森山直太朗ら実力派シンガーが集結 
『母に感謝のコンサート』初の東京公
演を振り返る

Happy Mother’ s Day! ~母に感謝のコンサート2022 in TOKYO〜

2022.5.8 LINE CUBE SHIBUYA
5月の第二日曜日、この世界の全ての母親に感謝の思いを込めて、音楽の花束を贈ろう――。2007年に大阪で始まり、大人気イベントとして定着した『母に感謝のコンサート』の初めての東京公演となる『Happy Mother’ s Day! ~母に感謝のコンサート2022 in TOKYO〜』が、LINE CUBE SHIBUYAで開催された。昨年予定されていた公演はコロナ禍のため中止となってしまったが、公演への期待値は下がるどころか上がり続けた。満員の観客と豪華出演者による1年越しの熱い思いを乗せた特別なコンサート、いよいよ開幕。
私たちはみんな「お母さん」の子供たち――オープニングは、ストーリーテラーを務める内田也哉子による素敵なエッセイの朗読と、共に司会進行を務める森山直太朗との軽妙なトークから。彼女の母親・樹木希林と、父親・内田裕也との出会いは、直太朗の母親・森山良子のいとこにあたるかまやつひろしがきっかけだったという、良くできた物語のようでそれは本当の話。それにしても也哉子さん、声や雰囲気がますます母親に似てきたようで、彼女の存在そのものが母親への感謝ではないかとしみじみ思う。
それでは最初のチャレンジャーを紹介します。――直太朗の明るい声で呼び込まれたのは、シンガーソングライターの川崎鷹也だ。「魔法の絨毯」がサブスク/ダウンロードチャートやSNSで爆発的ヒットを記録した新進シンガーは、その「魔法の絨毯」をはじめ、「君の為のキミノウタ」「ぼくのきもち」「拝啓、ひまわり」の3曲をアコースティックギターの弾き語りと、コンサートのオフィシャルピアニストである桑原あい、須原杏ストリングスの弦楽四重奏を加えて凛々しく歌う。
「自分の歌は全て誰かに向けて書いたもの」という言葉の通り、「ぼくのきもち」は子供への思いを子供の目線でみずみずしく描き出し、「拝啓、ひまわり」は母親への感謝の気持ちをストレートに綴る。歌声は太く強く朗々と、時に穏やかに時に激情に揺れ動くエモーショナルなもので、言葉の力が胸にずしりと沁みとおる。歌い終えての内田、森山、川崎の3人トークコーナーで披露した、音楽を学ぶために地元・栃木から上京する際の母親との素敵なエピソードからも、感情の起伏に忠実な性格が母親譲りであることがよくわかる。直太朗とは違う意味で古き良きフォークシンガーの面影を色濃く残す、まだまだ若い26歳。これからがさらに楽しみな存在だ。
二番手に登場した半﨑美子は、デビュー5年のシンガーソングライターというと初々しく感じるが、実はそれ以前にも十数年にわたってショッピングモールなどを中心に地道に歌い続けてきた、知る人ぞ知る苦労人。しかしその歌声に翳りや屈折は一切なく、どこまでも豊かでソウルフル、輝くような歌声で聴き手を魅了する。ピアノの弾き語りで披露した「母へ」はまるで少女時代の彼女と母親との自伝のようで、「NHKみんなのうた」に使用された「お弁当ばこのうた~あなたへのお手紙~」、そして「サクラ~卒業できなかった君へ~」も、語り言葉のような飾らない言葉使いで大切な思いをまっすぐに届ける。
ハンドマイクで笑顔いっぱい、体全体を使う歌い方は歌のおねえさんのようでもあり、ピアノと弦楽四重奏をバックに歌う姿は大人のジャズシンガーのようでもある、多面的な魅力をたたえた人。そして5周年記念曲「蜉蝣のうた」では、楽曲提供者である森山直太朗との共演が実現し、直太朗のアコースティックギターとコーラスと共に息の合ったパフォーマンスを見せてくれた。トークコーナーでもその朴訥で飾らない性格そのままに、母親にはいつも「ありがとう」と言える関係ですと笑顔で語る。歌も心もピュアでまっすぐ、初めて聴く人の心をもぎゅっとつかむ人間力が素晴らしい。
