MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』
第三十一回目のゲストは松居大悟 結
果だと思ったものが、気づけば伏線に
なってる

MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』第三十一回目のゲストは、映画監督であり劇団ゴジゲンの主宰を務め、その全ての作・演出を手がける松居大悟。アフロにとっては長年の盟友であり、2016年に制作したMOROHAのMV「tomorrow」や、2018年に公開した映画『アイスと雨音』でも共に仕事をした良き理解者でもある。偶然にもMOROHAの武道館公演『単独』と、松居の監督した映画『ちょっと思い出しただけ』の公開日が同じ2月11日(金・祝)ということで、今回の対談が実現した。変わっていくお互いのステージについてや、表現の変化についてなど、今だから話せる「これまで」と「これから」について言葉を交わし合った。
MOROHAアフロの逢いたい、相対
●観客をクロスオーバーさせる鍵は「いつもより前に出ること」●
松居大悟(以下、松居):映画『ちょっと思い出しただけ』の公開とMOROHAの武道館に合わせて、今回の対談を設けてくれたのは分かるけど、それにしても俺に声をかけるの遅くない? 池松(壮亮)くんくらいのタイミングで一度呼んでもらって良かったのに。
アフロ:ハハハ。自分に近しい人を頻繁に呼んじゃうと、新鮮味に欠けるというか。池松くんと対談した4年前は、色んな媒体で一緒に話してる様子が出ていたじゃん。それは既視感があるし、他所と同じ話をしちゃったら面白くないだろうなと。だから俺らの武道館と松居さんの映画公開が同日というのは、良いキッカケだったよ。あと呼ぶのが遅くなったのは、もう1つ理由があって。この対談で初めましての人もいるわけよ。
松居:伊集院光さんとかすごいよね。記事もめちゃくちゃ面白かったし。
アフロ:伊集院さんは優しくて、引き出しもすごかった。話を聞くプロでもあるから、俺がなんてことない話をしていても「今、自分は面白いことを喋れている」と思わせてくれた。そんな和やかな回がある一方で、肌が切れそうな緊張感に包まれるゲストの回もあって。それも素晴らしいんだけど、その流れが続き過ぎた時に顔馴染みの人が登場してくれると、一度心がほぐれるというか。
松居:気心知れたゲストは温存しているんだ。
アフロ:あと日頃会っている人たちは、プライベートでいっぱい話しちゃってるし、普段の会話が土台にあった上で対談すると、読む人を置き去りにしちゃう可能性もある。だから新しい作品が出るとか、お互いの人生が動き出すタイミングで、ゲストに来てもらうのが良いのかなと。
松居:うんうん、なるほどね。
MOROHAアフロの逢いたい、相対
アフロ:最近会ってなかったけど、いつぶり?
松居:『BRUTUS』(※ブルータス No. 943『人間関係 658』)で会ったのが最後だね。アレが去年の6月くらい。
アフロ:その前も頻繁に会っていたわけじゃないから、すごい久しぶりな感じがするな。忙しくしてた?
松居:世の中的には「静かにしましょう」というムードだったけど、俺は逆に忙しくなっていて。大規模の現場は止まっていたり、そこで関係者が感染して撮影が中断することも多かった中、オリジナルとかミニシアターとかで作っている人たちは動くしかなかった。それもあって小忙しい感じが、1年半くらいずっと続いてるかな。
アフロ:それは音楽業界も一緒かも。配信とか映像が得意な人は今生き生きしていて、逆にライブバンドとかは苦しいだろうなと思う。
松居:そうだよね。映像と言えば、ゴジゲンがYouTubeを始めたのよ。演劇はこれまで劇場に足を運んでもらってお金を払ってもらってたから、YouTubeとは一番遠い気がしていたけど、やってみようと思って。
アフロ:パンドラの箱みたいな気持ちがあった?
