。そこが伝わるようにできたらとは思っているんですけど。
――青柳さんと今奈良さんは、今作で初めて一緒に作品を作ることになったんですよね?
今奈良 そうですね。でも、僕は『ウルトラマンオーブ』を毎週見ていたので、青柳さん演じるジャグラスジャグラーには毎週会ってました(笑)。子どもも好きでね。最初は「なんだ、この変なキャラのやつは!」とか思っていたんですよ。ところが、見ていくうちにどんどん引き込まれて、むしろ大人の方がクセになっちゃってね。嫁さんも一緒に見てたんですけど、僕が見れなかった回にはジャグラーがその日どんなことやってたかを報告をしてくれたり。そんなこんな我が家で旬の人だったんですよ。でも、実際会ったら全然あんなキャラじゃなくて……。
青柳 そりゃそうでしょう!
今奈良 いやあ、あれは残念だったね(笑)。
青柳 すみません、期待に添えず! でも、それで言ったら、俺も今奈良さんの印象にはギャップがありましたよ。写真を見る限り、今奈良さんって怖い人だと思っていたので。俳優として多方面で活躍され、かつ演出もされているというアグレッシブさも含めて。「俺、怖い人苦手だしな、どうしよう……」と思っていたら、顔が怖いだけで、ただただ優しい方でした(笑)。

■通し稽古を重ねること、作品を俯瞰で見つめること
――実際に稽古が始まり、今奈良さんの演出を受けてみていかがでしたか?
青柳 今奈良さんはとにかく通し稽古を大事にする方。稽古序盤から半分通しをやるのはすごく新鮮でした。ある一定のシーンまで行ったら、「ここからは成りで」って仰るんですよ。成り行きの「成り」ですね。演出でそんな言葉を言われたことってこれまでなかったんですけど、とても自由にやらせてもらえているので楽しいです。自由がある分、自分たちが取らなくてはならない責任や担保しなきゃいけない見応えがあるので、今はただ打率を高めたい。まだまだ安定しない二人なので。
今奈良 元々はPATHOS PACKなどの劇団で外部演出をやらせていただいた時に素人の方がたくさんいらっしゃったので、とにかく場数を増やしたかったんです。「演出」というより「作戦」に近い感覚でしょうか。本番だと思ってやれる回数を増やした時に、あまり上手にはいかなかったとしても、「居れる」ようにはなるんですよね。それが各々の自信にもつながって。「このセリフでこの人は活きるんだなあ」とか、そういうことを俯瞰に発見もできるし、助け合えることがみんなの中にも共有されていく。
岡田 稽古3日目でざっくりではありますが、後半までできていて。とにかく形にしていくのが早いんですよね。旗揚げでやること尽くしで不安も多い自分たちにとっては、今奈良さんの稽古の進め方はとても頼もしいものでした。でも、付き合いの長い自分はその早さの本当の理由を実は知ってて……。シンプルに「早くお酒が飲みたい」とかだったりするんです(笑)。もちろん、今はこういう時期なのでみんなで飲んだりはしないですけど。でも、自分もどちらかというとそんなタイプなので、妙なシンパシーを感じたり……。
今奈良 あははは。でも、演劇って絶対後半にかけてやるべきことが増えてくるじゃないですか。そこで余裕を持った状態にしておきいたいという気持ちもあります。その分、どうしても前半はスパルタになるんですけど。理想は、初日が地方公演みたいなノリですね(笑)。やってやってやり尽くして、「この後何食べよう?」って思えるくらいにその場の空気を自分のものにして、舞台上で楽しめるようにしておきたいんです。
岡田 本作でいこうとなった時に、真っ先に今奈良さんの顔が浮かびました。こういった本とかけ離れたところにいらっしゃる、畑の違う場で活躍されてきた今奈良さんがこの本を演出したらどうなるだろう?っていう。そういう楽しみもありました。
――今奈良さんから見たお二人はどんな俳優でしょうか? 魅力や強みなど稽古で感じていることをお聞かせください。
今奈良 青柳くんはしゃべってない時でもとにかくパワーがある。ちょこっと一言言っただけでその場の空気を変えたり。あと、意外と優しくて。結構バリバリいくのかと思いきや、相手がセリフが出なくてもうまく回したりね。そういう大きさや優しさも感じます。
青柳 なんか、恥ずかしいですね。ありがとうございます。
青柳尊哉
今奈良 岡田くんは、そうだなあ、二十歳そこそこの東京に出てきたばかりの頃から知ってるからね。ほら、だって最初、稽古場に住もうとしてたでしょ? 家なくて、行くところなくていろんな人のところを転々としてて。
岡田 いや、別に住もうとは……。
今奈良 いやいや、とにかくそんな記憶があるからさ、どうしても半ば親戚みたいな気持ちがあるんですよね。結婚して何年もしてから、結婚して子どももいるんです、って突然言い出したりね。全然意味わかんない。
岡田 あの、岡田の、その俳優としての魅力は……。
今奈良 あ、そっか。そういう質問か。
青柳 岡ちゃんはそういう役回りだよね。こういった質問がパンフレットの座談会でも何回かあって。ゲストを招いてお話するっていうもので、みなさんにも岡ちゃんの印象を聞いたんですけど。まあ、プライベートが色々突飛で個性的すぎるから、みんな先にそれを言ってなかなか芝居について言及されないっていう。
岡田優
岡田 そうですよ。ジャージがボロボロとか、ボソボソ喋るとか、稽古場に住もうとしてたとか……。みんなそこで終わっちゃう。
今奈良 あはははは! でも、信用は一番してますよ。頼っていることは本当に多いので。だからこそ、何にも言わないことの方が多いのかもね。あ、でも長い付き合いだけれども、今回の稽古で新鮮な発見もありましたね。セリフ量が多いこともあって、岡田がテンパってる様子を初めて見るっていうね。そういう姿を今まで見たことなかったからちょっと面白い。
青柳 何かを生み出そうしているのか、突然雄叫びあげたりしてるもんね。俺も、ああいう岡ちゃん初めて見たわ。