そのキャリアの長さとヒット曲の多さにも関わらず、意外なほどに謙虚な物腰と初々しい緊張感を身にまとって登場したのは、三番手の中島美嘉だ。しかしひとたび歌い出せばその場の空気を一変させる迫力ある歌声で、激しく身を震わせながら劇的な感情を表現する、舞台女優のようなパフォーマーとしての吸引力は圧倒的。ピアニストの河野伸の繊細な演奏をバックに、大ヒットナンバーの「雪の華」を歌い、『ザ・ノンフィクション』テーマ曲のカバー「サンサーラ」、オリジナル曲「僕が死のうと思ったのは」、忌野清志郎のカバー「JUMP」を歌う、4曲のセットリストに込めた強烈なメッセージが胸に突き刺さる。
特に「衝撃的な歌詞ですけど最後まで聴いていただければストーリーがわかると思います」と前置きして歌った「僕が死のうと思ったのは」の、死の側から生の尊さを見つめ直す歌の説得力は、初めて聴く人にも忘れられない印象を残したはずだ。そんな鬼気迫るパフォーマンスを見せる一方で、「JUMP」ではぴょんぴょん飛び跳ねながら手拍子をうながして盛り上げ、トークコーナーでは直太朗にリードされて「母のおにぎり」についてほっこり優しいエピソードを披露する。エキセントリックな側面と柔らかい親しみやすさの側面の両方を自然にさらけだす、中島美嘉はやはり唯一無二のシンガーだ。
ここまでシンガーたちを支えてきたピアニストの桑原あいが主役に転じ、チャップリン作曲のスタンダード曲「スマイル」をジャズ仕込みの素晴らしい技巧でロマンチックに奏でると、コンサートはいよいよ終盤のクライマックスへ。
同じく司会進行から主役へ転じた森山直太朗がアコースティックギターの弾き語りで「さくら」を、弾き語りとストリングスをバックに「声」を、凛とした立ち姿と透明感あふれる歌声でまずは2曲を披露する。「あなたが私と同じ道(職業)を選んでくれて良かった。この歳になって、まだまだ負けないわよ、という気持ちを持って歌い続ける動機ができたから。本当にありがとうね」という、かつて母親から言われたというエピソードがとても微笑ましく聞こえる。
さらに、ピアノとストリングスがご機嫌なスウィングジャズを奏でる「すぐそこにNEW DAYS」で、ミュージカル俳優のような溌剌としたパフォーマンスを披露したかと思えば、厳かなクラシックや静謐なアンビエント音楽の香り高い「素晴らしい世界」では、苦難や争いの絶えないこの世界を丸ごと肯定してみせる、アーティストとしての深みは圧巻のひとこと。「これからも、幸せの在り方をその背中で教えてくれたら」という、母の日にふさわしいメッセージが胸に沁みる。この母にしてこの子あり、生き方と音楽はこうして受け継がれてゆく。
四者四様、それぞれの思う「母」「子」「家族」への思いを奏で合った時間を締めくくる、全員参加のフィナーレを飾る1曲は「今日の日はさようなら」だった。かつて森山良子が歌って時代を超えるスタンダードとなったこの曲を、その子供世代の5人が受け継いで美しいハーモニーを重ねる。マスク着用で声を出せない観客のために、ハミングでの参加を呼びかけ、静かだが力強いハミングが会場いっぱいに響き渡る。3時間のボリュームを忘れさせる素敵なエンディングをもって、初の東京公演となった『Happy Mother’ s Day~母に感謝のコンサート2022 in TOKYO〜』は幕を下ろした。
普段は照れてしまって言えなくとも、1年に1度だけでも母親に感謝の思いを伝えられる特別な日。そして母親に感謝の思いを込めた音楽の花束を持ち寄って、観客同士が元気に再会する日。そんな日が、来年も再来年もその先もずっと平和の中で存在し続けられますように。今日の日はさようなら、またあう日まで――。

文=宮本英夫 撮影=風間大洋

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