松居:あったあった。そっちに行くと観る意識が真逆だから演劇の人たちが引くんじゃないか? と思ってた。足を運んでお金を払って、その瞬間にしか観れないものを観て、終わったら全てバラされて一生観れなくなるという演劇とは、感覚がかけ離れている気がして。
アフロ:それを自分達も極端に信仰していた時期もあっただろうしね。
松居:だからこそ演劇系のYouTubeは全然ないのよ。いざ始めてみたものの、そこまで広まらないし、普段から演劇を観ているお客さんが劇団のYouTubeを観る流れはない。そんな中でも良かったのは、劇団員と話す機会が増えたこと。それが俺の中では一番の救いでさ。昔よりもみんなと喋ってるもん。劇団が回り出した感じがあるし「YouTubeでこれをやらないか?」みたいな話がメンバー内で積極的に上がってきたりして、それが嬉しい。
アフロ:俺はその頃『ヒプノシスマイク』の仕事をしたんだけど、言ったらコアなヒップホップ好きからすれば、「アニメ✕ラップ」は眉唾ものだったりすると思うんだよ。アニソン系のミュージシャンは絶対呼ばれないフェスとかもあるし。そのブランドづくりはビジネス的には理解できるけど、自分の感覚が完全にそこに染まるのは違うよなと思って。俺は幅広い人間に出会いたいと思ったから、仕事を受けようと決めた。
松居:俺は映画を作ったりとか、この間はスピッツの映像を撮ったりしてたんだけど、うまくそこから広げられなくて。例えば『Birdland』という大きな規模の舞台もやったけど、そこに来たお客さんがゴジゲンにも興味を持ってくれるかと言ったら、そうじゃなくて。
アフロ:クロスオーバーしないということだよね。
松居:そうそう。どっちも観れば良いのにと思うんだけど、なかなか難しいんだよな。
アフロ:いつも以上に前へ出ることなのかな。例えば『ヒプノシスマイク』で俺は出役じゃないから、一歩引かなきゃいけないと思ったりもしたんだけど、いや待てと。そんなことを言ってたら、彼らのファンは俺に興味を持たないわけで。こっちはこっちでしのいでいかなきゃいけないから、めっちゃアピールした。自分がラップできない分、歌詞の意図やコンテンツへの想いを語ったり。厚かましいくらい前に行かないとダメじゃないかなと思ってた。自分目当てじゃないお客の視界に、無理矢理にでも映り込んでいくというか。
松居:少しでも自分の顔を感じたら、「この人のやってる舞台も観てみよう」と誘導できるわけか。
アフロ:とはいえ相当厳しいよね。この前、SixTONESの髙地優吾くんがラジオでMOROHAの曲をかけてくれてたの。Twitter上ですごい盛り上がったんだけど、その子たちが俺らのライブに来るか、というのはわからんよ。その時間さえ血眼でSixTONESを追いかけたいと思ってる人が多いはずだから。視界一点集中というか。
松居:サブスクで聴くまでかもね。
アフロ:でもさ、それも良いと思わない? 自分の活動に繋げたいと思うのはビジネスの話であって、その瞬間だけでも自分が作ったものと向き合ってくれる人がいる。そこで完結も良いんじゃないかなと思う。
クリープハイプの楽曲から始まった、映画『ちょっと思い出しただけ』●
MOROHAアフロの逢いたい、相対
アフロ:いよいよ『ちょっと思い出しただけ』が2月11日(金)から全国ロードショーでしょ?
松居:うん。このまま無事に上映まで行ってほしいと思いつつ、コロナが広まっているのは心配だね。
アフロ:先にチケットを買ってくれた人がいて、払い戻しをするかどうかの問題もあるしね。払い戻しと言えば、劇中で尾崎(世界観)さんのセリフにもあったね。
松居:あのセリフは、実際に尾崎くんが抱えていた言葉で。 2年前、クリープハイプにとって史上最大規模のライブがあったんだけど、それがコロナでキャンセルになって。キャンセルになったその日、「今頃ライブをしていたんだろうな」と考えていたら、サビが浮かんできてバーっと作ったのが主題歌の「ナイトオンザプラネット」。尾崎くんから楽曲が送られてきて「この曲を元にラブストーリー物を作ろう」と思ったのが、この映画の始まり。
アフロ:曲が先にあったんだ。
松居:うん。何ならその前にライブが中止になるかどうかの瀬戸際で尾崎くんから「松居くんさ、このライブが中止になったらグッズも作っちゃってるし、マジで事務所が危ないから、メイキングを撮ってくれないか?」「これでダメになるならダメになるで、それを見届けてほしい」と言われたの。ただ、その時は映画『くれなずめ』の撮影があったから、どうしても行けなかった。そんな後に曲が生まれたから、今回の作品はコロナによって生まれた映画ではある。
アフロ:曲を聴いて台本を書き始めたと言ったけど、MVを作ってきた経験が活きてるの?