■9年ぶりの共演と初の自主企画、互いの芝居に感じること
――お二人は9年ぶりの共演ということですが、稽古の中で互いのお芝居に抱いている印象はどういうものなのでしょうか?
青柳 同じ劇団にはいたけど、岡ちゃんとこうやってがっつりセリフを交わすって実は初めてなんですよ。これまでは絡むシーンも少なかったからね。でも、岡ちゃんがどういう人間かってことは、曲がりなりにも付き合いが長いから知ってる。岡ちゃんは、芝居の中でも自分事として話すことができる人。だから、それに立ち向かう勇気を自分も持っていたいなと思っています。すごく素直な気持ちで稽古をやれているので、寄り添いつつ、互いを戦わせていけたらなって。
岡田 ねじリズムでやってた時は、自信ありそうなのに、どこか自信がなさそうにお芝居してるなって印象が青柳さんに対してはあって……。でも、今はそういうことを全く感じないです。芝居の中でも、そうだな、自分事にして話してるというか。
青柳 ちょ、さらっとパクった? そここそ自分事で喋ってほしいんだけど!
岡田 あ、そっか、すみません。そうですね、青柳さんは……自信が出てきたんだなあって思いました。
青柳 偉そうか!
岡田 いや、でも元々の言い出しっぺは自分なので。「青柳さんとやりたい」って言ったのは。そういうことです。
青柳 そうだよ。岡ちゃんが言い出さなかったらやらないよ、こんな大変なこと。
――最後に、これからの稽古でどういうことを高めていきたいか、どんな作品に仕上げていきたいか。そんな意気込みをお聞かせください。
青柳 「この本は、一体何の話なんだろう?」ってずっと考えているんですよ。行き場や自分を見失った人の話なのかなと思ったこともあったけど、最近は、「人を愛した人の話」なんじゃないかなと思い始めていて……。今を生きる人にもそれぞれに愛し方や寂しさみたいなのがあると思うので、ふっと寄り添える言葉たちが、目の前の人間に自分を投影させるような瞬間がたくさん生まれる作品にできたらと。そういう時間を一緒に体験していただけたらと思っています。
今奈良 ほとんどのシーンに二人が出てきますし、人物も物語も常に動いている。その生身のやりとりは、映画やテレビ、動画では味わえないものにはなっていると思います。人と人の間に生まれる瞬間や、そのひりついた温度というか。そういうものが感じられる作品にしたいですね。あとちょっとのシーンを作れれば、最初から最後まで息を呑む、ジェットコースターのように進められるお芝居になると思います。
岡田 「ええ」とか「はい」とかの極めて短いセンテンスの中にもいろんなものが詰まっている作品です。瞬間にある気持ちの変化や落差が感じられて、その瞬間を俳優が逃してしまうと取り返しがきかないという怖さもあります。それは同時に大きなやりがいでもあって。今奈良さんが細やかなところにガイドをくれているので、逃さないように精度を高めていきたい。まだまだ変わっていくと思うので、自分自身も楽しみです。劇場でみなさんに満足していただけるものをお見せできるよう頑張ります。
【ねズの番 Profile】
俳優の青柳尊哉と岡田優の二人ユニット。2007年、青柳・岡田ともにろくに舞台経験もない駆け出しの頃、ある舞台での共演を機に出会う。経験の無さからくる、尖りと混沌と混乱と狂熱故、当時は互いに互いを寄せ付けず、挨拶さえもままならなかった。その後、奇しくも再度舞台で共演するも、一度開いた心と心のディスタンスは閉じることもなく、肩が触れても視線を落とすのみ、砕け散るのは波の音のみ、という心持ちであった。しかしその後なんの因果か、俳優の石川シン、鈴木祥二郎両名が主宰する劇団『ねじリズム』のメンバーとして共に旗揚げから参加。同じ窯の飯を食い、目を合わせることも吝かではない二人となる。共通項は演劇への果てしない片想いのみ。そんな二人の、あしたは、どっちだ。
写真/吉松伸太郎
取材・文/丘田ミイ子

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