名古屋を拠点に活動する〈廃墟文藝部
〉が2年半ぶりに新作長編を発表、第
7回本公演『残火』をまもなく上演

今年2022年7月で創立10周年を迎える名古屋の劇団〈廃墟文藝部〉が、第7回本公演『残火』を、5月20日(金)~22日(日)の3日間に渡って「愛知県芸術劇場 小ホール」で上演する。
〈廃墟文藝部〉では劇作家・演出家の斜田章大が座付き作家を務め、2012年7月の旗揚げ以来、全作品の脚本と演出を担当している。一人称小説のような「誰かの視点から見た世界」を表現することをモットーとした作品づくりを行い、音楽や映像も劇団内で創作するなど、異なる分野のクリエイターが相互に影響を与え合いながら常に新しい表現を追求し、独自の世界観の構築を目指し続けている。
今回の作品『残火』は、平成元年生まれの斜田章大が、自分なりの“平成史”を描くべく挑んだ作品だという。平成7年1月17日に発生した「阪神・淡路大震災」など平成期の大きな出来事を軸に、「人」と「生活」に焦点を当てて描いたというこの作品は当初、2021年9月に上演予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大状況を鑑みて延期となっていたものだ。幸い当初のキャスティングのまま上演できそうだという本作はどのような作品なのか、脚本と演出を担当する斜田章大に話を聞いた。
廃墟文藝部『残火』チラシ表