松居:そう思う。これまでは「こういうことをやりたい」とアイデアが2、3個浮かんで、そこから話を組み立てたりしたけど、「ナイトオンザプラネット」を聴いた時は、全く画が浮かばなかったの。良い曲なのにどうしてだろう? と考えた結果、これはMVでもなければ短編映画でもなくて、2人のラブストーリーがある上で、最後に流れる歌にしたいんだと思った。画が浮かばないからこそ、曲を聴いた時に浮かんだ感覚を手繰り寄せながら物語を描いた。
MOROHAアフロの逢いたい、相対
アフロ:映画を観させてもらったんだけど、まずは一番しょうもないことを言っていい? 5本指ソックスを履いてる女の子は可愛いよね。
松居:あー、劇中の伊藤沙莉さんね!
アフロ:あれは松居さんが指示したの?
松居:何足か用意してもらって、最終的に伊藤さんが「これが良い」と選んだ。でも、その靴下を俺も選んで欲しいと思っていたんだよ。
アフロ:そうなんだ! 巡り巡るけど、「結局は伊藤沙莉だぜ!」と思うよね。ただ綺麗という訳じゃなくて、じんわりとかわいいというか。湧き上がる愛おしさというか。なんか故郷みたいに思っちゃう。5本指ソックスにメッセージを感じたんだよね。あれは足の蒸れ対策だったりするでしょ? そういうことを思いながら買ったんだなと想像させてくれるところにグッときた。
松居:生活が見えるよね。アフロの言う通り、足元周りは相当気を遣った。伊藤さん演じる葉はタクシー運転手だから、仕事も休む場所も同じ車の中。せめて休憩の時は靴を履き替えたいはずだし、革靴からスリッパに替わるなら、靴下は重要だなと。だから、足元は気を遣ったんだ。
アフロ:ちなみに靴下の候補には、普通のソックスもあったの?
松居:うん、あったよ。
アフロ:そこで5本指を選ぶあたり、伊藤さんは自分のことを客観視できているんだろうね。前に松居さんが「MVを撮る時は、1つの場面がパッと浮かんで「これを撮りたい」という1点から物語を広げていく」と話してくれたの覚えてる? 今回もそうじゃないかなと思って。ここじゃないか? と思うシーンが2つあるんだ。
松居:お、言ってみて。
アフロ:1つ目は、佐伯照生(池松壮亮)と葉が水族館でイチャコラしながら、白熊の前で「シー」とする場面。もう1つは生クリームを顔につけて舐め合うところ。
松居:んー、両方違うかな。……違うというか、それは枝葉の部分であって、確かにめちゃくちゃこだわったところだけど根本じゃない。もっと何でもないシーンだね。照明スタッフの佐伯照生が一生懸命、後輩に照明を当てている場面とか。葉が劇場の入り口から、踊っている彼を見る場面とか。何気ない日々をこだわりたいと思っている中に水族館とかがあって。クリーム舐めるところなんかは、めちゃくちゃこだわった。
●「自分がこの映画のどこかにいるような気がする」と思える親近感●
MOROHAアフロの逢いたい、相対
アフロ:なんかね、映画を観ていて松居さんが童貞に戻った気がした。一時から、松居さんは(監督として)童貞じゃなくなったじゃん。それが今作になってさ……。
松居:「童貞2」みたいな感じ?
アフロ:ハハハ、そう。今、童貞じゃなくて「童貞時期はこうだったな」という感じがした。伊藤さん演じる葉はなんか皆んなの元カノという感じがする。そう思わせてくれる空気があるよ。
松居:そういう雰囲気があるよね。
アフロ:俺もあんな感じの子と高円寺歩いた気がするもん。歩いてないのに!
松居:話していて楽しい感じとか、「俺もあったような気がするな」と思わせる人はすごいよね。
アフロ:「いた気がする」というのは特殊能力かもしれない。
松居:この日本では、思い出す系の恋愛映画がすごく多かった。だけど遠くに感じる話が多くて「俺にもあったな、こういうの」とはならなかったんだよね。自分がやるなら親近感がテーマだと思って、池松くんと伊藤さんには「自分がこの映画のどこかにいるような気がする」と思えるように意識してもらった。
アフロ:池松くんが後輩を照らす場面の話だけど、まず「後輩を照らす」という一文が相当ショッキングなフレーズだよね。それは、30代中盤になった自分の心情と重なるところはある?
松居:どうだろう? 舞台『みみばしる』をやった時に、ずっと照明卓からステージを観ていたのね。俺の隣にピンスポをやっている人がいて、ずっと役者の芝居を追いかけているんだよ。その様子を毎日見ていたら「こういう人の物語を作りたい」と思った。元々は光に照らされていた人が照らす側に回って、後輩に光を当てる流れがすごくグッとくるなと。かといって、今自分が後輩をフックアップしてる意識は別にないし、負けないようと思っているけど……もしかしたら深層心理であるのかもしれないね。
アフロ:『みみばしる』の舞台を観に行って、俺がすっげー失礼なこと言ったよね。
松居:それが良かったけどね。
アフロ:松居さんが俺に向かって球を投げてこなくなった気がした。それで童貞じゃなくなった気がしたのよ。でも最近、ずっと好きだった友達のバンドの新しいアルバムもあまり刺さらなかったりするの。でもそれも「そりゃ俺に向かって投げ続けてもしょうがないよな、別の世界へ挑んでるんだな」と思えるからそれはそれで良くて、友人として逞しく思う。だから自分が好きだったアーティストがグッとこなくなるということは、友達としてはすごく素敵なことだと思う。
松居:逆に、同じことを言われたらどうなの?
アフロ:すっげー嫌だよ!
松居:ハハハ! なんだよ。
アフロ:申し訳ないと思う! 自分が言われて嫌なことを、松居さんのキャラクターに甘えて言ってるから。ただ、大前提として次の舞台も観に行くから言えたよね。「今回は俺の中で違ったよ」と言っても、次の舞台を観に行ったらまた新しい感想が必ずあるわけだから。
松居:そうだね。ヨーロッパ企画の上田誠さんは俺の師匠なんだけど、「今回は自分の中ではもっと欲しかったです」とか言えるのよ。変に気を遣わなくて良いし、許してくれるのも分かってる。その一言で心が離れると思っていないから。それは嬉しい関係性だよね。
アフロ:そういえば川名(幸宏)さん、すごいね。本多劇場!(※映画『アイスと雨音』の演出助手を務めた川名が、演・作を務める東京夜光『悪魔と永遠』が演劇の聖地・本多劇場で上演中)
松居:うんうん。川名くんはゴジゲンより先に、劇団での本多劇場デビューだ。
アフロ:めっちゃ嫉妬するでしょ?