── 初めてお話を伺うので根本的なことから伺いたいのですが、斜田さんが演劇を始められたきっかけは何だったのでしょうか?
私の場合は高校演劇からやっておりまして、本格的に始めたのは大学に入学した後に「劇団バッカスの水族館」(名古屋大学非公式演劇サークル)に所属してからですね。
── 当時から劇作と演出を担当されていたんですか?
そうですね。その頃からほとんど脚本と演出しかやっていなくて、俳優は稀にやるぐらいです。
── そこから〈廃墟文藝部〉を立ち上げるに至った経緯というのは?
もともと作家になりたくて、今も小説を書いたりはするんですけど、演劇部だったら脚本とか書けるんじゃないか、ということで高校演劇に入ったら楽しくて。それで大学に入学してからも演劇を続けようと〈劇団バッカスの水族館〉に入って、脚本を書いていたんです。当時で30年ぐらいだったかな、バッカスはそれまでずっと、ほとんど創作脚本をやってきた歴史があったんですけど、僕のあと、誰も書きたくないみたいな感じになって脚本を書く人がいなくなっちゃったんですよ。それでちょっと責任に感じたのもあって、「まずは脚本じゃなくて、本を書いたり読んだりすることをみんなで楽しくやりませんか?」と提案して、バッカス内に「文藝部」を作って活動していたんですね。
 それで私が卒業したあとに、その時の「文藝部」のメンバーで一回お芝居を打ちませんか?っていうことを企画しまして。その時にたまたま廃ビルが借りられて、「文藝部」のメンバーで上演したから〈廃墟文藝部〉という名称になったというのが一応成り立ちになります。そこから団体として続ける意図も元々はなかったんですけど、まぁズルズルと(笑)。
廃墟文藝部 第6回本公演『サカシマ』(2019年11月)上演風景より
── 元々は1回限りのイベント的な感じで?
そんなつもりで始めて、ズルズルと10年。当時のメンバーも、私以外にはもう1人しかいません。
── その公演でやりきれなかったことがあったりして、続いていった感じですか?
趣味で書いている小説の作中で演劇が出てくるんですが、その演劇が結構面白いなと思っていて、それを上演してみたいというのがあったんですよ。ただ、長編のお芝居を打つのは結構大変なんで、団体を作ってすぐには出来なくて、1回イベントを打って、これでもうちょっと準備していけば、ちゃんと劇場を借りて長編が出来るかもしれない。じゃあそこまで頑張ってみるか、みたいな感じで。それが第1回公演の『MOON』という作品で、2014年だったと思います。旗揚げが2012年で、劇場で独立公演をやるまで1年半ぐらいかかりましたね。
この時の劇場が「G/pit」で、この公演で辞めるつもりだったんですけど、ご好評をいただいこともあってズルズルと。あと、《G/pitチャレンジフェスティバル》に参加していたんですけど、大賞が獲れなくて2位だったんですよ。それがあまりにも悔しくて…みたいなのもあった気がします。
── 今回の『残火』についてですが、6歳の頃にテレビの報道で見て衝撃を受けた「阪神・淡路大震災」のことをベースにして書かれたとか。
私はずっと愛知にいるので被災したわけではないんですけど、強烈に覚えている一番古いニュースが「阪神・淡路大震災」だったので、ちょっと書いてみたいなぁというのがあったんですね。野田秀樹さんが何かの台本の前書きで、「劇作家が経験した原風景」みたいなことに言及しているものがあるんですけど、私の世代の原風景…みんながわかる風景みたいなものをきちんと描きたいな、と。思い出せる限りの記憶で“原風景”というイメージがあるな、と思ったのが「阪神・淡路大震災」だったということですね。
『残火』稽古風景より
── このことを書いておかなくては、というような思いがあったんでしょうか?
感覚としては、何かひとつの事件を題材にしたいという意識は薄くて、どちらかというと「平成」というものを切りたかったんです。平成史を描くとなった時に、お芝居で描けるシーンは限られてくるので、どこをピックアップする?となると、やっぱり大きな天災のことだった、という感じが強いですね。
── 過去に何作か拝見した斜田さんの作品を思い返すと、いつもどこか死の気配が漂うような印象を受けています。それはご自身の中で物語を創る時に意識されていることだったりしますか?
毎作品そうだということではないんですけど、特に長編で死の匂いのする作品が多いんだと思います。意識的にそうしようと思っているわけではないんですけど、感覚として「死」はすごくずっと近くにある、というのがあって。そこはブラさない方がいいんじゃないかな、みたいなことを最近は思っていますね。
── 脚本を書かれる時は、役者へあて書きされるタイプですか?
私はもう完全にあて書きです。
『残火』稽古風景より
── 作品の構想とキャスティングはどのように決めていく感じですか。
構想は先にあるので、だいたいこれぐらいの年齢の、こういう性別の、こういうような関係性の人、っていうのを決めて、俳優を決めて、実際にセリフを書くのが俳優が決まった後、みたいなイメージですね。今回のキャスティングの段階では、作中で20~30年経とう、ぐらいのことしかなかったような気がします。子ども時代も大人時代もある物語を書こう、みたいのが元はあって、本当はクライムサスペンスみたいなものを書こうと思ってたんですよ。八代(将弥)さんと元山(未奈美)さんがすごい悪い奴で、二人で子どもの頃から大人になるまですごいいっぱい悪いことする「白夜行」(東野圭吾の小説)みたいなのを当初はやろうと思っていたんですけど、なんか真逆の役になりましたね(笑)。
── 音楽や映像などは内部スタッフや、いつも一緒にやっていらっしゃる固定メンバーなんですよね。
本公演はほとんどそうですね。1回目だけ違うんですけど、1回目と2回目の間で大きな体制変更があって、1回目の後にようやくちゃんと劇団になったみたいな感じで、第弍回本公演『慾望ノ華』(2015年8月)以降は、ほぼ同じメンバーです。
── 舞台美術については、斜田さんがイメージを決めてオーダーする感じですか?
話し合いですね。舞台美術は舞台美術のプランナーが別におりますので相談しながら決めているっていう感じです。あんまりどっちが主体かっていうこともないかなぁと思います。うちの場合は全スタッフワークがそうですね。特に音楽と映像が劇団内なので、こちらから依頼指示して創る、みたいなことではなく、お互いに「何やりたい?」みたいな感じで創っています。
── 今年で劇団創立10周年ということですが、今回の作品は10周年を意識して書かれたものなのでしょうか?
当初は2021年9月に上演予定だったものを延期したので、10周年を意識した作品というわけではないです。本来は今年の7月でやっと10年なので、まだちょっと早いんですよ。コロナの状況次第なので絶対にやりますとは言えないんですけど、『残火』とは別に〈廃墟文藝部〉として、7月頃に何か10周年の企画イベントはやりたいかな、というのは現状では思っています。
『残火』稽古風景より
── 10周年以降、今後こういう作品を創っていきたい、などの展望があれば教えてください。
本当にフワッとした話で、何も責任が取れない話になっちゃいますけど、『残火』を3部作にしようかな、と勝手に思ってるんです。『残火』は「平成」のことを書いたので、来年は「令和」をやろうかなって。
── 早くも(笑)。
早くも令和の5~6年だけやろうかな、って思ってて(笑)。演劇って、4~5年ぐらいの大きい時間の転換だとなんか観やすいなと思ってるんです。1年1回、1年1演目みたいな感じで。作中に経つ時間としては、4~5年って一番楽なんじゃないかな、と。たぶん「令和」のことをやると絶対にコロナことを書かないといけないので、今回、残る火で『残火』ですけど、残る禍い、と書いて『残禍』っていう。
── なるほど。読みは同じで。
それを書いてさらに翌年、「令和」を書きたくなかったら飛んでこれをやるかもしれないんですけど、次の元号を勝手に作って、令和は30年でまた譲位されました、みたいなことに勝手にしちゃって、新しい元号の一日目から始める未来編をやるのってどうですか?ってちょっと思ってて(笑)。
── 面白そうですね。
勝手に3年ぐらいかけて3部作やれないかなぁっていうのは、今何も責任取らずに言える一番面白い話です(笑)。
── 今後の展開も楽しみですが、ひとまず今回の『残火』について、他にアピールしたい点などあれば。
特にここを観て欲しい、とか、ここが売り、みたいなことはないんですけど、ただ作品がきちんとバランス良く創れている手応えがあるというか、全体的にちゃんとやれてるような気がするので自信はあります。それをちゃんと表現してくれるメンツと一緒に創った作品なので、たくさんの方に観に来てほしいですね。
廃墟文藝部『残火』チラシ裏

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