松居:喉元まで言いたくなる気持ちがあったけど、そこはグッと堪えて「おめでとう」と言ったよ。
アフロ:俺と全然違うわ。後輩にスポットライトを当てる話じゃないけどさ、俺は当てちゃったら……という危機感があって。「おめでとう」とは言えない。
●「俺は日本一、一貫性のないラッパーでありたい」●
MOROHAアフロの逢いたい、相対
アフロ:コロナのこともあって「武道館を延期して欲しい」という問い合わせが来る中で、親族からも「こういう状況だから行けない」と連絡が来るのよ。こっちも追い詰められてるから「行けないけど頑張ってね」と後にフォローする言葉があったとしても「行けない」なんて連絡は要らねえよ! と思っちゃったりして。席を用意してる以上、連絡するのは当然だし俺も逆の立場だったらするんだけどね。でも感情的にはそう思っちゃったりして。
松居:気持ちが落ちるからね。
アフロ:もう、俺しょんぼりして眠れなくなってさ。何となくYouTubeを観ていたの。そしたら広告の場面にパッと切り替わって、森田想が寝っ転がりながら友達に「ライブ楽しみだね。明日だよ、どうする?」と言ってるCMが流れたのよ。それを観て、号泣した。
松居:自分に言ってるかのように思ったんだ。
アフロ:そうそう。ライブに行けない人もいるけど、楽しみにしてくれている人もいるんだなと。知ってる人がそんなふうに、テレビの向こう側から伝えてくれることにめちゃくちゃ救われて。この前、映画『孤狼の血』を観ていて田中偉登が出てきた時も、1人でテンション上がったな。2人とも『アイスと雨音』を一緒にやったから、そういう感情になってるわけじゃん。
松居:『アイスと雨音』のメンバーも頑張ってるよね。考えてみれば5年も経つのか……。今『アイスと雨音』を作れるかと言ったら、作れる気がしないな。あの時は1ヵ月後に公演を予定していた舞台が突如なくなり、カーっとなってさ。アフロが「怒りは半年経ったら忘れちゃうから、その感情を大切にした方がいいよ」と言ってくれて、その勢いで作ったんだよね。2週間くらいで台本を仕上げて、2週間くらいでリハをしてワンカットで撮った。だけど公開後に、中指を立てた人たちに対して申し訳ない気持ちになって。
アフロ:しょうがないよ。だって、その時は上演できなくてムカついていたんだから。そんなことばっかりだよね。対人じゃなくても、物事に対して絶対にこうだ! と思って歌っていたら、気持ちが変わって違う側の感情になったりする。でも、その時はそっち側の歌を作ればいい。MOROHAは曲によってメッセージが全然違うけど、俺は日本一、一貫性のないラッパーでありたいと思う。
松居:「俺の方がヤバイ」と思っていても思っていなくても、その時々のアプローチがあるもんね。
アフロ:本当に自分がヤバイと思える日もあるよ。だけど、思えない日に叫ぶ「俺のがヤバイ」が一番良かったりするのよ。
松居:わかるわかる。ちょっと矛盾してる感じがね。
アフロ:そもそも本当に思ってる奴は、「俺の方がヤバイ」とは歌わない。だから俺が一番ヤバイと思ってる状態の「俺のがヤバイ」って、ちょっと高圧的で嫌な感じが出ちゃってるかもしれない。
松居:祈りになってないんだね。
アフロ:でも、曲を書く時は願いを込めているわけで。そこで後先考えて、ゆくゆく気持ちが変わるかもしれないからと思って書くのを辞めちゃったら、それこそ最後だよね。そう言えば、ゴジゲンの舞台も控えているらしいじゃん。
松居:4月~5月で東京、京都、北九州でやる。
アフロ:言える範囲の話はないの?
松居:帰り道の話を描こうと思ってる。去年までは圧倒的に明るい劇を作ろうとか、楽しい作品を作ろうと思っていたけど、コロナから2年も経つと「この状況は続くな」と思って。そしたら何気ない日々が愛おしい系の作品を自分が観たいと思うから、そっちの思考になってきてるかな。
アフロ:何気ないのは良いよね。5本指ソックスもそうだし。
松居:何気ないところを抱きしめたい気持ちになってるね。
●「六文銭」を初めて聴いた時、解散するのかと思った●
MOROHAアフロの逢いたい、相対
松居:俺も1つ聞きたかったのが「六文銭」のことなんだよ。初めて聴いた時、MOROHAは解散するのかなと思った。それくらい全部が詰まってるじゃん。
アフロ:「六文銭」を作って、ようやく文銭シリーズの呪縛から抜けられるなという思いもある。そもそも武道館のタイミングで「六文銭」を作ろうとは思っていたの。21、22歳で「二文銭」を作った時からずっと。
松居:「二文銭」の時から、武道館で「六文銭」を作ると分かっていたの?
アフロ:どこまで本気で叶うと思ってたかはわからないけどね。「二文銭」から作っていって、どこかのタイミングで音楽を始める時のこと、スタート地点の「一文銭」を作ろうと思っていたの。『スターウォーズ』みたいに。だから二、三、四、一、五の流れがあって、今回は六だから、ようやく文銭シリーズは終わり。真田の家紋の六文銭からきてるからね。「六文銭」は感謝を捧げている曲だけどさ、他の楽曲には憎しみで溢れてるリリックもある。それが同じセットリストに入ってるわけじゃん。その不安定さがライブの醍醐味だったりするよね。
松居:MOROHAは特にそうじゃない? 振り幅があるよね。
アフロ:だけど今は書くことが思いつかないんだ。UKが良いリフを作ってくれたんだけど、なかなか歌詞が書けない。それで松居さんに「ご飯へ行こう」と誘ったんだけど、タイミングが合わなくてね。
松居:ニューヨークの屋敷(裕政)も呼んで一緒にご飯へ行こうと言ったんだよね。だけど今は屋敷が忙しくて。
●「不思議なんだけど、池松壮亮くんは何もしなくても映画になる」●
MOROHAアフロの逢いたい、相対
アフロ:『ちょっと思い出しただけ』の屋敷さんも良かったね。
松居:当て書きだからね。
アフロ:成田凌くんは表情豊かだね。
松居:成田くんは未だに不思議なんだよね。何を考えて芝居をしてるのか全く掴めないからすごい面白い。
アフロ:池松くんは掴めてるの?
松居:池松くんは分かる。アプローチが違うけど、感情が見えるから。成田くんはゴジゲンの目次(立樹)に近いというか。どう考えて、何を食って、あの芝居に行き着くんだろう? だけど見ていると筋が通ってる気がする。アーティストで言ったら、小山田壮平くんもそう。どう歌ってるのか分からないけどおもしろい。
アフロ:それで言うとさ、集中についての話を本で読んだんだけど、集中とは現象になることらしいんだよ。「走ってる人」じゃなくて「走るになる」。つまり集中とはゾーンに入るということなんだ。小山田さんは歌っているんじゃなくて、ライブの瞬間は小山田さん自身が歌になってる気がしない?
松居:なるほど、歌そのものなんだ。
アフロ:そう。俺も普段はラップをしてる人だけど、本当に集中してる時はその現象になれている気がするんだよね。
松居:ラップそのものみたいな。それはすごい話だ。
アフロ:映画の話に戻るけど、今回の池松くんはたくさんの刀を差してる感じがしたな。20本くらいあるけど2本くらいしか抜かないみたいな。じゃあ2本で良いじゃんと思うんだけど、残り18本を差しているのが何となく伝わってくるの。2本だけ差して使うのと、20本差していて2本しか使わないのじゃ、こんなに違うんだなという感じがした。
松居:それはどうして?
アフロ:映画の『宮本から君へ』も『君が君で君だ』も感情も肉体的にも振れ幅がすごいじゃん。それに比べたら、今回は機微を感じたというか。それが大きいかもしれない。「どこかで会ったことありますか?」というシーンがあったけど、あの時の表情が20本の刀の裏付けがあっての2本に見えたの。
松居:いくらでも抜けるけど、2本の刀だけを抜いた。
アフロ:そういう印象だった。ダンサーの役だから、とことんダンスの練習もしたでしょ? 「すごい練習をして、ダンサーになったんだな」と。踊っていなくても肌の質感とか髪質からも「この人はダンサーなんだ」と思わせるから、やっぱり池松くんはすごいね。
松居:物語にすごい起伏があるわけじゃなくて、本当にただただ1日を繰り返す話だから、何気ないシーンが続いていく。だからこそ、ストーリーでお客さんを持たせることは無理だなという話をした時に、池松くんが「密度を上げるしかないですね」と言っていて。最初はどういうことだろうと思ったけど、アフロの言った通り何気ない瞬間の情報量を多くするということかもしれない。
アフロ:池松くんと演技をしたら、伊集院さんと話した時のような感覚になるのかなと思う。何を投げても鮮やかに返ってくるから、自分が上手くなったように感じるんだろうな。
松居:すごい不思議なんだけど、池松くんは何もしなくても映画になるんだよね。本当に不思議で。演出部の人がスタンドインしても普通の景色のままだけど、池松くんがカメラの前に立つと映画になる。これは何だろうな? さっき言ったゾーンのように、池松くん自身が映画をまとっている。芝居をする前から、もう映画になってる感じがする。
アフロ:自分も役者をやるじゃん? そこはどうなの?
松居:俺は、ごちゃごちゃ考えるんだよね。「この台本はこう見せたいのかな」とか監督の意図を探りながら、一生懸命相手の目指したいものをアウトプットしようとする。だけど、そういうことじゃないんだろうな。もっと次元が違うところで、映画俳優の人はやってるのかもしれない。その場でどうこうじゃないんだよね。それまでどう生きてきたかというような。
●武道館公演も特別視せず、「伏線にする為にこそ結果出す」●
MOROHAアフロの逢いたい、相対
アフロ:映画にしても舞台にしても「これを作りたい」という感情だけでやれてる?
松居:作品を作りたいのと、劇団を続けるためだね。まだ作れてないことが沢山あるし、ゴジゲンは続けたいから劇場の規模より作品の密度で考えてる。無理をしたらどこかでガタがくるから。アフロはどう?
アフロ:俺は、音楽をやる人間としていいものを作りたい欲もあるんだけど、言葉にしたらカッコ良くない欲望も沢山持っていて。その両方を自分のガソリンにしてきたんだけど、これからは新しいものも入れないと、このまま続けていくのは難しいかな。
松居:みんなゴールに向かって続けていくわけだけど、例えば「武道館がずっと目指していた場所だ」と煽って言ったら、結局その後がしんどくなるよね。やっている表現を物語化すると、どこかでガタがくる。割とそこは煽らずに、むしろ人生を続けていく思考にした方がやっていける。
アフロ:毎回ちゃんとやってきたから、今回の武道館が特別だと言ってしまったら今まで自分達が立ってきたライブは何だったんだと思うんだ。
松居:その先に決まってるライブも否定したくないしね。
アフロ:だからステージという場所に対して敬意を持って臨むのは、その日もその後も、その前もずっと変わらない。武道館だから来てくれる人もいると思うんだけど、あんまり特別な気持ちで来て欲しくない心境もあるの。普通に、その辺の路上で歌ってる人と同じように聴いて、良かったらそう言ってくれればいいし、良くなかったら悪く言ってくれていい。武道館でやったから良かったというのはやめてほしい。とは言いつつ、舞い上がっている部分もあって。もしかしたら舞い上がったライブをしちゃうかもなと思ったりもするんだけど、振り返ってみれば結果だと思っていたものが、伏線だったんだと思うことの連続じゃない。現に『アイスと雨音』が結果だと思っていたけど、今ではコロナ禍で落ち込んでいる俺を想が励ます為の伏線だったわけじゃん。最早『アイスと雨音』の時よりも、今CMに出ている森田想の方が俺にとってはミューズなんだよ。
松居:俺だって映画の後に舞台をやったしね。
アフロ:そうそう。公演中止が伏線になり『アイスと雨音』が生まれて、それがまた伏線になってまた次に続くわけじゃん。俺も一緒。あれが結果だと思ったものが、気づけば伏線になってる。それがすごく良いなと思う。
松居:だから武道館でライブをするのも、結果はそこでやるけど、次への伏線になってる。
アフロ:伏線にする為にこそ結果出す、みたいなね。コロナでライブに来れない人がいる中で、その人たちの存在も太い伏線にしたいなと思うよ。
MOROHAアフロの逢いたい、相対
文=真貝聡 撮影=横井明彦

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